コスト効率よく大量のデータを保存するためのストレージとして広く使われているHDD。その容量は、最新モデルでは30TB超の領域に突入している。この進化には注意して評価しなければならない点もある。
HDDベンダーはさまざまな工夫を凝らして容量増大を続けており、本稿で紹介するような特定の技術を採用したHDD新モデルは、容量30TB超の領域に突入している。これはエンドユーザーや企業にとっては総じて喜ばしい進化だと言えるが、必ずしも手放しでは歓迎できない事情もある。実際に出荷が始まっているHDD新モデルを例に現状を見てみよう。
HDDベンダーの一社であるWestern Digitalは2024年10月、容量32TBの「Ultrastar DC HC690」の出荷を開始した。Ultrastar DC HC690は書き込み方式として「SMR」(Shingled Magnetic Recording:シングル磁気記録)を採用している。
SMRは、プラッタ(円盤状の記録媒体)を同心円状に区切った記録領域である「トラック」を、屋根瓦のようにして一部を重ね合わせて配置する方式。トラックを重ね合わせずに配置する従来の書き込み方式「CMR」(Conventional Magnetic Recording:従来型磁気記録)よりも、プラッタ当たりの記録密度が向上するメリットが見込める。
Western DigitalはCMRで容量26TBを実現した「Ultrastar DC HC590」と、「WD Gold」の容量26TBのモデルについても新たに出荷を開始している。Ultrastar DC HC690を含めて、Western Digitalの3つのHDD新モデルはプラッタを11枚に増やしている。
プラッタを増やすことはHDD容量増大のための一つのアプローチだが、HDDベンダーが着目しているのはそれだけではない。調査会社TRENDFOCUSのアナリストであるジョン・チェン氏は、HDDベンダーは引き続き「面記録密度」(プラッタにおける1平方インチ当たりの保存容量)を向上させる方法を模索している。例えば以下の技術がある。
Western DigitalがUltrastar DC HC690に採用したSMRは記録密度の向上につながる一方、書き込みの動作に関しては注意が必要だ。例えば、SMRでは1つのトラックを書き換える場合に周辺のトラックの書き直しが必要になることがあるため、ランダムな位置に書き込まれたデータを書き換える際には書き込み速度が遅くなる。
そうした注意点はあるものの、「使用する用途を見極めればSMRには十分にメリットが見込める」と、調査会社IDCのアナリストであるエド・バーンズ氏は語る。特にSMRは、大規模なデータセンターを運営するハイパースケーラーの市場で導入が進んでいるという。
SMRは連続した位置にデータを書き込むシーケンシャル書き込みではデータ保存のコスト効率が良くなると期待できるため、データの長期保存やバックアップに向いていると言える。
次回は、HDDのインタフェースとして「SATA」(Serial ATA)を採用したHDD新製品のニーズを掘り下げる。
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