「1枚で100TB超え」も登場? 知られざる光ディスクの歴史と進化今こそ期待の光ディスク【後編】

光ディスク技術は、CDからDVD、Blu-ray Discを経て、1枚で100TB超を目指す次世代メディアへと進化を遂げつつある。その黎明期からの進化と最新動向を紹介する。

2025年05月22日 08時00分 公開

 CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多用途ディスク)、Blu-ray Discといった光ディスクの進化は、停滞したように見えた。しかし今、100TB超の記録容量を実現する新しい技術も登場しつつある。その黎明期から未来までの進化を解説する。

「1枚で100TB超え」も? 光ディスクの歴史と進化

 1960年代後半にジェームズ・T・ラッセル氏が最初の光ディスクを開発した。ラッセル氏の方式では、データは「明るい部分と暗い部分のミクロン幅のドット」として保存され、透明なフォイル(薄膜)に記録されたドットを強力なバックライトで読み取るという構造だった。この初期の光学記録方式は、後に登場するCDやDVDとは大きく異なる。

 現在の光ディスクが反射光をレーザーで読み取るのに対し、ラッセルの方式は透過光を利用していた点が大きな違いだ。この方式ではメディアを回転させる必要がなかったため、ディスクの形状は自由だった。

 現代のCDとDVDの原型となる技術は、1969年に電子機器メーカーPhilips の物理学者ピーター・クレイマー氏が開発した。反射型の金属フォイルにデータを記録し、低出力の赤色レーザーで読み取る方式を確立した。レーザー光でドットを読み取り、これを電気信号に変換してから音声や映像として出力する仕組みだ。この技術は、後に全てのデジタル光ディスクの基礎となったが、当初はアナログビデオ用のレーザーディスクに使用された。

 1970年代になると、Philipsはソニーと共同で光ディスク技術の開発に取り組むようになる。1979年、2社は最初のオーディオCDを開発し、これがデジタル光記録の商業利用の始まりとなった。ただし、実際に市場に普及し始めたのは1982年、Philipとソニーが最初の商業用CDプレーヤーを発売してからのことだ。それ以来、CDフォーマットの派生や、DVDフォーマットへの進化など、光ディスクのフォーマットが次々と誕生した。

 オーディオCDの発売から5年後の1985年、ソニーは音響機器メーカーDENONと提携して「CD-ROM」を開発した。これは音声だけでなくあらゆる種類のデジタルデータを記録できる方式で、当初のデータ容量は680MB、後に700MBまで増加した。それからおよそ10年後、ソニーは再びPhilip、東芝、パナソニックと提携してDVDを開発する。DVDでは記録容量が4.7GBに大幅増加し、より多様な用途に対応可能になった。

 2002年、次世代の光ディスクとして登場したのがBlu-ray Discだ。従来の赤色レーザーに代わって波長の短い青色レーザーを使用することで、記録密度が大幅に向上し、最大25GBの保存容量と高速なデータ転送を実現した。Blu-ray Discは、ソニーを中心としたコンソーシアムによって開発された。一方、東芝はこの時期に独自フォーマット「HD-DVD」を開発して市場に投入する。しかし、Blu-rayとの間でいわゆる「フォーマット戦争」が起き、Blu-rayが業界標準として勝利を収めた。

光ディスクの製造方法

 光ディスクのフォーマットは、基本的に全て「多層サンドイッチ構造」を採用している。硬質プラスチックの基板がベースとなり、その上に反射層(大量生産のディスクでは通常アルミ)が配置される。その上から覆いかぶさる透明なポリカーボネート層が、レーザー光を通して反射層にアクセスできるようにしつつ、物理的な保護も担う。

 光ディスクは、低コストで大量生産が可能であり、市販の音楽CDや映像DVD、ソフトウェアやコンピュータゲームの配布用ディスクとして使用される。ただし近年では、インターネット配信の普及により物理ディスクの需要は減少している。

 あらかじめ記録されたプリレコード(事前記録)型ディスクを大量生産する際には、まず「ガラスマスター」と呼ばれる原版を作成する。そこからニッケル製のスタンパー(ネガ画像)を作り、これを使って反射層にピット(微細な凹み)を刻印する。こうした工程により、1枚ずつレーザーで書き込む方式よりも圧倒的に効率的に大量生産が可能となる。

 一方、デジタルデータの保存を目的とした光ディスクでは、使用される反射層の材料が用途によって異なる。

  • 書き込み可能(Write Once)ディスク
    • 未記録の反射層とポリカーボネート層の間に有機色素(オーガニックダイ)を挟み込み、レーザーの熱でこの色素を変化させて記録する。
  • 書き換え可能(Rewritable)ディスク
    • アルミ箔(はく)の代わりに、相変化材料(phase-change material)と呼ばれる特殊な合金を使用する。この素材は加熱と冷却によって物理状態が変化し、データの消去と再書き込みが可能になる。

次世代の光ディスク技術

 次世代の光ディスク開発を目指す米国のスタートアップFolio Photonicsによると、2026年には「ACTIVE」(アクティブ)と呼ばれる技術の製品化が見込まれている。従来の光ディスクが3層構造であるのに対し、16層構造を実現するもので、将来的にはさらなる層数の増加も視野に入れているという。

 Folio Photonicsの光ディスクは1枚当たり1TBの容量を持ち、価格は約5ドルを想定している。10枚入りのカートリッジにより最大10TBを収容可能だ。ただし、利用するには専用の光学ドライブが必要になる。

 光ディスクのさらなる進化として期待されているのが「AIE-DDPR」(Aggregation-Induced Emission Dye-Doped Photoresist:凝集誘起発光色素ドープフォトレジスト)だ。これは、ナノスケール技術をベースとした感光材料を用い、波長の異なるレーザー光に反応してデータを記録する技術だ。複数のレーザーを用いて、ディスク1枚に最大100層までのデータ記録ができる。当初は1枚当たり125TBの実現を目指していたが、それ以上の容量にも対応可能とされている。

 これらの技術は光ディスクの将来性を大きく広げるものであり、大容量のアーカイブ用途や企業向けストレージにおける飛躍的な進化をもたらすと期待されている。

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