DRAMのメモリモジュール規格「DIMM」に代わる「CAMM」が採用され始めている。CAMMはDIMMとは何が違うのか。メモリモジュール進化の変遷を踏まえて解説する。
メインメモリとして使われるメモリの一種「DRAM」(Dynamic Random Access Memory)に採用されてきたメモリモジュール規格といえば「DIMM」(Dual Inline Memory Module)だ。それに取って代わるメモリモジュール規格として、「CAMM」(Compression Attached Memory Module)が台頭している。CAMMに置き換わることで何が決定的に変わるのか。
DIMMがまだ新しい技術に取って代わられていないのは、少々驚きだ。DIMMは、コンピュータ会社Wang Laboratoriesが1980年代に発明したメモリモジュール規格「SIMM」(Single Inline Memory Module)の後継として、1990年代に開発された規格だ。
CAMMが開発された背景を理解するには、そもそもDIMMが開発された背景を知る必要がある。まず、SIMMのアイデアの新しさはメモリを搭載した小型のドーターボード(メモリモジュール)をマザーボードに取り付けることで、1枚の大きな基板上にシステムを構築できるようにしたことにあった。メモリの搭載容量は、ニーズに応じて変えることができた。
SIMMの後継としてDIMMが開発された当時、Intelのプロセッサ「Pentium」のバス(データ伝送路)が64bitに拡張されたことでバスが32bitのSIMMでは1枚で64bitのデータをやりとりできず、同等のSIMMを2枚1組で使用しなければならなくなった。そこでSIMMを2枚1組で使用しなくても済むように、コネクターを拡張し、ドーターボードの表と裏両方に信号ピンを配置して、それぞれ別々の信号の入出力をするDIMMが開発されたのだ。そのDIMMの代替として登場してきたのがCAMMだ。
DIMMが開発された当初、信号強度や容量負荷(メモリ容量が大きくなるほど増える処理の負荷)は、設計上の大きな考慮事項ではなかった。コネクターに関しても、Wang LaboratoriesがSIMMを考案するよりかなり前に標準化されたものを踏襲している。1980年代またはそれ以前の遺物であるSIMMの形状は、信号経路の長さやコネクターの電気容量を考慮して設計されていなかった。CAMMは、これらの問題に対処している。
CAMMにおいては、DRAMとコネクター間の信号経路長が最小化されている。信号線が短いため、信号線が長いDIMMよりも信号完全性が向上している。CAMMのコネクターは、DIMMが採用しているような「カードエッジコネクター」ではなく、多数の電極パッドを格子状に並べたものであり、これにCAMMをねじで圧着させる仕組みとなっている。それがCAMM規格の名称の「Compression」の由来となっている。
CAMMのコネクターは、カードエッジコネクターよりも静電容量と抵抗が小さく、そのために高い周波数での性能が向上する。これは信号完全性の向上につながる他、CAMMとCPU間のバス転送周波数を高める可能性もある。
信号完全性の向上と信号経路長の短縮により、信号線の動作に必要な電力が低減されるのもCAMMの特長だ。CAMMは、DIMMよりも省電力性に優れている。
開発者は、CAMMをマザーボードに平行に取り付けるように設計しており、マザーボード上のCAMMの占有スペースは、側面をソケットに差し込むDIMMの場合よりも高さが低い。CAMMはほとんどの用途で省スペースになる。
2024年現在、CAMMのメモリモジュールはまだあまり使われていない。ただしその状況は、間もなく変わる可能性がある。この規格の生みの親であるDell Technologiesは、いち早く同社製ノートPCでのCAMM採用を開始している。
CAMMは当面の間、主にノートPCでの採用が進みそうだ。Dellの競合ベンダーが、CAMM搭載の動きに追随し始めているからだ。米国の電子部品関連の標準化団体であるJEDECは、CAMM規格の普及を促進するため、CAMMの第2世代となる「CAMM2」を策定済みだ。
主要なDRAMベンダーは、メインメモリとして使われるメモリの一種「SDRAM」(Synchronous Dynamic Random Access Memory)の派生規格である「LPDDR5」および「LPDDR5X」用のCAMM2を既に発表している。LPDDR5とLPDDR5Xはそれぞれ、SDRAMの省電力版の規格である「LPDDR」(Low-Power Double Data Rate)の第5世代と、その改良版を指す。
CAMMは信号完全性(信号送受信の際にデータを誤りなく正確に伝送する特性)などのメリットがあることから、いずれはPCにとどまらず、サーバの用途でも使用されるようになると考えられる。
PCベンダーとしては、CAMMを考案したDellがCAMMの事業化をけん引している。CAMMはDellの複数のPCに搭載されている。Dell以外では、LenovoがLPDDR5XでCAMM2を採用した薄型軽量PCを発表している他、Micro-Star International(MSI)もCAMM2準拠のPCを発表している。
メモリベンダーとしては、Samsung Electronicsや、SK hynix、Micron TechnologyなどがCAMMのメモリモジュールを製造している。今後は他のベンダーもCAMMのメモリモジュールを投入すると予測される。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
HDDの容量が30TB超になると同時に、ストレージ技術はさまざまな進化を続けている。そうした中でもインタフェースに「SATA」(Serial ATA)を採用したHDDが変わらずに使われ続けている。なぜなのか。
カラオケ業界が直面するデータ増に対応すべく多くのストレージを試し続けた結果、4社27台の製品のメンテナンスに悩まされていたエクシング。この問題を解消すべく、同社は大容量かつコスト削減効果に優れた、新たなストレージを導入した。
メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。
ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。
長年にわたり強力かつ安全な基盤であり続けてきたメインフレームシステム。しかし今では、クラウド戦略におけるボトルネックとなりつつある。ボトルネックの解消に向け、メインフレームを段階的にモダナイズするアプローチを解説する。
クラウド全盛期になぜ「テープ」が再注目? データ管理の最前線を探る (2025/4/24)
データの多様化と肥大化が加速 ファイルサーバ運用は限界? 見直しのポイント (2025/4/8)
Hyper-Vは「次の仮想化基盤」になり得るのか 有識者の本音を聞く (2025/3/14)
「生成AI」の自社運用に“ちょうどよいサーバ”の賢い選び方 (2025/3/12)
クラウドストレージは便利だけど検索性が課題? 東急建設の解決策は (2025/2/25)
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。