AIエージェントの活用が進もうとする中で、IBMはAIエージェントのオーケストレーションに焦点を当てた新たな取り組みを発表した。その狙いと影響は。
生成AIが2022年以降に爆発的に普及し、その技術の成熟化が進む中で、AIエージェントが業界を席巻する存在になっている。そうした中、老舗のベンダーIBMは2025年5月、AIエージェントの構築と展開に取り組む企業をサポートする新技術を発表した。ボストンで開催されたカンファレンス「Think 2025」で同社が発表したのが、「IBM Watsonx Orchestrate」(以下、Watsonx Orchestrate)で利用できる新たなエージェント機能だ。
Watsonx Orchestrateは、AIアシスタントや自律型のAIエージェントを構築、管理するためのツール群となる。提供の背景について、IBMでチーフコマーシャルオフィサーを務めるロブ・トーマス氏は「エージェントを統合する方法に関して、市場には大きなギャップが存在する」と語る。同社が狙うのはエージェントの提供だけではなく、数々のエージェントが同時に実行されることを支援すること、別の言葉で言えばAIエージェントのオーケストレーション(自律的なAI同士の連携を制御すること)を実現することにあるという。
「AIエージェントで何ができるのかというテーマに対して、IBMは思慮深く、先見性を持って取り組んできた」。Informa TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)でアナリストを務めるマーク・ベキュー氏はそう語る。
AIエージェントのオーケストレーションは、まだ発展途上の技術だ。そうした中で、IBMはエージェント型AI市場において際立った存在感を示している。その根底にあるのは、オーケストレーションやオブザーバビリティー(可観測性)を実現するための仕組みに関して、幅広くノウハウを蓄積していることだ。
「IBMはこの分野で強い影響力を持つようになるだろう」と、ベキュー氏は述べる。同氏はさらに、IBMは主要な業務アプリケーションとの連携に注力することで、Googleが発表した新しいAIエージェント間通信プロトコル「Agent2Agent」(A2A)との差別化を図っていると指摘する。そうみる背景にあるのは、IBMが標準化ではなく、“手取り足取りのサポート”を必要とするシステムの統合に重点を置いていることだ。
ただし、オーケストレーション分野におけるノウハウや知見の蓄積があるにもかかわらず、この技術の潜在能力を引き出すという点で、IBMの取り組みはまだ初期段階にあると調査会社The Futurum Groupのアナリスト、ブラッドリー・シミン氏は指摘する。
「IBMを含むほとんどのベンダーは、管理と統制が可能で、セキュリティを確保できるエージェントシステムの構築に向けた基盤作りの段階にある」と、シミン氏は語る。その上で、データベースおよび機械学習向けプラットフォームを手掛けるDataStaxを買収し、データ統合とAIエージェント製品の機能を融合しようとする最近のIBMの動きについては「期待が持てる」と述べる。
IBMにはまだ取り組むべき課題があるとシミン氏は指摘する。それは、Watsonx Orchestrateを含めて、製品を活用することでできる魅力的なストーリーを伝えることだ。同氏は、IBMはRPA(ロボティックプロセスオートメーション)やプロセスマイニング、ルールエンジンといった分野でも優れた専門性を持つが、その強みを十分に打ち出せていないと付け加える。
課題はそれだけではない。「この種の複雑な取り組みを支援する優れた技術を持っていたとしても、その技術をIT部門とビジネス部門の両方にとって使いやすい形でパッケージ化できるかどうかは、また別の問題だ」(シミン氏)。自社の包括的なプラットフォームが、IT部門とビジネス部門のいずれにとっても使いやすいものであることを、顧客に明確に示す必要があると同氏は強調する。
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