「Windows 10サポート終了」は面倒な運用をやめるチャンス? 何を変えるべき?OS更新の先にあるIT運用問題【後編】

Windows 10のサポート終了を契機に注目される「モダンマネジメント」。Microsoft IntuneやWindows Autopilotを活用し、中小企業が実現可能な運用改善の現実解を探る。

2025年09月26日 05時00分 公開
[そらのすけ雨輝ITラボ(リーフレイン)]

 限られた予算や人員体制の中で、OS更新を進めることは容易ではない。2025年10月14には、MicrosoftのクライアントOS「Windows 10」の公式サポートが終了する。これを単なる更新作業と捉えるのではなく、IT運用の見直しや効率化に向けた好機とすることが重要だ。

 前編「“Windows 11未移行”企業が見直すべき『Windows 10脱却』だけではない真の問題」では、Windows 10のサポート終了に伴い、中小企業が直面するIT管理上のリスクと、その対応策について解説した。今回は、Microsoftが提唱する「モダンマネジメント」という管理手法と、それを支えるツールである「Windows Autopilot」と「Microsoft Intune」の実像に迫る。中小企業でも実践可能な導入モデルや運用イメージを紹介し、OS更新を運用改善へとつなげる現実的なアプローチを提示する。

モダンマネジメントで面倒なWindows運用から脱却

クラウド前提で端末を管理する新しい考え方

 モダンマネジメントとは、Microsoftが提唱する新しいIT管理の考え方で、社内ネットワークに依存する従来型の管理方法から脱却し、クラウドベースでの端末管理を前提とするアプローチだ。従来、PCのセットアップやソフトウェア更新、ポリシーの適用などを社内のIT担当者が手作業で実施するのが基本だった。作業が特定の担当者に依存しやすく、ミスや負担の偏りが発生し、特に少人数のIT部門には大きな負担となっていた。

 一方、モダンマネジメントでは、クラウド経由で端末の状態を常に把握し、ポリシーの適用やアプリケーションの配布、セキュリティ対策などを自動的かつ一元的に実施できる。これにより、IT管理の効率化と標準化が進み、物理的な制約を受けず、人為的なミスの少ない運用が可能になる。

セキュリティと運用効率を両立するMicrosoftの管理基盤

 Microsoftは、モダンマネジメントの実現に向けて、セキュリティと運用効率の両立を重視した管理基盤を提供している。特に、クラウドサービスによる端末およびユーザー管理の一元化と、自動化による運用負荷の軽減を重視している。

 具体的には、Windows Autopilot、Microsoft Intuneなどのツールを組み合わせることで、企業のIT担当者が端末の状態監視やポリシー適用、ソフトウェア配信を中央で管理できる。これにより、拠点や働き方の多様化に対応しながら、統一されたセキュリティポリシーを適用できる。

 同社はまた、「ゼロトラスト」のセキュリティモデルを採用し、端末やユーザーを無条件に信頼せず、常に認証・検証を実施する仕組みを強化している。これにより、テレワークの普及やBYOD(私物端末の業務利用)といった環境変化に対応しつつ、高いセキュリティ水準を維持できる。

Microsoft IntuneとWindows Autopilotが可能にする次世代管理

Windows AutopilotでPCセットアップの出荷時設定を自動化

 Windows Autopilotは、PCの初期セットアップをクラウドベースで自動化する仕組みだ。従来はIT担当者が手作業で実施していたOS初期設定やソフトウェアインストール、セキュリティポリシーの適用などを、ユーザーがPCを起動してインターネットに接続するだけで完了できる。これにより、IT部門は端末に直接触れる必要がなくなり、セットアップに要する時間と労力を大幅に削減できる。

 Windows Autopilotでは、部門や役職ごとに異なる設定をまとめたグループやプロファイルを作成し、それぞれの端末に自動で適用できる。例えば、営業部門にはVPN(仮想プライベートネットワーク)設定や外部アクセス向けのセキュリティポリシーを、経理部門には専用業務アプリケーションのプリインストールや印刷環境の構築を割り当てるといった運用が可能だ。これにより、端末の利用目的に応じた最適な構成を効率よく実現し、業務開始までの準備期間を大幅に短縮できる。

Microsoft Intuneで使い始めてからの運用を一元管理

 Microsoft Intuneは、端末がユーザーに渡った後の運用管理をクラウド上で一元的に実施できるサービスだ。管理者はMicrosoft Intuneを使って、アプリケーションの配信や更新、セキュリティポリシーの適用といった各種管理作業を一括で実施できる。重要なパッチ(修正プログラム)を即時配布したり、OSやアプリを定期的に自動アップデートしたりすることで、端末のセキュリティを継続的に確保しやすくなる。

 端末が紛失・盗難に遭った場合でも、リモートワイプ(遠隔初期化)機能で情報漏えいリスクを最小限に抑えられる。BitLockerの有効化やUSBデバイスの利用制限など、企業が求めるセキュリティ要件をポリシーとして設定・強制できるため、運用の標準化とセキュリティ強化を同時に実現できる。

中小企業でも“使える”導入モデルと運用イメージ

【仮想事例】製造業・50人規模の中小企業で導入した場合

 ここでは、従業員数50人規模の製造業企業がモダンマネジメントを導入する場合を仮想事例として想定する。

 この企業では、IT担当者が新規PCのセットアップに多大な時間と労力を費やし、端末ごとに設定やインストールされているソフトウェアが異なるため、運用が属人化していた。その結果、管理にばらつきが生じやすく、セキュリティポリシーの適用状況も不透明で、監査対応への不安を抱えていた。さらに、端末の紛失や盗難時の対応や、OSやアプリケーションの更新管理も手作業に依存しており、リスク対応が遅れがちだった。

 こうした課題を抱えていたこの企業は、以下のステップでWindows AutopilotとMicrosoft Intuneの導入を進めた。

  1. Windows Autopilotの新規PC適用準備
    • クラウド上に部門別・役職別の設定テンプレートを用意し、PCの初期セットアップを自動化する体制を整えた。
  2. 新規PCの自動セットアップ開始
    • ユーザーはPCの電源を入れてインターネットに接続するだけで、テンプレートに基づいた必要なソフトウェアやセキュリティ設定が自動的に適用されるようになり、IT担当者の物理的作業が削減された。
  3. 全てのPCへのMicrosoft Intune段階的導入
    • 既存PCも対象にMicrosoft Intuneを導入し、クラウド上で運用管理を一元化。OS・アプリケーションの更新管理やセキュリティポリシーの適用状況をリアルタイムで把握できる体制を整えた。
  4. リスク対応体制の強化
    • 紛失や盗難に備え、Microsoft Intuneのリモートワイプ機能を設定し、万一の場合は遠隔から端末データを初期化して、情報漏洩リスクを抑えられるようにした。

 まず新規導入PCにWindowsWindows Autopilotを適用し、その後既存端末も段階的にMicrosoft Intune管理へ移行することで、現場の混乱を抑えながら無理のない運用改善を実現できる。このようにWindows AutopilotとMicrosoft Intuneを段階的に導入した結果、従来の属人的で非効率な運用体制から脱却し、IT部門の業務負担が軽減されると同時に、全社的なセキュリティ水準の向上も見込まれるようになった。

導入に当たっての現実的なハードルと解決策

 モダンマネジメントの導入には、一定のハードルがある。例えば、クラウド管理環境が整っていない企業では、まず基盤整備から着手しなくてはならない。また、Microsoft IntuneやWindows Autopilotの初期設定には一定の知識が必要なため、自社で対応できる人的リソースが不足している場合は、外部ベンダーと連携し支援を受ける体制を整えるのが現実的だ。

 OS更新のタイミングで全社員の端末を一度に刷新するのは難しいケースも多い。そのため、まずは新規導入PCからWindows AutopilotとMicrosoft Intuneの設定を適用し、徐々に既存PCの管理もMicrosoft Intuneへ移行する「段階的導入モデル」が有効となる。このように柔軟な移行ステップを踏むことで、IT部門の負担を抑えながら、モダンマネジメントへの転換を実現できる。

 モダンマネジメントは、限られたリソースでも実現可能できる現実的かつ戦略的な選択肢だ。Windows AutopilotやMicrosoft Intuneを活用すれば、情報システム部門の業務負荷を軽減しつつ、セキュリティと効率を両立した運用が可能になる。OS更新という"きっかけ"を「戦略的な運用改善」へと結び付けることが、これからのIT部門に求められている。

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