従来の通信技術では対処できなくなったベトナム航空交通管理公社は、ネットワーク技術の刷新に当たって「IP/MPLS」を採用した。通信障害が許されない航空管制分野において、どのような変革をもたらすのか。
世界中の航空事業に携わる全ての関係者にとって、安全性は最優先事項だ。ベトナム航空交通管理公社(VATM)は、同国の南部地域におけるセキュリティと信頼性の向上を推し進めている。航空交通に対処するための高信頼サービスを実現するために、旧式の通信技術をNokiaの先進的な通信技術「IP/MPLS」(Internet Protocol/Multi-Protocol Label Switching)に置き換え、ネットワークを刷新する計画だ。どのようにして航空管制システムのネットワークの信頼性を確保するのか。
1956年のベトナム民間航空局の設立後、1993年に設立されたVATMは、ベトナムの飛行情報区域における航空管制業務を引き継ぐことになった。VATMの主な責務は、ベトナム国内の空域における航空管制サービスを提供することだ。具体的には航空交通管制、飛行情報提供、運航に関する助言、警報、通信、航法、監視、航空情報提供、気象情報提供、捜索、救難といったサービスを手掛ける。
VATMが管轄するハノイとホーチミンの両飛行情報区域は約1100万平方キロの空域に及ぶ。この空域には、ホーチミン市のタンソンニャット空港やハノイのノイバイ空港など、国内有数の主要空港がある。
2030年までに大規模な企業に発展し、優れた管制サービスを備えた航空交通管制機能を実現するとともに、担当地域で運航する全航空機の安全を確保することをVATMは目標に掲げている。具体的な数値目標として、2010年に管理した3倍の数の航空便に対して航空航法サービスを提供できるようになることを掲げている。
今回のプロジェクトによって、VATMは従来型の同期デジタル階層(SDH:Synchronous Digital Hierarchy)を刷新する。SDHは、光ファイバーを使い、決まった帯域で通信を実現する規格だ。安定性はあるものの、帯域の動的割り当てが難しく拡張性に欠ける。その代わりに採用するのが、航空向けに設計されたNokiaのIP/MPLS技術だ。これはデータをパケットに分割して送る通信規格であるIPと、パケットの効率的かつ安定的な転送を実現する技術であるMPLSを組み合わせたネットワーク技術だ。これによって、ホーチミン市の航空交通管制センターに先進的な通信システムを導入し、航空交通管制に欠かせないミッションクリティカルなアプリケーションを実現する。今回刷新した通信ネットワークは国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organisation)の基準に準拠したもので、2025年第2四半期(4〜6月)に運用開始を計画している。
VATMの副局長であるホー・シー・トゥン氏は、航空交通ネットワークが「最高レベルの安全基準」を満たすために、安全かつ信頼性が高い状態を保つことの必要性を強調する。Nokiaは世界20カ所の航空交通管制ネットワークを手掛けており、航空交通ネットワークに関する実績を持つ。「NokiaのIP/MPLSネットワークの品質と性能に感銘を受けており、新たなネットワークの本格稼働開始を楽しみにしている」(トゥン氏)
Nokiaのサービスは、VATMのネットワークの性能を向上させるとともに、運用を省力化する。IP/MPLSネットワークは、航空交通管理の全体的な効率性と安全性を高めるアプリケーションの構築に役立つ。これによって、拡張や優先度に応じた経路変更が可能なネットワークが実現する。セキュリティに関しても、量子コンピューティングによる暗号解読の脅威に対抗するための技術「量子セーフネットワーク」(QSN)でネットワークの安全性と信頼性を確保するという。
Nokiaの東南アジア北部地域におけるエンタープライズビジネスおよびネットワークインフラ責任者のジョナサン・ゴー氏は、次のように話す。「当社のミッションクリティカルなネットワークは世界中で導入実績があり、優れた性能と信頼性を提供している。QSNを組み込んだNokiaのIP/MPLSは、ベトナムの航空交通ネットワークの安全性と運用効率を向上させる」
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