導入から数年経過したSaaSの老朽化は、「第二の2025年の崖」とも言える問題です。未然に防ぐために、情報システム部門が取るべき評価と対策を解説します。
「2025年の崖」として知られる基幹システムの刷新問題に続き、企業が直面しつつあるのが「SaaSの老朽化問題」です。導入から年数が経過したシステムでは、技術的負債が企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の足かせとなるケースが顕在化しています。
この“クラウド上のレガシー”は、従来のオンプレミス環境における老朽化とは異なる構造を持っています。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)連携の複雑化、カスタマイズの積み重ねによる標準機能からの逸脱、データ移行の困難さなど、クラウド時代特有の課題が浮上しています。
そもそも「技術的負債」とは、短期的な実装や運用のしやすさを優先した結果、後々の保守・拡張・移行時にコストやリスクが増大する状況を指します。SaaS(Software as a Service)においても、適切な見直しやモダナイゼーション(最新化)をしない限り、企業のITシステム全体にとっての新たな負債となる可能性があります。
複数のSaaS間でデータ連携をする際、APIセキュリティや認証方法の違い、アクセス制限の不一致が課題となるケースがあります。SaaS間のデータ連携では主にAPIを活用するケースが多く、各SaaSのアクセス制限が適切ではない場合、不適切なエンドユーザーがデータにアクセスする可能性が高まります。認証プロトコル「OAuth」(Open Authorization)、「SAML」(Security Assertion Markup Language)、「OpenID Connect」といった認証方式の違いにより、データ連携の設定や運用が複雑化する傾向があります。
導入初期に業務要件に合わせてカスタマイズされたSaaSは、標準機能からの逸脱により、ベンダーによるアップデートに対応できないケースが出てきます。一部のSaaSでは、カスタマイズの蓄積により、標準機能から逸脱し、結果的に「自社専用パッケージ」のような状態になるケースが見られます。これにより、新機能の活用が困難になり、陳腐化が加速する傾向があります。
SaaSのデータ移行では、トランザクション(不可分な一連の処理)ごとのクエリ(問い合わせ)数やAPIコールの制限、リソース消費に関するSaaSアプリケーション特有の制約が多く、移行時に想定外のエラーや一括移行の難しさが生じるケースがあります。 SaaSによってはデータのCSV出力に制限がある場合や、必要なデータ項目の取得が困難な場合もあり、サービス刷新や他のSaaSへの移行を検討する際の障壁となる傾向が見られます。
一部の老朽化したSaaSは、最新のセキュリティ基準への対応が遅れる傾向にあります。例えば、強固なパスワード設定の必須化や多要素認証(MFA)実装の遅れ 、暗号化プロトコルTLS(Transport Layer Security)の旧バージョン使用継続などが挙げられます。他のシステムとの統合においても、暗号化方式やアクセス制御の違いが障壁となり、互換性の確保に追加のコストや設計が必要になるケースもあります。
SaaSサブスクリプションの自動更新や終了、更新イベントに関する通知など、ライフサイクル管理に関する詳細な規定は、安定的な運用において重要な確認事項となります。特に基幹業務で利用するSaaSの場合、サービスの運用方針や更新ポリシーを事前に確認しておくことが、長期的な安定利用の鍵となります。
情シス部門がSaaSの継続利用を判断する際には、以下のような評価軸が役立ちます。
CASBはクラウドサービスの利用状況を検出・可視化し、リスク評価やセキュリティ制御を実現する技術として、企業のクラウド活用が進む中で注目を集めています。CASB製品は、クラウドサービスとエンドユーザーの間に位置してセキュリティポリシーを適用し、クラウド利用を管理・可視化することが可能で、情報漏えい対策やコンプライアンス(法令順守)対応の手段として検討する企業が増えています。
組織のSaaSレガシー化リスクを確認するため、以下のチェックポイントで現状を評価してみましょう。
一つでもチェックできない項目があれば、レガシーSaaS化のリスクが潜んでいる可能性があります。「第二の2025年の崖」を未然に防ぐ鍵は、現状を見直し、未来志向の選定と運用戦略に着手することです。
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