2026年に「運用崩壊」が到来? IT部門が危機を乗り切るためのトレンド12選人手不足と複雑化の波に飲まれないために

AI関連処理の爆発的な増加と慢性的な人材不足が、従来のIT運用を崩壊させる――。そのような事態は着実に迫っている。2026年のIT運用の現場を襲う危機を乗り越えるために、知っておくべき12個のトレンドを解説する。

2025年12月25日 05時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

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 2026年に向けて、IT運用の現場は分岐点を迎えることになるだろう。企業が効率性と競争優位性を維持できるかどうかは、技術とガバナンスの在り方をいかに適応させることができるかにかかっている。

 IT部門に今求められているのは、単なる新技術の導入ではない。費用対効果を維持しつつ、目に見える成果と業務改善を実証しなければならないという、厳しい「構造改革」の要求だ。

 その変革の中心にあるのが「AI(人工知能)技術」と「クラウドサービス」なのは言うまでもない。AI技術はもはや実験的なものではなく、特定の業務課題を解決するための「実用的な選択肢」に移行している。

 だが最大の問題はそこではない。これらの高度な技術やシステムを扱うための「IT運用スキル不足」という課題が、かつてないほど鮮明に、そして深刻に顕在化している。

 本稿は、2026年にIT部門を直撃する12個のトレンドを解説する。IT分野の意思決定者は戦略リーダーとして、これらのトレンドを計画に組み込み、課題を成長機会へと変えていく必要がある。

トレンド1.「AIOps」による自律型インフラ管理

 AI主導の自律型インフラ管理は、現代のIT運用の基礎となりつつある。この運用方法こそ、革新的で回復力(レジリエンス)があり、費用対効果と俊敏性に優れたサービスを実現する鍵だ。

 現代のITシステムは複雑かつ大規模であり、動的に変化し続ける。もはや人手だけで管理することはほぼ不可能だ。IT人材不足がこの問題をさらに悪化させている。「事後対処」ではなく「プロアクティブ(能動的)な管理」や「予知保全」が求められる現代において、「AIOps」(IT運用のためのAI)の重要性は明白だ。

トレンド2.エッジファースト

 データの発生源(エッジ)に近い場所で処理を優先する「エッジファースト」という設計思想は、2026年の最重要トレンドの一つだ。このトレンドの中で、分散型システムはインフラの中核を成す不可欠な要素として位置付けられるようになる。企業はこの変化に伴って、システムの設計、展開、管理方法を見直さなければならない。AI関連処理の増加、5G(第5世代移動通信)、低遅延アプリケーションの要件がこの動きを加速させている。

 エッジファーストアーキテクチャを効果的に設計、運用するためには、以下の重要な概念を押さえておく必要がある。

  • エッジデータセンター
    • データの発生源に近い分散型データセンター。
  • エッジAIワークロード
    • エッジコンピュータで直接実行されるAIアプリケーションや、その推論処理。
  • データ主権(データの制御と管理に関する権利。「データソブリン」とも)とローカライズ
    • データを特定の国や地域にとどめるための、エッジの計算能力とデータ保管の仕組み。

 現在のIT運用においては、オーケストレーション、セキュリティ、オブザーバビリティ(可観測性)を標準機能として搭載する、エッジとクラウドサービスを組み合わせたインテリジェントなインフラの活用が求められる。

トレンド3.人材不足とスキルの変革

 スキルギャップと人材育成の停滞はIT業界を悩ませ続ける根深い問題だ。適切な人材を適切な場所に配置することの重要性は、かつてないほど高まっている。技術の進化スピードに対して、AIやサイバーセキュリティ、自動化といった分野で人材不足が深刻化している。

 AIOps、AIモデルの運用、AI技術を活用したセキュリティに関する人材をどう育成し、維持するかが企業には問われている。既存のIT部門だけでは、高度なAI機能を効果的に設計、運用し、最大限に活用するためのスキルが不足しがちだ。AI技術のガバナンスに関する知見を持つ人材の確保も困難になっている。

 この問題の解消のためには、ターゲットを絞ったトレーニングやリスキリング(再教育)プログラムに投資し、継続的な学習環境を提供することが重要だ。これによって企業は優秀な人材を維持し、競争力を保つことができる。

トレンド4.デジタルツイン

 実際のシステム、プロセス、インフラをデジタル空間にリアルタイムで再現する技術「デジタルツイン」は拡大を続けており、2026年にはさらなる普及が予想される。デジタルツインを用いることで、本番環境に影響を与えずにストレステストやシミュレーションを実施できる。AI技術、リアルタイム監視、IoT(モノのインターネット)などを駆使して、クラウドサービスやデータセンター、ネットワーク構成をシミュレートすることで、現実に即したテストが可能だ。予知保全やデータに基づく予測、費用対効果の向上、意思決定の迅速化にも寄与する。

 将来的には、デジタルツインに量子コンピューティング(量子力学を用いて複雑なデータ処理を実施する技術)機能が加わることで、従来の計算技術をはるかに上回る速度と処理能力が実現することが期待されている。

トレンド5.ハイブリッドクラウド管理

 クラウドサービスとオンプレミスシステムを組み合わせたハイブリッドクラウドの管理は、2026年のIT運用の中心になる。企業はハイブリッドクラウドにおける回復力、適応性、セキュリティ、自動化を追求し続けている。

 過去にはクラウドサービスへの移行を第一とする動きがあったが、料金やセキュリティの観点から、一部のデータやアプリケーションをオンプレミスシステムやプライベートクラウドに戻す「オンプレミス回帰」を招いた。企業はようやくハイブリッドクラウドによって最適なバランスを確立しつつある。

 このバランスを保ち、ハイブリッドクラウドの料金、セキュリティ、コンプライアンス(法令順守)のメリットを最大化するには、慎重な管理が必要だ。ハイブリッドクラウドの管理は、自動化やモニタリング、データ主権など、他のITトレンドと密接に関連している。

 自社に適したハイブリッドクラウド戦略を定義することで、以下のメリットが期待できる。

  • 迅速な拡張性
  • データ主権および規制の順守
  • ビジネスの変化に対する適応性
  • 料金の最適化
  • 環境への配慮

トレンド6.ハイパーオートメーション

 「ハイパーオートメーション」は、従来の自動化を大きく超えた革新的なアプローチだ。AI技術や分析ツールなどを集約し、複雑で大規模な業務ワークフロー全体を自律化させる。インフラ管理、予知保全、インシデント対処、復旧など、IT運用のあらゆる領域が対象になる。

 ハイパーオートメーションは単なるタスクの自動化ではなく、より深いレベルでの意思決定支援やプロセスの横断的な連携を実現するものだ。ITリーダーは、複雑な複数段階のワークフローを特定し、ハイパーオートメーションの適用候補を洗い出すべきだ。ただしハイパーオートメーションは専門性が高く、新しい分野であるため、全てを自社で内製するよりも、実績があるベンダーと連携する方が賢明だ。

トレンド7.Network as a Service(NaaS)とインテリジェントネットワーキング

 「Network as a Service」(NaaS)は、ルーターやスイッチなどのネットワークインフラを自社資産として保有せず、サービスベンダーから借りて利用するモデルだ。NaaSにAI機能を導入し、「インテリジェントネットワーキング」を構築することで、回復力、セキュリティ、処理性能の向上が見込める。

 NaaSとインテリジェントネットワーキングは、以下のトレンドを支える重要な基礎になる。

  • クラウドネイティブの進化
    • アプリケーションやアーキテクチャのクラウドネイティブ化が進むにつれて、定義された運用ルール(ポリシー)に従って構成や設定を動的に変更できるNaaSの必要性が高まる。
  • AI機能によるネットワーク最適化
    • トラフィック混雑の予測や障害復旧の自動化において、AI技術の活躍の場が広がっている。
  • エッジと接続性
    • 分散した拠点とそれを支える5Gなどの次世代通信において、NaaSとインテリジェントネットワーキングが提供する最適化と回復力は不可欠な要素だ。

トレンド8.ソブリンAIとコンピューティングのローカライズ

 国際的な規制や経済安全保障の観点から、企業はデータプライバシーと管理、特にデータ主権とデータの国内管理に関する対処を迫られ続けている。「ソブリンAI」は、学習データやAIモデルを特定の国あるいは地域の境界内にとどめ、コンプライアンスと透明性を確保する仕組みだ。その実現には、以下の取り組みが欠かせない。

  • ガバナンスの強化
  • 法規制への適合
  • 現地での人材育成と確保

 こうした需要に応えるために、一部のAIベンダーは特定の地域に特化したAIサービスやデータ管理サービスの構築を進めている。

トレンド9.ゼロトラストセキュリティ

 何も信用しないことを前提としたセキュリティの概念「ゼロトラストセキュリティ」は、もはや「あると望ましい」概念ではなく、現代のセキュリティシステムにとって「不可欠な前提条件」へと進化した。クラウドサービスの利用拡大、オフィスワークとテレワークを組み合わせる「ハイブリッドワーク」の定着、ID管理の複雑化が、ゼロトラストセキュリティ普及を後押ししている。具体的なトレンドは以下の通りだ。

  • 多要素認証(MFA)要件の厳格化
  • VPN(仮想プライベートネットワーク)接続からゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)への移行
  • 重要なシステムやアプリケーションを保護するためのマイクロセグメンテーション(区画化)
  • AI技術を用いた脅威検出、状況に応じて防御レベルを動的に調整する「適応型セキュリティ」、インシデント対処の迅速化

 一方でゼロトラストセキュリティの導入に際しては、レガシーシステム、複雑なシステム構成、企業文化的な抵抗といった課題も残っている。

トレンド10.サステナビリティー(持続可能性)主導のIT運用

 先進的な企業は、環境への責任をIT運用における不可欠な要素だと位置付け、「GX」(グリーントランスフォーメーションの一環として取り組んでいる。主なトレンドは以下の通りだ。

  • ハードウェアのリサイクルと適切な廃棄処理
  • ハードウェアの利用期間延長(延命)や、再生品システムの活用
  • AI技術を活用した電力消費の最適化
  • 環境負荷を考慮したシステムアーキテクチャ設計
  • GreenOps(環境に配慮した運用)を組み込んだ自動化

 重要なのは、これらを単なる「コンプライアンスの迎合」として渋々実施するのではなく、費用削減やブランド価値向上、ESG(環境、社会、ガバナンス)に配慮した経営への貢献といった「戦略的優位性」として捉えることだ。

トレンド11.ハイブリッドワーク

 オフィスワークとテレワークを組み合わせる体制は、企業の拡張性を高めるだけではなく、地理的な制約を超えた優秀な人材の獲得を可能にする。コラボレーションツールの真価、安全なリモートアクセス、世界中で利用可能なクラウドサービスが、こうした働き方を支えている。

 テレワークやハイブリッドワークの整備は、従業員のワークライフバランスやエンゲージメント(働きがい)に好影響を与え、生産性と創造性を向上させる。通勤の削減やオフィスの分散化は、BCP(事業継続計画)やセキュリティ強化の観点からもトレンドだ。

トレンド12.継続的な課題

 IT部門は依然として、スキル開発と予算の制約という厳しい課題に直面している。データ主権に関する規制の複雑化や、AI技術の急速な進化も、長期的な戦略の策定を困難にしている。2026年に向けた最大の戦略的課題は、AI技術を「未知の可能性を秘めた実験ツール」から、「ビジネスの根幹を支える、信頼性の高い本番ツール」に昇華させることだ。

 企業の俊敏性、効率性、コンプライアンスの確立を目指すITリーダーは、これらのトレンドが自社の将来にどう関わるのか、今すぐ検討を始める必要がある。

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