年間最大12兆円もの経済的損失を発生させるという「2025年の崖」問題。ノウハウの不足やレガシーシステムのブラックボックス化を乗り越え、DXを推進する上で、生成AIやノーコードツールの活用が有効だ。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)が必要なのは分かっているけれど……」。情報システム部門(情シス)担当者の頭を悩ませているのが、長年の運用で複雑化およびブラックボックス化したレガシーシステムの存在です。開発当時の担当者は既に退職してしまい、社内の誰もシステムを把握できていない――。この状況に不安を抱えながらも、予算もノウハウも不足しているため、「とりあえず動いているからいいか」と対処を先延ばしにする光景は珍しくありません。
しかし、レガシーシステムを放置し続けると、深刻な問題に発展する可能性があります。経済産業省は、2018年に発表したDXレポートにて「2025年の崖」と題して、ブラックボックス化したレガシーシステムを放置し続ければ、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしました。
こうした状況の打開策となり得るのが、近年目覚ましい発展を遂げている「生成AI」(AI:人工知能)や、ソースコードを記述しない「ノーコードツール」です。これらの技術はブラックボックス化した仕様の解析や、業務アプリケーションの リファクタリング(プログラムの動作を変えずに内部構造を整理すること)、データの再構造化に至るまで、人材やノウハウの不足を補うポテンシャルを持っています。限られたリソースと厳しい制約の中でレガシーシステム刷新とDX推進を実現するために、生成AIとノーコードツールをどう活用できるのか。具体的なツールや事例と併せて本稿で紹介します。
レガシーシステムを放置することで考えられる最も深刻な影響としては、機材やソフトウェアの老朽化が進み、システムそのものを物理的に維持できなくなることが挙げられます。古い機材やソフトウェアはメーカーのサポート対象外となり、再調達も困難となるため、遅かれ早かれ維持が困難になることは避けられません。もしビジネスの根幹となるシステムが失われれば、企業存続の危機につながります。
システムが完全な停止に至らなかったとしても、障害の多発や復旧の遅延など、システムの老朽化による業務への影響が発生することはほぼ確実です。セキュリティアップデートも困難なため、サイバー攻撃やデータ漏えいなどのリスクも高まり続けます。
レガシーシステムが限界を迎える前にDXを推進するためには、手始めにブラックボックス化したシステムの仕様を読み解かなければなりません。しかし、開発当時のメンバーはおらず、ドキュメントも存在しない状況で、膨大な時間と労力を要する解析作業を断念したくなってしまうのも無理はありません。
そのような時は、生成AIの力を借りてみるのも一つの手です。GitHubの「GitHub Copilot」やAmazon Web Services(AWS)の「Amazon Q Developer」(旧Amazon CodeWhisperer)などのAI技術を用いたコーディングツール(以下、AIコーディングツール)を使用してシステムのソースコードを解析すると、関数やクラスごとの処理内容を日本語で書き出し、複雑な呼び出しや参照関係をツリー構造で可視化できます。
AIベンダーOpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」、Anthropicの「Claude」などの汎用(はんよう)的な生成AIツールを利用して、リバースエンジニアリングを実施することも可能です。リバースエンジニアリングとは、既存のソフトウェアの構造を分析し、動作の原理や設計を明らかにする手法を指します。例えば、既存システムのソースコードを読み込ませ、処理内容を日本語で説明させたり、仕様書を作成させたりすることで、ブラックボックス化していたロジックを可視化するための手助けになるでしょう。このように、属人化した仕様を効率よく“見える化”することで、次のステップであるリファクタリングや移行作業への足掛かりとなります。
ただし生成AIには、事実と異なる回答をする「ハルシネーション」が発生するリスクがあります。そのため、生成AIによって出力されたソースコードやドキュメントは、エンジニアが検証やファクトチェックを実施する必要があります。生成AIに機密データを入力する場合は、そのデータがAIモデルの学習に利用されないようにオプトアウト(拒否設定)申請をしてから利用しましょう。
システムのモダナイゼーション(最新化)を進める際の一助となり得るのが、ノーコードツールです。ノーコードツールはその名の通り、ソースコードを記述せずにドラッグ&ドロップなどの簡単な操作のみで業務フローやアプリケーションを構築できるツールです。システムを刷新する際に全面的に活用することはできなくとも、補完的な役割としてノーコードツールが役立つ可能性があります。以下に、代表的なノーコードツールを紹介します。
ノーコードツールはプログラミングスキルが不要で開発スピードが速いものの、カスタマイズ性に限界があるという欠点があります。ノーコードツールで作成したアプリケーションでは機能が不十分な場合は、生成AIを用いて追加開発を進めるのも有効な選択肢となるでしょう。
特に注目に値するのが、自律的にタスクを実行できるAIエージェントです。AIスタートアップMainFuncの「GenSpark スーパーエージェント」や、中国のAIベンダーManusAIの「Manus」などは、従来のチャットbot型の生成AIと比較して継続的な開発に適しています。例えば、ChatGPTではユーザーが都度指示を伝えて出力された回答を確認するというプロセスを繰り返す必要がありますが、AIエージェントは指示を伝えるとタスクを完了させるために必要なステップを自律的に判断、実行してくれます。
AIエージェントを活用すれば、1人のエンジニアが複数のタスクを同時にこなすことも容易になり、生産性の大幅な向上が期待できます。
予算、スキル、ノウハウ、人手不足など、DX推進を断念する理由はいくらでも思いつきます。しかし、生成AIやノーコードツールの登場により、これらの理由は「できない」ではなく「やらない」ための言い訳になりつつあります。今からでも遅くはありません。限られた予算と人員の中でも、レガシーシステムからの脱却とDX推進を目指しましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...