大容量SSDが登場しても「HDDが主役の座を譲る」とは言えない理由「HDDの終わり」論を検証する【前編】

SSDの技術進化が目覚ましいが、依然としてHDDはストレージ市場の主役の座にある。AI技術の活用が広がり、より読み書きの高速なストレージが求められる中で、HDDはその座を維持できるのか。

2025年05月21日 08時00分 公開
[Adam ArmstrongTechTarget]

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 より高速なデータ読み書きが可能なSSDや、1台で容量100TBを超えるSSDが登場している。それでもHDDは、アクセス頻度が高くないもののビジネスにおいて重要なデータを保存する主要なストレージとして、依然として広く使われている。HDDは今後どこまで企業向けストレージの主役であり続けられるのか。専門家の見解を交えて解説する。

なぜHDDは「主役の座を譲らない」のか?

 AI技術をはじめとする技術革新により、ストレージにもこれまで以上にデータ読み書き速度といった面での高い性能が求められるようになった。HDDは「1GB当たりの容量単価が比較的安い」という価格面のメリットから企業における主要なストレージとして使われてきたが、データ読み書き速度の面ではSSDに劣る傾向がある。データ読み書き速度への要望が高まる中では、今後はより高額ではあってもSSDの採用がさらに広がる可能性がある。

 調査会社IDCでストレージ分野のアナリストを務めるエド・バーンズ氏によると、ここ数年でSSDのシェアは着実に増加している。一方で、依然として企業のデータの85%以上がHDDに保存されているという。「SSDのシェアが今後も伸びていくのは確実だが、HDDからの置き換えが一気に進むとは考えにくい」とバーンズ氏は予測する。

高密度SSDとHDDの共存戦略

 2024年には大容量化したSSDが相次いで登場し、市販品の最大容量は61TBから120TB超へと急拡大した。AI技術の活用が広がる中ではより高いコンピューティング性能が求められ、それにはより多くの電力が必要となる。大容量SSDを活用してストレージアレイを集約することで、物理的な設置スペースや電力負荷を抑えられる可能性がある。

 一方のHDDも進化を続けている。HDDベンダーのWestern Digitalは2024年10月に容量32TBのHDDを出荷開始。Seagate Technologyも容量32TBのHDDの出荷を開始したことを2025年1月に発表した。Seagate TechnologyのHDDは「熱アシスト磁気記録方式」(HAMR:Heat Assisted Magnetic Recording)を採用して高密度化を実現している。

 ストレージベンダーがさらなる技術革新に取り組む一方で、HDDとSSDを組み合わせてAI技術のニーズに応えようとする動きもある。Western Digitalは2024年6月、AI技術向けストレージの新たな設計指針として「AI Data Cycle」を発表した。この指針は、SSDに加え、HDDをコスト効率に優れた大容量ストレージとして活用することを前提にしている。Vduraも、同年11月に発表したデータ基盤製品で同様の戦略を採用している。

 SSDは高速だが、HDDよりも高価だ。一方のHDDは、安価で大容量のデータ保存に適する。読み書きの性能面とスケーラビリティの要件を満たしながらコストを抑えたストレージシステムを実現するには、両者を組み合わせることが重要になる。VduraのCEOケン・クラフィ氏は、「より高価であるSSDは必要最低限にして、それを補完する形でHDDを組み合わせることで、顧客の求める読み書き性能と容量のバランスを取っている」と説明する。HDDとSSDの価格差については、クラフィ氏は「2023年に一時的に縮まったものの、2024年にはほとんど変化が見られなかった」と話す。

 ITコンサルティング会社Dragon Slayer Consultingの代表を務めるマーク・ステイマー氏も、「用途に基づいてストレージを選ぶべきだ」と強調する。「ミッションクリティカルなアプリケーションでない限り、高性能なSSDは必ずしも必要ではない」とステイマー氏は指摘する。例えば、データレイクやオブジェクトストレージの用途では、HDDでも十分に対応可能だという。

大容量SSDのリスクにも注目

 2024年後半は、大容量ストレージ製品の発表が相次いだ。11月にはSolidigm(SK hynixの子会社でIntelのメモリ事業を継承)とPhison Electronicsが、それぞれ120TB超のSSDを発表。いずれも記録方式として、1つのメモリセルに4bitを格納する「QLC」(クアッドレベルセル)を採用している。同月にMicron Technologyは、1つのメモリセルに3bitを格納する記録方式「TLC」(トリプルレベルセル)を採用した容量60TBのSSDを発表。12月にはSK Hynixも容量60TBのSSDをラインアップに加えている。同年6月には、Pure Storageが独自のフラッシュストレージモジュール「DirectFlash Module」(DFM)の容量150TBバージョンを発表し、注目を集めた。

 SSDの大容量化が進むことで、SSDの1GB当たりの容量単価が下がり、HDDとの容量単価は徐々に縮まっている。とはいえIDCのアナリストであるジェフ・ヤヌコビッチ氏によれば、大容量SSDの活用はまだ限定的だ。「128TBのSSDは特定のアプリケーションやインフラでは有効だが、広く使われるようになるとはまだ考えられない」(ヤヌコビッチ氏)

 Dragon Slayer Consulting代表のマーク・ステイマー氏も、120TB級の大容量SSDが本格的に普及するかどうかは不透明だと指摘している。最大の課題は、容量単価の高さだ。SSDにせよHDDにせよ、大容量の製品は主にハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)向けであり、コストの観点で見れば一般企業における採用は限定的だと言わざるを得ない。

 ステイマー氏は大容量SSDならではのリスクにも言及する。「例えばコントローラーが故障した場合に、120TB分のデータをどう復旧するのか、どれくらいの時間がかかるのかという点が重要になる」(ステイマー氏)


 後編は、HDDが市場から消えるという見方をどう受け止めるべきなのかを解説する。

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