Intel×AMDの牙城崩壊? 見えてきた「x86時代の終わり」PCやスマホに影響?

IntelとAMDが結ぶ「x86同盟」。これはハードウェアとソフトウェアの互換性向上に主眼を置くものだが、その背景には、両社にとってはNVIDIAが躍進してきた以上に穏やかではない勢力図の変化がある。

2024年12月13日 08時00分 公開
[Adam ArmstrongTechTarget]

関連キーワード

x86 | Intel(インテル) | AMD | CPU


 半導体ベンダーのIntelとAdvanced Micro Devices(AMD)は、x86(IntelのCPUが起源の命令セットアーキテクチャ)の関連企業で結成する団体「x86 Ecosystem Advisory Group」を、2024年10月に立ち上げた。この団体は、x86プロセッサを使ったシステムにおける互換性向上を目的の一つにするものだが、ここにきて“x86同盟”を組む狙いはどこにあるのか。業界関係者が指摘するのは、半導体業界における勢力図の変化だ。

x86時代を終わらせる“刺客”

会員登録(無料)が必要です

 Intelは1978年にx86を開発し、後にライセンスをAMDに供与した。これによりAMDはx86チップの製造と販売を手掛けるようになった。だが同じx86であっても、互換性が完全に保証されているわけではない。

 「Intel製のプロセッサなのかAMD製のプロセッサなのかに関係なく、双方のシステムで全てのアプリケーションを問題なく実行できるのかという問い合わせがよくある」。調査会社J.Gold Associatesの創設者でありプリンシパルアナリストであるジャック・ゴールド氏はそう話す。x86 Ecosystem Advisory Groupが目指すのは、そうした問い合わせに対して「できる」と言い切れるようにすることだ。

 x86 Ecosystem Advisory Groupの創設メンバーには、以下のITベンダーが名を連ねている。

  • Broadcom
  • Dell Technologies
  • Google
  • HPE(Hewlett Packard Enterprise)
  • HP
  • Lenovo
  • Microsoft
  • Oracle
  • Red Hat

ライバルはNVIDIAではなくArm

 IntelとAMDがここにきて徒党を組む背景には、プロセッサ市場での勢力図の変化がある。AI(人工知能)技術のニーズが高まる今、名実ともにプロセッサ市場をけん引しているのはNVIDIAだ。ただし業界の専門家は、x86 Ecosystem Advisory Groupの目的はNVIDIAに対抗することではなく、むしろArmの勢力拡大に対抗するものだとみている。

 「x86は守勢に回っているが、そのプレッシャーをかけているのはNVIDIAではなくArmだ」。調査会社Futurum Group傘下のThe CTO Advisorの社長を務めるキース・タウンゼンド氏はそう語る。“NVIDIAではなくArm”が意味するのは、x86 Ecosystem Advisory Groupの焦点はAI向けのプロセッサではなく、より普遍的に使われるプロセッサに当たっているということだ。

 Armの勢力拡大の一例として、調査会社Futurum Groupのアナリストであるラス・フェローズ氏は、複数のクラウドベンダーが独自のArmプロセッサ(Armが設計したアーキテクチャを採用したプロセッサ)を開発し、使用している。

 Appleは「Apple M1」など自社開発のArmプロセッサ「Apple M」シリーズを、クライアントデバイス「Mac」シリーズに搭載しているし、GoogleのOS「ChromeOS」を搭載するクライアントデバイス「Chromebook」でもArmプロセッサが使われている。スマートフォンやPCの分野で、Armの勢力は拡大しているのだ。「Armの勢いはさまざまな分野で明らかに増している」とフェローズ氏は語る。

 ゴールド氏によると、Armプロセッサは企業向け市場ではほとんど存在感がないものの、大規模なデータセンターを運営するハイパースケーラーの市場ではよく使われている。Amazon Web Services(AWS)やGoogle、Microsoft、Oracleなどのクラウドベンダーは、自社のクラウドサービス向けの独自のArmプロセッサを開発している。

 大手クラウドベンダーがArmベースの独自プロセッサを採用する背景には何があるのか。「Armがアーキテクチャをライセンス供与し、それぞれの企業での自社開発を促していることだ」と、ゴールド氏は語る。

x86同盟のメリット

 ゴールド氏によると、AMD製プロセッサで構築されたアプリケーションをIntel製プロセッサのシステムで実行する場合、あるいは逆の場合には、アプリケーション側の変更が必要になることがある。そうした調整作業が完全になくなることは、エンドユーザーにとっても開発者にとっても朗報だ。

 IntelはOEM(相手先ブランド製造)市場で支配的な立場を保持している。例えばDell Technologiesのサーバ製品を見ると、Intel製プロセッサを搭載したサーバは豊富だが、AMD製プロセッサを搭載したサーバはまだ豊富ではない。

 IntelとAMDが提携することで相互運用性の全ての問題が解決するわけではないが、幾つかの問題は解決できるはずだ。「Intel製とAMD製プロセッサを搭載したサーバを併用している企業は、システム環境全体で運用モデルに一貫性を持たせることができる」と同氏は語る。

Intelの課題と今後の競争

 IntelはAIアクセラレーター(AIの処理を高速化するために設計されたハードウェアまたはソフトウェアの)市場でもNVIDIAに対して劣勢であり、時価総額でAMDにも抜かれている。2024年8月には全従業員の約15%、約1万5000人のレイオフ(一時解雇)計画を発表した。2024年12月には、パット・ゲルシンガー元CEOが退任する結果になった。

 とはいえ業界の専門家らは、x86 Ecosystem Advisory Groupの設立と、Intelの財務問題に直接的な関係はないとみている。「顧客企業が長期にわたって何を求めているのかがより根本的な問題だ」(タウンゼンド氏)

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?

SSDの大容量化や価格競争力の向上により、「SSDオンリー」という選択肢が現実味を帯びつつある。しかし、HDDが完全に不要になるとは断言できない。その理由は何か。

製品資料 JBCC株式会社

ファイルサーバのクラウド移行は今が好機か、最適な移行先を選ぶヒント

昨今は企業で扱うデータが増加傾向にある上、働き方の変化などにも対応する必要性から、オンプレミスのファイルサーバをクラウドに移行する企業が増えている。そこで、移行先を選ぶポイントやセキュリティ対策について、動画で解説する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

ECシステムのデータ急増やI/O性能低下などの問題を解消したストレージとは?

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

事例 レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社

大阪回生病院が新たな仮想化基盤となるHCIに求めた要件とは?

職員700人が利用する部門システムの刷新を決断した大阪回生病院では、運用のシンプル化に期待して、HCIの導入を検討する。同病院がHCIに求めた要件とは何か。そして、この大規模移行プロジェクトを成功裏に完了できた理由に迫る。

市場調査・トレンド プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

クラウド戦略の障壁となるメインフレームシステム、段階的にモダナイズするには

長年にわたり強力かつ安全な基盤であり続けてきたメインフレームシステム。しかし今では、クラウド戦略におけるボトルネックとなりつつある。ボトルネックの解消に向け、メインフレームを段階的にモダナイズするアプローチを解説する。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news253.jpg

「AIエージェント」はデジタルマーケティングをどう高度化するのか
電通デジタルはAIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI」の大型アップ...

news163.jpg

「政府」「メディア」への信頼度は日本が最低 どうしてこうなった?
「信頼」に関する年次消費者意識調査の結果から、日本においても社会的な不満・憤りが大...