「7割の凡庸な部下」に宝は眠る 情シス部長が「隠れエース」を見抜く極意“コミュ障だけど技術はすごい”人は終わり?

エンジニアの採用難が続く中、外部からの調達だけに頼る組織作りには限界がある。ダイヤの原石を見逃さず、優れた人材を見定めるための施策とは。

2025年12月26日 15時00分 公開
[Andy PatrizioTechTarget]

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 少子高齢化や経済環境の変化を経て、企業が「終身雇用」を維持し続けるのは困難になりつつある。一方、現在の職場で不満を感じた従業員は、ためらいなく転職するための選択肢を持つことができるようになった。

 では、企業は自社に貢献する可能性を持つ「ポテンシャル人材」の離職をただ傍観するしかないのか。人材開発の専門家たちは、ポテンシャル人材を見抜くための具体的な「観察ポイント」や、面接・1on1で投げるべき「キラークエスチョン」の知見を持つ。本稿は、ポテンシャル人材を迅速に見極め、育成するためにできることを紹介する。

ポテンシャル人材の見極め、まずやるべきことは

 実業家のジャック・ウェルチ氏は「20-70-10ルール」という従業員の評価モデルを掲げている。つまり、従業員の上位20%を「最も成果を上げる層」、中間70%を「平均的な能力を持ち、さらなる訓練を要する層」、下位10%を「淘汰する対象とする層」に分けるという考え方だ。

 ウェルチ氏のモデルに沿って、企業を牽引する上位20%を育成することは1つの選択肢だ。理想的には、70%の中から高い潜在力を持つ従業員を発掘し、そこからリーダーを育てることも合わせて取り組む。リーダー候補を外部から登用するよりも、社内で育成した方が効率的で、コストを抑えられる。

採用で重視すべきポイントは

 人材紹介会社Experisのブライアン・ウォール氏(クラウドエンジニアリング統括者)は、「ハードスキルが重要なのは当然だが、ソフトスキルも同じくらい重視しておきたい」と指摘する。

 「ひと昔前であれば、コミュニケーション能力に難があっても、エンジニアとして優秀であれば許容された。今では、“仕事はできるが一緒に働きにくい”人材は受け入れられなくなりつつある」

 人材テック(HR Tech)ベンダーMetaintroのレイシー・ケイラニ氏(共同創業者兼CEO)も同意する。同氏によれば、採用担当者も求職者もソフトスキルを重視していないという企業は存在する。

 「採用担当者は大量の応募に追われ、人工知能(AI)ツールを使って応募書類を急いで仕分けしている。しかし、本来は面接官が候補者のソフトスキルを見抜くべきであり、候補者はソフトスキルを押し出していくべきだ」

 「ポテンシャル人材とは、自らの影響範囲を超えて組織全体に波及的な効果をもたらす人物である」。採用プラットフォームElly.aiを運営するRECRUIT TECH LABSのエイブ・ワイザー氏(人材獲得部門責任者)はこう述べる。「ポテンシャル人材は“なぜ自分がそれをするのか”、“どのように目的を達成するのか”を深く理解している」

採用する側が養うべきスキルは

 「ポテンシャル人材の早期発掘では、AIツールだけに頼るのではなく、人間の観察力と洞察力を重視すべきだ」。この点について、HRソフトウェアベンダーVisierのアンドレア・ダーラー氏(リサーチ責任者)は次のように述べる。

 「複雑な問題を解こうと努力する。そして、解決するまで決して諦めない姿勢――。これこそがポテンシャル人材を見極める基準だ」(ダーラー氏)

 Visierは膨大なデータと数学的モデルを扱うため、従業員に極めて特殊なスキルを求めている。「最終的な答えや概念を見出すまで粘り抜ける者――。これが、一般的な従業員と高い業績を挙げる従業員を分ける要素だ」(ダーラー氏)

 ピアレビュー(同僚評価)はポテンシャル人材の発掘に役立つか。ケイラニ氏は「スタートアップのような小規模組織では、ピアレビューは摩擦を生むため不要」と述べる。ワイザー氏は「極めて重要」と強調する。「なぜなら、同僚こそがあなたの実際の働きを最もよく観察している存在だからだ」

見極めに使えるツールやフレームワーク

 ポテンシャル人材の特定は基本的には人力で実施する。しかし、特定プロセスを支援するツールもある。ワイザー氏によれば、人材評価マトリクス、スコアリングモデル、ナインボックスグリッドなどが有効だという。

 「これらのツールを有益に活用する場合、重視すべきポイントがある。目的に沿った構造を設けること。評価基準を明確にし、一貫した質問を投げることだ。“行き当たりばったりの面接”をするのではなく、“意図的かつ体系的な面接”を実施することが求められる」(ワイザー氏)

 ウォール氏は、業務外のテストや課題を組み合わせて評価を実施しているという。「私自身がコーディングの課題を出すこともある。共有画面を使って課題をこなす様子を確認できるツールは多数存在する。困難なスキル、特殊なスキルを評価する場面では、AIツールを使用することもある」

人材の発掘と育成の道筋をつなげる

 ポテンシャル人材を特定した後は、どのように育成するかが課題となる。専門家によって見解は分かれるものの、全員がメンターシップの重要性を強調している。

ケイラニ氏

 「誰一人として、適切なメンターなしに成功した人はいない。形式的な制度を作らなくてもいい。コーヒーを飲みながらおしゃべりをする関係、時折面談する程度の関係でもよい。上司がそのままメンターとなることもある」

ウォール氏

 同氏はリーダー候補の面接で必ず決まった質問を投げかけるという。

「『あなたはどのように若手のエンジニアを成長させますか?』だ。自分自身についても、定期的に1on1を実施するし、約束は履行する。従業員をいつも支援する姿勢で業務に臨んでいる」

ダーラー氏

 メンターシップに加え「部署外の従業員との接触機会」を作るようにしている。従業員を他部署の同僚や上司と接触する機会を設け、協働学習や相互コーチングの場を提供する仕組みだ。

離職を防ぐには

 ポテンシャル人材が何らかの理由で離職する可能性は常に存在する。では、どうすれば人材のモチベーションを維持し、組織に定着させられるのか。

 有給休暇、ボーナス、株式報酬、充実した産育休制度などの一般的な福利厚生は所与のものだ。ケイラニ氏によると、それでも優秀な人材が最も求めているのは「挑戦」だという。

 「ポテンシャル人材に困難なプロジェクトを任せ、裁量と必要なツールを与える。成長の機会を継続的に提供することで、離職率が下がるという結果が出ている。優秀な人材は結局のところ挑戦を求めている」(ケイラニ氏)

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