外出先でネットワークを確保できなければ、業務に支障が出る。スマートフォンのテザリングは手軽だが、バッテリーの急減や速度低下といった欠点もある。生産性を維持するためにモバイルルーターを選ぶべき条件とは。
テレワークを導入している企業では、出張中の従業員や一時的な場所で働く従業員のネットワーク接続を維持したり、ネットワーク障害に対処したりするために、モバイル通信が活躍する場面がある。IT部門がテレワーカーを適切に支援するには、各通信手段の強みと限界を正しく理解しておく必要がある。
モバイル通信でインターネット接続をするための代表手段は、「専用のモバイルルーター」と「テザリング」の2種類だ。モバイルルーターは通信機能に特化したハードウェアで、独自のデータ通信プランで運用する。テザリングは、スマートフォンを無線LANルーターとして機能させる仕組みを指す。無線ネットワーク名(SSID:Service Set Identifier)をブロードキャストし、ノートPCやタブレットなどのデバイスをインターネットに接続できるようにするものだ。安定した無線LANがない場所でも、スマートフォンを使うことですぐにインターネット接続を再開できる。
テザリングには、幾つかの制限が伴う。
こうした制限から、特定の用途ではモバイルルーターの方が適している。一般的に、費用の面ではスマートフォンを活用する方が有利だが、モバイルルーターならではの機能や安定性が大きなメリットをもたらす場面もある。企業は双方の特性を比較し、最適な構成を検討すべきだ。大半の企業にとって、両者を組み合わせた運用が現実的な解になる。
IT管理者は自社のニーズを評価し、どの手段を採用するかを判断しなければならない。専用のモバイルルーターとテザリングの違いは、用途や状況によって大きく分かれる。以下の表は両者の主な違いをまとめたものだ。
| 比較項目 | モバイルルーター | テザリング |
|---|---|---|
| 個人での利用 | デバイス代金に加え、専用の通信プラン料金が発生するため、個人利用では割高に感じることがしばしばある。 | スマートフォンを活用するため、追加の初期費用を抑えられ、費用対効果が高い傾向にある。 |
| チームでの利用 | 最大10〜30台の同時接続を可能にするモデルが主流。チームでの共同作業やビデオ会議にも適している。 | 数台程度の接続なら可能だが、台数が増えるほど通信品質の低下を招く恐れがある。 |
| 稼働時間 | 複数人での同時利用を想定しており、モデルによっては6〜24時間の連続駆動を実現している。 | スマートフォンのバッテリーを激しく消費するため、長時間の利用には不向き。 |
| 通信プラン | 選択肢が幅広く、デバイスにあらかじめ通信プランが組み込まれているものもある。スマートフォン向けよりも大容量なプランも豊富。 | スマートフォンの契約プランに依存する。一部のプランではテザリングが利用不可、または容量制限がある。 |
| 海外での利用 | SIMロックフリーのモデルが大半だが、特定の国や地域の周波数帯にのみ適合するデバイスも存在するため、事前確認が必要。 | 基本はスマートフォンの契約に従う。SIMロックフリーデバイスであれば現地のSIMカードも利用できるが、設定の手間がかかる。 |
| 導入費用 | デバイス価格は20ドルから1000ドルまで幅広い。簡易的なモデルから、32台を同時に接続できる高性能な機種まで存在する。 | すでに所有しているスマートフォンを使うため、実質0円から開始できる。 |
| 機能と拡張性 | 有線LANポートや外部アンテナ端子、管理ツール、高度なセキュリティ設定を備える。新しい無線通信規格も選択でき、運用の自由度が高い。 | 設定は単純で導入は容易だが、詳細な管理機能や外部接続端子などは備わっていない。 |
単独で外回りをする営業担当者にとっては、スマートフォンで十分な場合がほとんどだ。しかし、より強固なセキュリティや複数人での同時接続、高度な管理を求める監査担当者にとっては、モバイルルーターが適切だ。従業員のスマートフォンでテザリング機能が使えない場合や、契約プランの対象外である場合は、安価なモバイルルーターを配布することが有効な選択肢になる。最終的には、業務の実態に即した選択が求められる。
モバイルルーターを選ぶ際、IT部門は導入費用、バッテリー駆動時間、搭載機能などを多角的に評価する必要がある。
モバイルルーターの価格帯は幅広い。個人向けの簡易的なモデルなら20ドル程度だが、30台以上を同時接続できる高性能モデルは1000ドル近くに達する。通信プランについては、デバイス代金に含まれるものと、別途契約が必要なものに分かれるため注意したい。
モバイルルーターを購入する際は、以下の無線規格に最低限、準拠しているかを確認してほしい。
デバイスが扱う周波数帯が、通信事業者の提供周波数帯と一致しているかどうかも確認しよう。実際の通信速度は、場所や通信事業者の通信網に左右される。同じ国内でも速度が異なる場合がある他、Wi-Fi 6準拠デバイスであっても、接続先がWi-Fi 4のみのネットワークであれば、通信速度はWi-Fi 4の基準に制限される。
バッテリー駆動時間は製品によって異なり、連続使用で6時間から24時間程度が一般的だ。断続的な利用であればさらに長持ちする傾向がある。電源につないだまま利用することを想定すれば、バッテリー駆動時間が決定的な問題にならない状況も珍しくない。
SIMロックの有無はルーターを検討する上で重要な要素だ。SIMロックがかかったデバイスは特定の通信事業者に縛られるため、海外出張時に現地の割安なSIMカードに差し替えて使うといった自由が利かない。米国ではVerizon CommunicationsやAT&T、T-Mobileなどの通信事業者がSIMロック版を提供している。一方、SIMロックフリーのデバイスであれば、利用者が自由にプランを選択できる。さまざまなルーターメーカーが、自社デバイスに合わせた通信オプションを提示している。
「海外対応」という言葉の定義は製品ごとに異なるため、注意が必要だ。例えばHuawei Technologies製のルーターの一部モデルは、米国では利用できないケースがある。特定の国での利用を検討しているなら、必ずそのモバイルルーターが利用できる国のリストを確認しよう。
5G(第5世代移動通信)には、ローバンド、ミッドバンド、ハイバンドの3つの帯域がある。これらの帯域は特定の周波数で動作し、通信速度やカバーエリアがそれぞれ異なる。ローバンド5Gは広いエリアをカバーするが、速度は遅い。ハイバンド5Gは高速な半面、カバーエリアが限られるという欠点がある。ミッドバンド5Gはその中間で、速度とエリアのバランスに優れる。2021年に米連邦通信委員会(FCC)が認可したCバンドは、ミッドバンドの周波数帯域の中でも特に高い性能を実現する。
IT管理者は、以下の点も確認しておくとよい。
次回は、主なモバイルルーターを10種類紹介する。
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