SAP連携の「終わらぬ切り分け」に終止符 LIXILが障害調査を年200時間削った訳多段連携のブラックボックスと縦割りの壁を解消

フロントエンドと基幹システムを連携したシステムで障害が起きると、原因の切り分けが泥沼化し、復旧が遅れがちだ。ビジネスを停滞させる構造的課題を、LIXILはどう乗り越え、調査時間を年200時間も削減したのか。

2026年04月03日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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 建材、設備機器大手のLIXILは、工務店やリフォーム店などおよそ3万社が日々利用する営業フロントシステム「CRASFL」と、基幹システムであるSAPのクラウドERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA」を連携させてビジネスを展開している。CRASFLは同社の建材製品の売り上げにおける約50%を扱う重要なシステムであり、商品検索、見積依頼、発注、納期確認といった複雑かつ高負荷な処理を、リアルタイムで実行している。

 近年、LIXILは基幹システムの刷新と「Google Cloud」へのシステム移行を進める中で、フロントエンドからバックエンドに至る多段プロセスの遅延や障害対応が大きな課題となっていた。従来は、ユーザー体験を損なう問題が発生した際、フロントエンド担当者からバックエンド担当者に順次エスカレーションしながら、各担当者が原因を探る必要があった。この分断された“バケツリレー”手法では迅速な解決が難しく、難易度の高いトラブルシューティングには1週間を要することもあった。

 この「サイロ化」の壁を壊し、障害対応プロセスを抜本的に変革するため、LIXILはシステム全体の稼働状況を一元的に可視化する共通ツールとして、オブザーバビリティ(可観測性)を提供するシステムを導入した。その結果、問題の原因特定に要していた時間を年間およそ200時間削減することに成功している。

 多段にわたる複雑なシステム連携において、LIXILはいかにして迅速な原因特定を可能にし、開発組織の変革につなげたのか。

可視化で多段連携のブラックボックス化を解消

 LIXILが採用したオブザーバビリティツール「New Relic」は、アプリケーションからインフラ、ユーザー体験まで、デジタルサービスにおける重要指標を網羅的に観測し、潜在的なボトルネックを可視化する。

 CRASFL、API管理システム、SAP S/4HANAのフロントエンドおよびデータ連携層、バックエンドのSAP S/4HANAという一連の連携処理において、これまではシステムごとに運用担当者が分かれ、責任範囲も独立していた。New Relicの導入によって、インフラからアプリケーションまでを一元的に観測し、個別のシステム単位ではなく「顧客が利用するサービス」という視点での全体可視化を実現している。

 導入の決め手になったのは、バックエンドを支えるSAP S/4HANAへの適合性だ。New Relicは、SAPから公式に認証を取得しており、SAP製アプリケーション内部のプロセスやトランザクション全体をリアルタイムで可視化できる機能を備える。LIXILの藤江寿紀氏は、従来の標準ツールによる個別診断ではなく、Webフロントからバックエンドのシステム間連携のレスポンスを俯瞰的に捉えられる機能性を評価している。

 New Relicの導入後は、遅延が発生したSAP S/4HANAトランザクションの特定や応答時間の内訳出力などを、手作業で集計することなく即座に可視化できるようになった。これによって、従来は1週間を要していた複雑なトラブルシューティングが数時間に短縮された。New Relicが不具合を検出すると関係者のチャットにアラートを送信し、担当者が一次切り分けに必要な情報を網羅したダッシュボードを参照する仕組みが整った。レスポンス悪化の原因がコンピューティングリソース不足であれば即座にサーバをスケーリングし、アプリケーションの問題であればソースコードで原因を探るといった迅速な対処が可能になった。

 可視化の整備は、エンジニアチームの意識改革にも波及している。LIXILで国内向けセールスフロントシステムを担当する徳田和貴氏は、「アプリケーション開発者自身が自分の書いたソースコードの動作状況を把握できるようになったことは大きな変化だ」と語る。観測データが「共通言語」として機能し始めたことで、アプリケーション担当とインフラ担当の垣根を越えた連携が進んでいる。CRASFLの開発、運用、保守を担当する庄嶋 篤氏も「潜在的な問題を把握し、遅延などが発生する前に手を打てるようになった」との評価を寄せており、問題発見から対処までを自律的に進める組織文化が定着しつつある。

 現状は日次や週次などの頻度でパフォーマンス傾向を分析し、問題の予兆を探る運用を実施している。今後はシステムの監視という枠組みを超え、AI(人工知能)技術を活用した予測/検出機能の適用を視野に入れている。AI技術による観測データの相関分析を通じて、顕在化が迫る不具合の予測や、発生した問題の重要度提示、解決手法の助言などを受け、事後対応から未然防止へと運用を高度化させる計画だ。LIXILは顧客体験の最適化とビジネス損失の抑止に向け、真の意味で信頼性が高いシステムの構築を目指している。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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