開発要件に応え切れず外部委託が膨らむ一方、現場では独自のマクロによる「野良ツール」が乱造されてブラックボックス化する。IT部門によくあるジレンマを打破した、SMBC日興証券のローコード開発ツール活用とは。
事業部門からの要求に対し、IT部門の人手は常に枯渇している。要件に応えるために外部パートナーへの委託を増やせば、費用の最適化が難しくなるばかりか、社内に開発のノウハウが蓄積されないという大きな課題に直面する。
一方で、開発チームがない事業部門はどう動くか。彼らは自衛策として、「Microsoft Excel」マクロなどの手段を駆使して、独自の業務ツール(EUC:エンドユーザーコンピューティング)を乱造し始める。その結果、作成者にしか仕様が分からない「属人化したブラックボックス」が乱立してしまう。企業にとって重要な機能を、安定性や継続性が保証されていない“野良ツール”で運用し続けることは、コンプライアンスやリスク管理の観点から危険な状態だ。
SMBCグループの中核を担うSMBC日興証券も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴うビジネスニーズの急拡大によって、「開発プロセスの長期化」「人材不足」という壁に直面していた。IT部門主導の開発では変化のスピードに追い付けず、かといって事業部門主導のEUCを放置すればガバナンスが崩壊する。
この両極端な体制の間を埋め、「IT部門と事業部門が連携してスピーディーに改善を推進できる」第3の選択肢として、SMBC日興証券はローコード開発に着目した。金融機関という厳格な統制が求められる場において、同社はどのように野良ツールのリスクを抑え込み、システム開発におけるガバナンスを維持したのか。
SMBC日興証券は、システム開発プロセスの刷新とリソース調達の迅速化を目的に、ローコード開発ツール「OutSystems」を採用した。OutSystemsを提供するOutSystemsジャパンが発表した。開発期間を最大約50%短縮した他、開発に携わる人員を当初の4倍に拡充。2026年3月現在、グループ全体で約1万人の従業員が、OutSystemsで構築された各種業務アプリケーションを活用している。
SMBC日興証券は1918年創業の老舗証券会社で、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の中核を担う。同グループは2025年までの中期経営計画において、デジタル分野への投資を重要施策と位置付けている。その中でSMBC日興証券のシステム企画部では、生成AI(AI:人工知能)やクラウド、ローコードといった新技術を積極的に取り入れ、デジタルインフラの強化を推進してきた。
SMBC日興証券は従来、外部パートナー企業と連携してシステム開発を進めていた。しかし、COVID-19流行に伴うビジネス状況の変化や、DX推進によるデジタル化の加速、ビジネスニーズの拡大によって、開発プロセスの長期化や人材不足といった課題に直面していた。こうした変化にスピーディーに適応するため、内製開発を視野に入れた新たな開発体制の構築が求められていた。
ツールの選定に当たり、システムライフサイクルにおけるガバナンスが維持できることや、基幹システムとの接続性が確保されていることを重視した。学習が容易で、成果物の可視化を通じて持続的な開発体制を維持できる点も評価し、OutSystemsの採用に至った。
導入に際しては、銀行と証券の情報を一画面で共有する「銀証連携」のパイロット案件で実現可能性を検証した。プロトタイプを構築してテストを繰り返す手法によって、ユーザー部門の要件をきめ細かく取り込むことができた。実装面でもAPI接続やデザインの自由度を確認し、スクラッチ開発よりも容易に構築できると判断した。認定トレーニングを受けたIT未経験の新入社員が開発に貢献できたことで、内製化の有用性も実証された。
2026年3月時点での運用体制では、システム企画部から事業部門のITチームまで、パートナー企業を含めた開発メンバーを5人から20人に拡大している。社内では、銀行と証券の口座情報を一元化するアプリケーションなど、16件の社内アプリケーションが稼働中だ。Excelマクロなどで属人化していた業務をOutSystemsに移管したことで、ブラックボックス化の解消やリスク管理の強化にもつなげている。
SMBC日興証券の吉岡伸輔氏(システム担当執行役員)は、事業戦略として進める銀証連携の進化には、異なる文化を持つ組織が共通インフラで開発できるシステム戦略が不可欠だと指摘する。内製化できる人材を増やすための重要なツールとしてOutSystemsが役立っているとも評価する。
SMBC日興証券は今後、システムの統制や開発者支援を担うCoE(Center of Excellence)の浸透を図るとともに、AI主導の開発支援機能である「OutSystems Mentor」の活用も検討している。業務とITが一体となり、新たな価値を創出する体制づくりを加速させる。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「SMBC日興証券、ローコード活用で業務アプリケーション開発期間を半減」(2026年3月24日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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