レガシーITと決別したい政府がGoogleと契約 “お役所仕事”はどう変わる?ベンダーロックインからの脱却

さまざまな企業がレガシーシステムという“負債”を抱え、ベンダーロックインや高騰する維持費に苦しんでいる。この問題を解消するために、Googleと手を組んだのが英国政府だ。壮大な「行政DX」の中身に迫る。

2025年10月06日 05時00分 公開
[Caroline DonnellyTechTarget]

 組織のデジタルトランスフォーメーション(DX)を阻むレガシーインフラという根深い課題に、英国政府がGoogleと組んで解決に乗り出した。英国の科学、イノベーション、技術省(DSIT)は、同社のクラウドサービス部門であるGoogle Cloudとの戦略的パートナーシップに合意し、中央省庁のレガシーシステム依存からの脱却を図ろうとしている。

クラウドとAIで挑むレガシーシステムとの決別

 このパートナーシップに基づき、Googleは2030年までに公共部門で働く職員最大10万人に対し、AIやその他のデジタルサービスの活用に関する研修を、Google Cloudのトレーニングプログラムを通じて提供することを目指す。これは、同時期までに技術職に従事する職員の割合を10人に1人にするという英政府の目標を後押しするものだ。

 Google Cloudと英国政府は、政府横断型のセキュリティシステム開発の可能性を共同で模索していくことについても合意した。このセキュリティシステムは、公共部門全体が直面するサイバーセキュリティの脅威を監視し、対応するためのものだ。

 2025年7月にロンドンで開催された「Google Cloud Summit」で登壇した英技術担当大臣(当時)のピーター・カイル氏は、「この合意は英国政府にとってGoogleとの『全く新しい協力の形』を象徴するものだ」と述べた。

 「この合意は、政府がGoogleにとっての重要なパートナーであり、同社の技術が英国の公共サービスを刷新する上で不可欠であるという、双方の認識の上で結ばれた。これによって、市民のニーズに寄り添い、費用対効果の高い行政サービスを実現できる」(カイル氏)

 英国政府とGoogleの協力関係は既に具体的な成果を生んでいる。英国政府はGoogleの大規模言語モデル(LLM)「Gemini」を基盤としたAIツール「Extract」を開発し、地方自治体が手書きの計画文書や地図を数分でデジタル化できるようにした。

 「Extractは、建設を遅延させる原因になるお役所的な手続きを解消する計画の要になり得る。現議会の任期中に公約した、150万戸の住宅建設の達成にも貢献するだろう」とカイル氏は続けた。

公共部門に進出するGoogle

 Google Cloudは近年、英国での公共部門の事業獲得に注力してきた。その象徴が、2023年に設立した、公共部門に特化した事業部門だ。

 以前からGoogleは公共部門との関わりが深く、オフィススイート「Google Workspace」の初期版は、2010年代にさまざまな地方自治体が積極的に導入していた。

 Google Cloudは、英国政府の中央調達機関Crown Commercial Service(CCS)と連携し、公共部門のITバイヤー向けにサービスを優遇価格で提供した実績もある。英国政府が公共機関向けに作成した大規模クラウドサービスベンダーのカタログ「Cloud Compute 2」に正式登録されるなど、公共機関のクラウドサービス導入を円滑化するための調達協定にも参加してきた。

 今回の新たなパートナーシップ締結と、カイル氏が語る「レガシーシステムを供給するベンダーへの依存」からの脱却という強い意志を考慮すると、英国政府のIT支出に占めるGoogleの割合はさらに拡大する可能性がある。

 カイル氏は、公共部門にあるレガシーシステムが、納税者に「莫大な出費」を強いるだけではなく、システム障害やサイバー攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)な状態を生んでいるとも指摘した。

 「公共部門のシステムの4分の1以上が、この足かせのような技術で動いており、警察機関に至っては70%に上る。何十年も前に結ばれた契約の下で、一部のIT企業が公共部門を食い物にしてきた事例が国中で見られる」(カイル氏)

 カイル氏は例として、公共機関が旧来のITベンダーとの契約を解除できず(ベンダーロックイン)、データが時代遅れのサーバに閉じ込められ、その維持費用が年々つり上げられるといった事例を挙げた。

 「私は、このような高コスト体質を生む束縛から完全に脱却する決意だ。今回のGoogleとのパートナーシップを通じて、レガシーシステムという足かせにはまった公共機関のクラウド移行を促進できる」とカイル氏は主張した。

 DSITは、公共部門のITを現代の水準に引き上げることを目指している。警察や国民保健サービス(NHS)が運営するトラスト(病院運営組織)、地方自治体、政府機関が、より公正な価格でITベンダーから調達できるよう支援する構えだ。

 カイル氏は次のように指摘する。「公共機関には、納税者のために最良の取引を引き出す交渉力や市場での影響力が十分ではないため、役に立たない技術にさえ正規の価格を支払う羽目になっている」

 今回の協定によって、Googleは英国政府の「戦略的テクノロジーパートナー」になった。カイル氏はこのようなパートナーシップを、他のITベンダーとも築いていきたいと考えている。それによって経済成長の促進、雇用創出、公共サービスの向上、納税者にとっての価値の増大につながる道が開かれると同氏は展望する。同氏は「最高の技術を最高の価格で提供してほしい」と大手ITベンダーに呼び掛ける一方で、英国政府の巨大なIT予算が国内企業の成長にもつながるよう、契約の機会を公正に与える方針も強調した。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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