突然の出社義務化には、従業員からの反発が伴う可能性がある。オフィス回帰を成功させるには、「出社する意味」をどう示すかが鍵になる。
働き方の方針をテレワーク中心から出社義務化へと変更する“オフィス回帰”を巡る議論は、単に「働く場所」に関する論点だけには収束しない。出社義務化を命じただけでは、従業員の反発や離職リスクを高めるだけになりかねない。重要なのは、従業員が「出社する意味」を実感できるようにすることだ。そのためには、オフィスで利用するテクノロジーへの投資や、職場環境の整備といったハード面と、制度設計や福利厚生などのソフト面の両方を見直すことが重要になる。
従業員はわざわざ出社してまで、自宅で働いていたときと全く同じWeb会議ツール「Zoom」でテレワーク中の同僚との会議に参加したいとは思わない。これは会社にとってもマイナスだ。オフィスワークを再開しても、働く場所以外に何も変わらなければ、望むような成果は得られないからだ。
米Informa TechTarget傘下の調査部門Omdiaのプリンシパルアナリストを務めるアダム・ホルトビー氏は次のように説明する。「コミュニケーションと生産性が課題となっているときに、全ての従業員がオフィスに出社するだけで状況が改善すると考えるのは建設的ではない」。従業員の習慣を変え、業務の指導や支援のプロセスを進化させ、明確な目標の達成を支援するツールやテクノロジーに投資するための意識的な取り組みも必要だとホルトビー氏は指摘する。
会社は関連ソフトウェアやツールに実質的に投資することで、業務改善に真剣に取り組んでいることを明示できる。多くの場合、従業員は世界中の別の場所にいる同僚と引き続き仕事をすることになるため、ハイブリッド型共同作業の長期計画を立ててそのインフラを職場に組み込むことも有意義だ。これは、オフィスに戻りたがらない従業員に出社を促すためだけでなく、オフィスに戻りたい従業員を支援するためにも重要だ。
映像音響テクノロジー企業DiversifiedのCEO、エリック・ハット氏は次のように語る。「オフィス回帰への反発は、必ずしもオフィス勤務に戻ること自体が嫌だということではなく、“間違ったオフィス”に戻りたくないという意思表示だ」と指摘。企業は、出社を単に義務化するのではなく、オフィスで働くことを有意義なものにするという目的に即した解決策を重視すべきだという。
マーケティング自動化プラットフォームを提供するOmnisendの人材獲得スペシャリスト、リヤナ・バウリナイテ氏は次のように警告する。「効果的なオフィス回帰戦略は、物理的にオフィスに来ることに意義があるような環境を整備することから始めるべきだ。オフィスがただ黙って座ってメールに返信するだけの場所なら時間の無駄だ。だが、そこが共同作業のための空間ならメリットになる」
企業は、プライベートな会議スペースの増設など、オフィスを働きやすい環境するための変更を従業員に伝えることが重要だ。そうすれば、人の多いオフィス環境でも従業員は安心して仕事に集中できる。さらに、コーヒーステーションの刷新、スナックの無料提供、ランチのケータリングなど、社内に新しく導入する福利厚生を発表することも重要だ。
出社義務化は、対面のチームビルディング活動を見直す良い機会にもなる。例えば、ハッピーアワー、ゲームナイト、ボランティア活動などが考えられる。戦略的な企業は、従業員がオフィスに何を望んでいるのか、意見を聞く。会社レベルでは些細な取り組みに見えることも、従業員の体験にとって大きな効果を生み、対面で働くことの魅力を高める可能性がある。
人材管理ツールを提供するHubstaffのCEO、ジャレッド・ブラウン氏は次のように提言する。「柔軟な勤務時間、オフィスでのランチケータリング、交通費補助などが考えられる。チームの声を取り入れると賛同を得やすくなり、オフィス回帰の摩擦低減につながる」
本稿で示したように、適切に計画を立て、必要な対策を行えば、RTOポリシーが受け入れられる可能性を高めることができる。だが、完璧な計画は存在しない。反発する従業員に計画を受け入れてもらうには、さらに支援が必要になることもある。対面勤務体制への転換をどうしても拒み、離職する従業員が出てくる可能性もある。
それでも、会社が調査・分析を十分に実施し、対面勤務が業績や企業文化、収益の向上にとって必要だと確信しているのであれば、この移行を乗り切る覚悟が必要だ。そのためには、ポリシーを当初の計画より柔軟にすることも必要だろう。完全なオフィス勤務体制より、ハイブリッド体制を採用する方がうまくいくことが多い。これは、テレワークのメリットを部分的に残しながら、対面勤務の効果も得たいという歩み寄りの姿勢を示すことになる。
「最善の戦略は、命令するのではなく、選択肢を示すことだ」とアホ氏は指摘する。オフィス回帰に成功する企業は、厳格な出社ポリシーを強制せず、必要なときに従業員がオフィスに出社したくなるような説得力のある理由を用意しているという。「そのような企業は勤務時間より実績を重視し、物理的な出社ではなく成果で生産性を評価する」(同氏)
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