「HDD待望の30TB超え」を素直に喜べない理由とは?大容量HDDが出荷開始【前編】

コスト効率よく大量のデータを保存するためのストレージとして広く使われているHDD。その容量は、最新モデルでは30TB超の領域に突入している。この進化には注意して評価しなければならない点もある。

2024年12月22日 08時00分 公開
[Adam ArmstrongTechTarget]

 HDDベンダーはさまざまな工夫を凝らして容量増大を続けており、本稿で紹介するような特定の技術を採用したHDD新モデルは、容量30TB超の領域に突入している。これはエンドユーザーや企業にとっては総じて喜ばしい進化だと言えるが、必ずしも手放しでは歓迎できない事情もある。実際に出荷が始まっているHDD新モデルを例に現状を見てみよう。

「30TB超えHDD」を素直に喜べないのはなぜか

 HDDベンダーの一社であるWestern Digitalは2024年10月、容量32TBの「Ultrastar DC HC690」の出荷を開始した。Ultrastar DC HC690は書き込み方式として「SMR」(Shingled Magnetic Recording:シングル磁気記録)を採用している。

 SMRは、プラッタ(円盤状の記録媒体)を同心円状に区切った記録領域である「トラック」を、屋根瓦のようにして一部を重ね合わせて配置する方式。トラックを重ね合わせずに配置する従来の書き込み方式「CMR」(Conventional Magnetic Recording:従来型磁気記録)よりも、プラッタ当たりの記録密度が向上するメリットが見込める。

 Western DigitalはCMRで容量26TBを実現した「Ultrastar DC HC590」と、「WD Gold」の容量26TBのモデルについても新たに出荷を開始している。Ultrastar DC HC690を含めて、Western Digitalの3つのHDD新モデルはプラッタを11枚に増やしている。

 プラッタを増やすことはHDD容量増大のための一つのアプローチだが、HDDベンダーが着目しているのはそれだけではない。調査会社TRENDFOCUSのアナリストであるジョン・チェン氏は、HDDベンダーは引き続き「面記録密度」(プラッタにおける1平方インチ当たりの保存容量)を向上させる方法を模索している。例えば以下の技術がある。

  • SMR
    • トラックを重ね合わせて配置することでプラッタ当たりの記録密度を高める。上述の通りUltrastar DC HC690に使われている。
  • ePMR
    • 書き込み時に電流を加えることによってトラック当たりの記録密度を高める「エネルギーアシスト垂直磁気記録方式」(ePMR)。Ultrastar DC HC690に使われている。
  • HAMR
    • 書き込み時にレーザー過熱によってトラック当たりの記録密度を高める「HAMR」(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録方式)。Seagate Technologyが実用化している。

SMRの落とし穴

 Western DigitalがUltrastar DC HC690に採用したSMRは記録密度の向上につながる一方、書き込みの動作に関しては注意が必要だ。例えば、SMRでは1つのトラックを書き換える場合に周辺のトラックの書き直しが必要になることがあるため、ランダムな位置に書き込まれたデータを書き換える際には書き込み速度が遅くなる。

 そうした注意点はあるものの、「使用する用途を見極めればSMRには十分にメリットが見込める」と、調査会社IDCのアナリストであるエド・バーンズ氏は語る。特にSMRは、大規模なデータセンターを運営するハイパースケーラーの市場で導入が進んでいるという。

 SMRは連続した位置にデータを書き込むシーケンシャル書き込みではデータ保存のコスト効率が良くなると期待できるため、データの長期保存やバックアップに向いていると言える。


 次回は、HDDのインタフェースとして「SATA」(Serial ATA)を採用したHDD新製品のニーズを掘り下げる。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

製品資料 プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

データソート性能向上でここまで変わる、メインフレームのシステム効率アップ術

メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

従来ストレージの約8倍の容量を確保、エルテックスが採用したストレージとは

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

空冷だけではなぜ不十分? データセンターの熱負荷対策をどうする

CPUやGPUの性能向上に伴い、データセンターでは今、発熱量の増加にどう対応するかが課題となっている。特に高密度なサーバ環境では、従来のファンやヒートシンクに頼るだけでは熱管理が難しい。こうした中、企業が採用すべき手段とは?

比較資料 アイティメディア広告企画

ユーザーレビューで徹底比較、オンラインストレージ選定ガイド【2025年冬版】

オンラインストレージは幅広い用途で利用されるだけに、市場に提供される製品も多数に上る。最適なサービスを選定するための基礎知識を解説するとともに、ユーザーレビューから分かったサービスの違いを明らかにする。

製品資料 Dropbox Japan株式会社

ファイルサーバをアウトソーシング、「クラウドストレージサービス」の実力

中堅・中小企業の中には、IT担当者が社内に1~3人しかいないという企業も少なくない。そのような状況でも幅広い業務に対応しなければならないIT担当者の負担を減らす上では、ファイルサーバをアウトソーシングすることも有効だ。

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

郢ァ�「郢ァ�ッ郢ァ�サ郢ァ�ケ郢晢スゥ郢晢スウ郢ァ�ュ郢晢スウ郢ァ�ー

2025/04/17 UPDATE

  1. 邵イ譬猶v6邵イ髦ェ�定崕�ゥ騾包スィ邵コ蜷カ�狗クコ�ェ郢ァ蟲ィ��ケァ蠕娯味邵コ莉」�ス驕擾ス・邵コ�」邵コ�ヲ邵コ鄙ォ窶ウ邵コ貅假シ樒ケァ�ウ郢晄ァュホヲ郢晏ウィホ懃ケァ�ケ郢晢ソス
  2. 邵イ遯欷S Outposts邵イ髦ェ�ス5G郢ァ蛛オ竊千クコ�ス�、蟲ィ竏エ郢ァ荵晢ソス邵コ蜈キ�シ�ス
  3. 邵イ蠕後Ο郢晢ソス繝ィ郢晢スッ郢晢スシ郢ァ�ッ邵コ�ョ鬮ア�「騾具スス邵コ霈板€髦ェ�堤クコ�ゥ邵コ�ス�シ譏エ竏エ郢ァ蜈キ�シ貅伉€ツ€陷磯メ�シ�ゥ郢ァ�ィ郢晢スウ郢ァ�ク郢昜ケ昴>邵コ�ョ隴趣スョ陷ソ鬆托スエ�サ陷崎シ披�邵コ�ッ
  4. Windows 11邵コ�ァ邵イ蠕後Ο郢晢ソス繝ィ郢晢スッ郢晢スシ郢ァ�ッ邵コ遒�€豕鯉ソス郢ァ蠕鯉ス狗クイ髦ェ�ス邵コ�ッ遯カ諛岩旺邵コ�ョ郢晢ソス繝ー郢ァ�、郢ァ�ケ遯カ譏エ窶イ陷エ貅キ螻擾ソス�ス
  5. 鬨セ螢サ�ソ�。郢ァ�、郢晢スウ郢晁シ釆帷ケァ雋橸スシ�キ陋ケ謔カ笘�ケァ荵昶�郢ァ�ス4G邵コ�ァ郢ァ�ス5G邵コ�ァ郢ァ繧��邵コ荳環€迹夲ス。蟶カ蠑碁ィセ螢サ�ソ�。邵イ謳セ�シ貅伉€ツ€邵コ譏エ�ス髫ェ�ウ邵コ�ィ邵コ�ッ
  6. 邵イ譬猶v6邵イ髦ェ竏育クコ�ョ驕假スサ髯ヲ蠕娯€イ陟「�ス�ヲ竏壺�邵コ�ョ邵コ�ッ邵コ�ェ邵コ諛カ�シ貅伉€ツ€邵イ譬猶v4邵イ髦ェ�ス闖エ霈披€イ鬯ァ�ス蟯シ邵コ�ェ邵コ�ョ邵コ蜈キ�シ�ス
  7. SNS邵コ�ョ邵イ蠕後Ο郢晢ソス繝ィ郢晢スッ郢晢スシ郢ァ�ッ郢ァ�ィ郢晢スウ郢ァ�ク郢昜ケ昴>郢晢スェ郢晢スウ郢ァ�ー郢ァ雋橸ソス邵コ�ウ郢ァ�ッ郢晢スシ郢晢スォ邵コ�ォ邵イ蝓シツー陷崎シ披€イ邵イ竏晢スョ貅假ソス陋サ�ス�ョ貅倪�騾�ソス鄂ー
  8. 邵イ蠕鯉ソス郢晢スゥ郢ァ�、郢晏生�ス郢晢ソス5G邵イ髦ェ�堤ケ晢スヲ郢晢スシ郢ァ�カ郢晢スシ邵コ遒≫�邵コ�ー邵コ�ェ邵コ�ス謔ス陟冶侭�ス騾�ソス鄂ー
  9. 邵イ驛。NMP邵イ髦ェ竊堤クイ蜊ヲelemetry邵イ髦ェ�ス闖エ霈披€イ鬩戊シ披鴬�ス貅伉€ツ€闖エ�ソ邵コ�ス�ス邵コ莉」�ス郢晄亢縺�ケ晢スウ郢晏現竊堤クコ�ッ
  10. 邵イ逾 ̄N郢晏干ホ溽ケ晏現縺慕ケ晢スォ邵イ�ス5驕橸スョ邵コ�ョ鬩戊シ費シ樒クイツ€邵コ繧�ソス陞ウ螟ょ�邵コ荵晢ス臥ェカ諞コ�ォ蛟ャツ€谺クPN遯カ譏エ�ス隴�スー隰堋€髯ヲ阮吮穐邵コ�ァ

「HDD待望の30TB超え」を素直に喜べない理由とは?:大容量HDDが出荷開始【前編】 - TechTargetジャパン サーバ&ストレージ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。