ビジネスのスピードが増す現代、手作業中心のIT運用では変化に追い付けない。そこで必要になるのが「自動化」と「オーケストレーション」だ。それぞれの違いとメリットとは。
「自動化」と「オーケストレーション」は、互いに補完し合うテクノロジーだ。自動化は、実行する繰り返しのタスクを一つ一つ定義して実行する仕組みであり、オーケストレーションは、それら個別のタスクを組み合わせて、より複雑なワークフローを構築する仕組みを指す。
現代のビジネスのスピード感は、手間のかかる手作業のIT運用では追い付けないほどに加速している。対応が遅れれば、重要なビジネスチャンスを逃す恐れがあり、ミスや見落としは深刻なリスクにつながる。その解決策として、現代のITが頼りにするのが「自動化」と「オーケストレーション」になる。これらは、販売取引の処理、データの保護、一貫したビジネス成果の創出などに必要なさまざまなタスクを構成、管理する上で、重要な役割を果たす点で共通している。
繰り返し実行するタスクを一つ一つ定義して自動的に処理するのが「自動化」、それらの個別タスクを集約し、適切な順序やタイミング、必要なITリソースを使って実行する複雑なワークフローを構築するのが「オーケストレーション」だ。これらを組み合わせて実装し、さまざまな目標に貢献するワークフローを構築することが、IT部門に求められる重要な役割となっている。
自動化は、ソフトウェアを使って、人手による介入をほとんど、あるいは全く必要とせずに繰り返しタスクを実行できるようにする仕組みだ。自動化されるタスクは、基本的に内容が明確でシンプルなものが多く、比較的短時間で完了するケースが一般的だ。例えば、コンピューティングリソースのプロビジョニング(配備)、アプリケーションやデータのバックアップ、レポートの自動生成などが挙げられる。
これに対し、オーケストレーションの対象範囲はより広い。ソフトウェアを使って、複数の自動化タスクを統合し、包括的なワークフローとして構築する。オーケストレーションは、自動化に比べて目的が広範にわたることが多く、関与するタスクの数が多い場合は、完了までに時間がかかることもある。タスクの中には、前の自動化タスクが完了していることを前提とするものや、人間の判断を必要とするものもある。
つまり、自動化されたタスクは「材料」で、オーケストレーションによって構築されたワークフローは「望む結果を得るために適切に材料を組み合わせたレシピ」だと言える。
例えばMicrosoftの「PowerShell」スクリプトを用いたシステム構成など用途が限定される短いタスクを実行する自動化は、単体でも機能する。一方のオーケストレーションは、自動化と切り離して使われることはない。両者は密接に関連しているため、しばしば同義語のように扱われることもあるが、実際には異なるものであり、互いに補完しながらも、それぞれ別の目的を達成するために設計されている。
オーケストレーションのツールやフレームワーク(特定の機能を実装するための枠組み)の中には、オーケストレーションツールセットの一環として自動化機能を組み込むものがある。
自動化とオーケストレーションは、IT部門をはじめとしてさまざまな部門に多様なメリットをもたらす。IT自動化がもたらす重要なメリットには次のようなものがある。
タスクを自動化することで、システム構成やアプリケーションのデプロイといった作業にかかる時間や注意力を大幅に削減できる。その結果、ITスタッフはより高度で複雑な目標に専念する時間を確保できるようになる。
自動化されるタスクはあらかじめ定義された動作であり、予測可能で繰り返し同じ結果を生むものだ。一貫性のある精度の高い処理が期待でき、人手による介入の必要性を大幅に減らすことができる。
自動化されたタスクは、手作業よりもはるかに高速に実行されるため、システム全体のスケーラビリティ(拡張性)が大幅に向上する。その結果、ITスタッフは、従来これらのタスクに費やしていた時間を活用して、より多くの業務や複雑な作業に対応できるようになる。
自動化による処理の高速化により、短時間でより多くのタスクを実行できるようになり、運用コストの削減につながる。各タスクには必要最小限のリソースのみが割り当てられるようになり、無駄のない効率的な運用が実現する。
自動化されたタスクは、あらかじめ定義された動作によって予測可能で一貫した結果を実現する。企業は各種セキュリティ対策やバックアップといった要素を含む、適切なコンプライアンス態勢を整えやすくなる。
オーケストレーションも、ビジネスにおいて幅広い重要なメリットをもたらす。全体としては自動化と似た効果が得られるが、その適用範囲はオーケストレーションの方が広く、より多面的なメリットが期待できる。具体的には、以下のようなメリットが挙げられる。
ワークフローをオーケストレーションすることで、一連の関連タスクを高度な自律性を持って自動的に実行できる。その結果、複雑なワークフローでも、手作業で対応するよりはるかに短時間で完了できるようになる。
ワークフローをオーケストレーションすることで、タスクはあらかじめ定義された反復可能な手順に沿って整理され、実行される。人為的なミスや見落としのリスクが大幅に軽減され、予測可能で一貫した結果を安定して得られるようになる。
ワークフローをオーケストレーションすることで、手作業による実行よりもはるかに高速かつ高品質に処理できる。その結果、ITスタッフが限られた時間内に対応できる業務量が大幅に増え、スケーラビリティの向上や運用コストの削減といったメリットが得られる。
オーケストレーションプラットフォームは、詳細なレポート機能を提供するだけでなく、ワークフロー全体や関連する自動化タスクを可視化する。そのため、IT部門をはじめとするさまざまな担当者が、ワークフローを一元的かつ一貫性のある方法でレビューし、最適化やアップデートを実施することが可能になる。
オーケストレーションされたワークフローは、テストと検証を経ることで、予測可能で一貫した結果を安定的に実現できるようになる。これにより、企業はセキュリティやコンプライアンス、ビジネス継続性に対する備えが十分であることを対外的に示すことができる。
次回は、自動化とオーケストレーションの課題を明らかにする。
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