キーワードは「EVP」 IT人材にとって“本当に働きやすい会社”を目指すには?多様な人材を定着させるには【後編】

人材の流動が激しいと言われるIT業界で、2025年も労働人口の動きが活発化する見通しだ。従業員の満足度を高め、定着率の向上につなげるための施策にはどのようなものがあるのか。専門家の声を基に紹介する。

2025年03月14日 06時00分 公開
[Cath EverettTechTarget]

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 IT業界では、慢性的な人手不足や従業員の定着しにくさが課題となっている。一方、IT人材コンサルティング企業BIE Executivesでテクノロジー部門シニアディレクターを務めるマシュー・ウィップ氏は、2025年には労働人口の確保は厳しい状況になると予測する。ウィップ氏によると、2023年から2024年にかけて、労働市場は停滞し、企業は財務的な圧力から人材の獲得を控えていた。そのため転職する人材は限定的だったものの、2024年9月と10月に求人数は増加し、労働市場は改善の兆しを見せている。

 労働市場の動向を踏まえると、現状に満足していない従業員は「2025年に新しい転職機会を探すか、少なくともそうした機会に対してより前向きになる可能性がある」とウィップ氏は予測する。労働人口の動きが活発化する可能性がある中、企業はどのような対策を取ればいいのか。

人材流出を防ぐための施策とは

 慢性的な人手不足や人材の定着に課題を抱えるIT業界において、企業の中には、資格取得の補助制度や充実した福利厚生などを通じて従業員に提供する価値(EVP:Employee Value Proposition)の向上に注力しているところがある。ところが、2024年9月に調査会社Gartnerが公開した調査結果によると、自社がEVPの向上に適切に取り組んでいると考える従業員は調査対象の33%にとどまる。この結果は、従業員1300人に調査を実施した結果に基づく。

 「EVPに関して、『これを提供すれば従業員が定着する』という魔法のリストは存在しない」。Gartnerでシニアプリンシパルを務めるケイア・バートン氏はこう話す。効果的なEVPには企業文化や提供する内容の伝え方、その実施方法、従業員の受け止め方が肝要だとバートン氏は説明する。

 バートン氏は、有給休暇が20日の企業Aと40日の企業Bを例に挙げる。同氏によると、従業員の満足度が高いのは「40日も有給休暇がある企業B」ではなく企業Aの方だ。各企業の実態を詳細に見ると、企業Aの休暇日数は企業Bよりも少ないものの、休暇を時間単位で取得できる仕組みや、使いやすい自動承認プロセスがある。企業Bの自動承認システムは融通が利かず、利用しにくい状態だという。

 EVPの効果を最大化するためには何が必要なのか。バートン氏は、上司によるコミュニケーションの重要性を挙げる。同氏によると、企業の経営層が公式に発表するよりも、直属の上司がEVPについて伝えた方が、従業員はその内容を受け入れやすい。「EVPを実現する上で、上司が強力な推進力となる」(同氏)

ウェルビーイングを維持するための文化の構築

 マンチェスター大学アライアンスマンチェスタービジネススクール(The University of Manchester Alliance Manchester Business School)で教授を務めるキャリー・クーパー氏は、「ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を維持するための文化」の構築を提唱する。具体的には以下の取り組みを実施することが鍵になる。

  • 従業員の都合に応じた働き方を実施できるようにする
  • 恒常的な長時間労働を要求しない
  • 従業員を承認と報酬に基づいて管理する
  • 定期的に従業員の声を聞く

 タウンゼンド氏は別の視点から、従業員のウェルビーイングについて次のように説明する。「透明性が重要だ。定例会議でフィードバックをするといった形式的な取り組みに終始せず、従業員の声に耳を傾け、自社に変化をもたらす機会を持つべきだ」

 個人の業務目標を事業目標と整合させ、将来の道筋を明確にするような、キャリアを開発するための手段を従業員に提供することも一考だとタウンゼンド氏は述べる。

 クーパー氏は「IT業界の根本的な問題は、管理職への昇進が人材管理能力ではなく技術力に基づいていることだ」と指摘する。両方の能力を同等に重視して管理職を採用したり昇進させたりすれば、従業員の定着率は向上し、次世代が求める文化を創造できると同氏は説明する。

 「人材の定着や維持の目的は、単に退職を防ぐことではなく、この会社に残りたいと思わせることだ」。タウンゼンド氏はこう指摘する。「成長するための機会を提供できているか、その企業で働く目的は何か、前向きな職場文化を作るためにはどうすればいいか、この質問に答えられるようにすることが人材を維持することにつながる」(同氏)

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