静かに登場したAWS「Kiro」 人間が主導権を握るAIコーディングツールとは全てを“AI任せ”にしない

2025年7月、Amazon Web Services(AWS)社は大きな宣伝なく、AIエージェント内蔵型IDE(統合開発環境)「Kiro」を発表した。できることや他のAIツールと違うこととは何か。

2025年09月16日 06時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 Amazon Web Services(AWS)社は2025年7月、AI(人工知能)技術を組み込んだIDE(統合開発環境)「Kiro」を発表した。ソースコードの自動生成にとどまらず、開発工程全体の自動化を図れるという。Kiroは単なるソースコードの自動生成にとどまらず、人間が開発を主導する設計思想になっている点が特徴だ。

AIの力を借りながら人間が主導するKiroで開発に新風

 Kiroの開発や提供は、AWS社のバイスプレジデント(開発者エージェントおよびエクスペリエンス担当)であるディーパク・シン氏と、エージェンティックAI開発者ツールのプロダクトおよびエクスペリエンス担当シニアマネジャーであるニキル・スワミナサン氏が率いている。AWS社はすでに開発者向け生成AIツールとして「Amazon Q Developer」を提供しているが、Kiroはそれとは異なる設計思想を持つ。

 Kiroが既存ツールと異なる点は主に2つある。1つ目は、「仕様駆動型開発」(Spec Driven Development)を中核に据えていることだ。仕様駆動型開発とは、ソースコードを書く前にソフトウェアの構造と動作(仕様)を定義する手法だ。仕様をあらかじめ定義することによって、開発工程の一貫性が高まり、後工程における修正を減らせる。

 調査会社Moor Insights & Strategyのアナリスト、ジェイソン・アンダーセン氏は、Kiroで開発プロジェクトを始めるときの手順を次のように説明する。「プロジェクト開始時、Kiroは『仕様から始めるか、それともプロンプト(指示)から始めるか』と尋ねてくる。仕様を選べば、開発者が設計の主導を握ることができる」

 この流れは、プロンプトから手軽に試作品を開発する「バイブコーディング」とは対照的だ。プロンプトから開発を始める手法は、プロトタイプを迅速に作成できるが、本番環境への移行には適していない場合があると開発分野の専門家は指摘する。Kiroは自然言語で記述されたプロンプトを、AIエージェントが要求事項や設計、タスクの指示といった構造化されたドキュメントに細かく分解する。これによって開発者はプロジェクトの管理が容易になり、本番環境での稼働が可能なアプリケーションの開発につなげられるという。

 Kiroの特徴の2つ目は、AWSとの密接な結び付きがないことだ。アンダーセン氏によると、KiroとAWSの間の緩やかな結び付きは、AWS社の戦略としては珍しい。「AWS社はこれまで、開発者向けツールとAWSを密接に結び付けることに重点を置いてきた」と同氏は語る。今回の戦略には、AWSを利用していない企業にとってもKiroを使いやすくする狙いが見受けられると同氏は指摘する。しかし、現時点で大きな宣伝がないため、KiroはコーディングAIエージェント「GitHub Copilot」といった広く使われているツールに対して不利になる可能性があると同氏はみる。

 AWS社はKiroを同社の公式ブログで発表したが、大々的な宣伝はしていない。同社によれば、Amazon Q Developerの有料版である「Amazon Q Developer Pro」のユーザー企業は、「AWS Identity and Access Management」(AWS IAM)のIDを使ってKiroを利用できる。ただしAWS IAMのIDはKiroをインストールするために必要ではない。KiroはMicrosoftのソースコードエディタ「Visual Studio Code」(VS Code)のオープンソース版である「Code-OSS」に基づいている。そのため、ユーザー企業はVS Codeの設定やプラグインを流用できる。ソースコード共有サービス「GitHub」やGoogle、AWS用の開発者ID「AWS Builder ID」を使ってKiroにログインすることも可能だ。

 調査会社Forrester Researchのアナリスト、アンドリュー・コーンウォール氏は、Kiroが複数のクラウドサービスで利用できる点を次のように評価する。「AWS用のチュートリアルプログラムを、『Microsoft Azure』で動くようにソースコードを書き換えるよう指示したところ、問題なく動作した。これはAWS以外を利用する開発者にも有用な証拠だ」

 一方でコーンウォール氏は、企業がすでに保有するソースコードを扱う際の課題があるとも指摘する。要件定義が曖昧なまま開発された既存システムに対して、要件に基づいて動作するKiroを使うと、問題が複雑化する恐れがあるという。

 AWS社は2025年8月、Kiroの料金プランを公開した。無料プラン「KIRO FREE」の他、月額20ドルの「KIRO PRO」、月額40ドルの「KIRO PRO+」、月額200ドルの「KIRO POWER」を用意している。同時点では、KIRO FREEのみを提供している。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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