管理者やエンドユーザーからの「システムが遅い」という苦情は、単なる不満ではなくシステム崩壊の予兆である可能性がある。レガシーなストレージシステムのアップグレードを決断するサインになる5つの兆候とは。
企業のストレージシステムのアップグレードは容易ではない。そのためIT管理者は、NAS(ネットワーク接続ストレージ)やSAN(ストレージエリアネットワーク)といったストレージシステムのアップグレードになかなか踏み切れないのが実情だ。しかし、増大する企業のデータ要件に応えられないレガシーストレージを使い続けることは、ビジネス機会の逸失、規制順守の不備、そして事業継続へのリスクや復旧に多大な費用がかかる事態につながる可能性がある。
IT管理者が、ストレージインフラの性能にボトルネックが生じているかどうかを把握するためには、何を確認すべきなのか。NASやSANのアップグレード時期が来たことを示す5つの警告サインを紹介する。
IT管理者やエンドユーザーからのパフォーマンスに関する苦情は、最優先で対処すべき問題だ。これらの苦情の最も一般的な原因は、古いハードウェアやレガシーなNFS(Network File System)など、旧式のプロトコルを介したアクセスによって、データ検索時間が遅延してしまうことだ。
AI(人工知能)ツールやリアルタイムデータベースなど、入出力の負荷がかかる処理におけるボトルネックは、アプリケーションの速度低下を引き起こす。過負荷状態のストレージアレイでは、ピーク時の利用中に断続的なダウンタイムのリスクが生じる。ストレージの応答時間とパフォーマンスを改善できないIT管理者は、その専門的な評価や職責が問われる事態になりかねない。
既に多忙なIT部門が、ストレージに関する苦情対応に追われることは避けたい事態だ。レガシーストレージシステムでは、レイテンシ(遅延)の急増やデータが断片化(サイロ化)した状態に対処するために、IT管理者が定型的で反復的な手作業を実施する必要がある。その結果、作業負荷が発生し、トラブルシューティングに何時間も費やしたり、更新中にダウンタイムのリスクを招いたりする。
エンドユーザーや事業部門が、機能不全に陥っているストレージシステムを使わずに、企業が未承認のクラウドサービスやローカルストレージにアプリケーションを移行させるケースが散見される。企業のストレージシステムが機能の限界に達し始めると、ビジネスの要求に対してインフラの能力が追い付かないというギャップが発生する。
データリカバリー(復旧)の動作が遅いレガシーストレージシステムは、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)で暗号化された状態から、復旧に数時間あるいは数日かかる場合があり、ダウンタイム(停止時間)が長引く。ダウンタイムとデータアクセスの途絶は、データの可用性や保護に関する規制の違反を招き、数百万ドル規模の罰金が科せられる可能性がある。サービスの中断による生産性や収益の損失を通じて、顧客の信頼を損ない、評判を落とす恐れもある。
レガシーストレージシステムは、現代的なストレージシステムよりも多くのフロアスペースを占有する。これは、物理的なスペースに余裕がないデータセンターにとっては深刻な問題だ。ラックスペースの占有面積がはるかに小さいNASやSANにアップグレードすることで、レガシーシステムを高性能なストレージに置き換える時期が来ていることを示している。
遅かれ早かれ、企業、特にプライベートデータセンターを持つ企業は、NASやSANのアップグレードが不可欠であることを示す警告サインに直面する。ストレージのモダナイゼーション(近代化)は、現在の問題を解決するだけではなく、将来への戦略的な投資だ。TechTarget(Informa TechTargetとして事業展開)の調査ブランドOmdiaのアナリスト、サイモン・ロビンソン氏は、ストレージのモダナイゼーションを推進する技術的な要因があると指摘する。具体的にはストレージインフラにおける人工知能(AI)技術の優位性の高まり、サイバーセキュリティの脅威が増す中でのデータ保護強化の必要性だ。
もちろん、金融、医療、政府など、機密データを扱う分野にとって、プライベートデータセンターは依然として不可欠だ。プライベートデータセンターは、オールフラッシュアレイやAI技術による自動化、ハイブリッドクラウドといった技術やアーキテクチャによって、長期的なビジネスの成功を支える、俊敏で効率的なシステムに進化できる。
Omdiaは、AIモデルが要求する処理の増大やデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、世界中のミッションクリティカルなデータセンター向けストレージの市場が今後もさらに成長すると予測する。「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)や「Microsoft Azure Blob Storage」といったクラウドストレージサービスへのデータ複製は、ストレージにかかる費用を削減し、プライベートデータセンターにおけるデータのバックアップやアーカイブの自由度を高めることにつながる。
ストレージインフラのモダナイゼーションによって、企業は以下の目標を達成できる。
高密度なオールフラッシュのNASやSANで構築したストレージシステムは、ラックスペースを削減し、エネルギー消費量を抑える。AI技術による自動化は、管理にかかる間接的な工数(オーバーヘッド)を減らし、運用費の削減に貢献する。
バックアップデータのイミュータビリティ(不変性)を保持できるシステムは、ランサムウェアからの迅速な復旧を可能にし、復旧時間を短縮する。これによってダウンタイムを最小限に抑え、厳格な規制へのコンプライアンス(法令順守)を確保する。
ハイブリッドクラウドの実装、ストレージインタフェース規格「NVMe-oF」(NVMe over Fabrics)に準拠するストレージの導入は、エクサバイト規模のデータ処理を可能にする。このようなストレージシステムは、発生源の近くでデータを処理する「エッジコンピューティング」、生成AIといった技術トレンドを受け入れやすい。
オールフラッシュアレイはレイテンシを大幅に低減し、サービスやリアルタイムデータ処理のアプリケーションパフォーマンスを向上させ、アプリケーションに対する顧客満足度を高める。
こうした成果によって、プライベートデータセンターの運営者はレガシーな制約を克服できるようになる。その結果、AIツールの大規模導入などの将来の需要に対する万全の備えを固め、企業の競争力とコンプライアンスを両立させることが可能になる。
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