AIエージェントの成否はインフラ次第――「MCP」に対応するBoomiの狙いAI実用化に求められる設計思想とは

AIエージェントの実装では「分散した社内外のデータをいかに効率良く活用するか」「ガバナンスをどうするか」といった悩みが尽きない。AIエージェントの価値を最大化するためのインフラの条件とは。

2025年08月01日 05時00分 公開
[Eric AvidonTechTarget]

 AI(人工知能)ベンダーOpenAIが2022年11月にAIチャットbot「ChatGPT」を公開して以来、企業のAI投資は一気に加速した。特に2025年は、AIモデルが自律的にデータを分析してタスクを遂行する「AIエージェント」の開発が大きな潮流となっている。

 一方で、どれだけ高精度なAIエージェントを導入しても、社内に散在するデータをうまく活用できなければ、その効果を十分に引き出すことはできない。こうした課題に対応すべく、さまざまなデータマネジメントベンダーが、AIモデルとデータを安全かつ効率的につなぐ基盤の開発に注力している。

 iPaaS(integration Platform as a Service)ベンダーのBoomiもそのうちの一社だ。同社は2025年5月、米テキサス州ダラスで開催したイベント「Boomi World 2025」で、AIエージェント活用に向けた新たなサービスおよび機能群を発表した。その内容を基に、AIエージェント時代に求められるインフラの条件を考察する。

AIエージェントを生かすも殺すも「インフラ」次第

 AIエージェントの導入においては、AIモデルが信頼性の高いデータと接続するための連携基盤が不可欠だ。Boomiは、オンプレミスやクラウドなど複数環境に分散したデータソースの統合基盤を提供することで、AIエージェントが現場で機能するための土台を整えようとしている。Boomi World 2025では、以下のような新サービスおよび機能群を発表した。

Boomi Agentstudio

 Boomiは2025年3月に、AIエージェントの開発・管理ツール「Boomi AI Studio」を発表。その後4月にBoomi Agentstudioと改称し、今回のイベントにて正式に一般提供を開始した。ユーザーは「Boomi Agentstudio」を活用することで、AIエージェントの開発、管理、監査までをBoomiが提供するセキュアな環境で実行できる。

 BoomiのCPO(最高製品責任者)兼CTO(最高技術責任者)エド・マコスキー氏によると、Agentstudioの開発は顧客からの強いニーズに応える形で始まったという。企業におけるAI導入が進む中で、AIエージェントの開発や管理の複雑さは増す一方だ。業界全体でも、セキュリティやガバナンス、システム統合に関する課題が顕在化している。「当社は、AIエージェントの導入と運用をシンプルにするためのサービス提供に注力している」とマコスキー氏は強調する。

 BoomiのCEOスティーブ・ルーカス氏によれば、既に3万体以上のAIエージェントがBoomi Agentstudio上で構築されているという。

MCPサポート

 「Model Context Protocol」(以下、MCP)は、AIエージェントを外部のデータソースに接続するためのオープンソースプロトコルだ。MCPに準拠したAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)ゲートウェイを活用すれば、セキュリティやガバナンスを担保しつつ、必要なデータにAIエージェントを安全に接続できる。AIエージェントは外部データのコンテキスト(文脈)を理解した上で、自律的にタスクを計画、実行できるようになる。

 調査会社Constellation Researchのアナリストであるマイケル・ニー氏は、「MCPのサポート追加によって、企業におけるBoomi導入はさらに進むだろう」と話す。Boomiのサービスは従来の“システム連携基盤”から、“大規模な意思決定の自動化を支える基盤”へと進化しつつあるとニー氏は評価する。

 ITコンサルティング企業BARCのアナリストを務めるケビン・ペトリー氏も、MCPサポートの重要性を強調し、特に「RAG」(検索拡張生成)との親和性に注目する。RAGは、学習データ以外に外部のデータベースから情報を検索、取得し、LLMが事前学習していない情報も回答できるように補う手法だ。「MCPのサポートにより、AIエージェントと外部アプリケーション間でのリアルタイムなデータ連携がより円滑になる。専門性の高い出力を可能にするRAGに、リアルタイム性という価値を加えることができる」(ペトリー氏)

Boomi Data Integration

 データ統合機能「Boomi Data Integration」は、Boomiが2024年12月に買収したRiveryがもともと提供していたサービスだ。Boomiが従来提供していたデータ統合基盤は、主にデータカタログ(メタデータを管理する仕組み)の活用に重点を置くもので、データの取り込みやリアルタイム処理に関しては制限があった。

 Boomi Data Integrationは以下の機能を備えており、データ統合の柔軟性と範囲が大幅に拡張されている。

  • SaaS(Software as a Service)型アプリケーションからのデータ取り込み
  • 変更データキャプチャー(CDC:Change Data Capture)によるデータ変更の追跡
  • データのオブザーバビリティ(可観測性)の向上

 これにより、企業は外部のアプリケーションやサービスから得たデータをリアルタイムで収集、加工し、それをAPI経由でAIエージェントに効率的に渡すことができる。データの取得から統合、活用までを一貫して実施できる環境により、企業はAIエージェントの構築、導入をより迅速に進められるようになる。

AIエージェント群

 Boomiは、以下5つの新しいAIエージェントを発表した。それぞれが異なる役割を担い、統合業務の高度化および自動化を支援する。

  • Integration Advisor Agent
    • 連携プロセスを評価し、改善に向けたフィードバックを提供する
  • API Design Agent
    • APIの設計および編集を支援する
  • API Documentation Agent
    • API定義を基にドキュメントを自動生成する
  • Data Connector Agent
    • データ連携に必要なコネクターを設計および構築する
  • Resolve Agent
    • 連携プロセスで発生した障害を自律的にトラブルシューティングする

AIエージェントの運用基盤に求められる設計思想

 「Boomiは今回の発表を通して、単なるiPaaSベンダーではなく、AIオーケストレーションベンダーとしての立ち位置を明確にした」とペトリー氏は評価する。AIオーケストレーションとは、AIモデルや関連システム全体を一元的に管理および制御する仕組みを指す。

 マコスキー氏は今後Boomiが取り組むべき課題として、信頼性やガバナンスの向上を挙げる。近年、従業員が自らAIアプリケーションを開発、運用する動きが活発化する中で、誰もが安心してAIを使える環境づくりが必要だ。そのためには、堅牢(けんろう)なガバナンス機能と、設計や出力のプロセスが明示できる透明性が求められる。

 説明可能性やビジネスとの整合性を備えたAIエージェントを実現する上では、メタデータの管理も欠かせない。AIモデルの出力や挙動を説明、制御する上では、メタデータをいかに整理、活用できるかが成否を分ける。

 AIエージェントのライフサイクルをどう管理するかも重要な論点となる。ペトリー氏は、Boomiが今後強化すべき領域として「ModelOps」を挙げる。ModelOpsとは、AIモデルの構築からデプロイ(配備)、継続的な評価および改善までを一貫して管理する考え方だ。

 AIシステムを現場で安定的に運用していくには、DataOps(データ管理と運用の融合)、DevOps(開発と運用の融合)、ModelOps(モデル運用)の3つの要素が揃っていることが望ましい。「Boomiは既にDataOpsやDevOpsの領域で確かな実績を持っている。今後は、AIや機械学習に特化したベンダーと連携を深めることで、ModelOpsの分野でも存在感を高められるはずだ」と、ペトリー氏は展望を語った。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

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