基幹システム刷新時、IT部門が直面するのが現場の「今の帳票レイアウトを変えないで」という要望だ。これに安易に妥協すればアドオン開発の温床となる。スクウェア・エニックスが下した現実的な決断とは。
ERP(統合基幹業務システム)などの基幹システム刷新プロジェクトにおいて、IT部門を悩ませる“見えない壁”がある。それは、業務現場からの「新しいシステムになっても、現在使っている帳票と全く同じレイアウトを維持してほしい」という要望だ。
日本企業特有のビジネス習慣として、見積書や請求書といった業務帳票には、枠線の太さや位置、文字間隔など、細かいデザイン精度が求められることがある。しかし、このこだわりに寄り添い、海外製ERPに無理な追加開発を重ねれば、膨大な開発、保守費用を生み、将来のバージョンアップを阻害する「技術的負債」を抱え込むことになる。
総合エンターテインメント事業を展開するスクウェア・エニックスは、今後10年の成長を支える経営基盤として、会計などのコア業務を担う基幹システムをクラウドERP「SAP S/4HANA」に刷新した。同時に、現場ユーザーの利便性が求められる稟議(りんぎ)や購買などのワークフロー業務については、業務プロセス自動化サービス「Pega Platform」に集約する大規模プロジェクトを実施した。これらのシステム移行に伴い、同社も例外なく日本特有の「帳票要件」という課題に直面することになった。
SAP S/4HANAやPega Platformがクラウドサービスであることから、スクウェア・エニックスはシステム全体の一貫性を保つために帳票システムのクラウド化に踏み切った。「現行の帳票と全く同じものを出し続けたい」という現場の要望に対し、どのようなクラウドツールを選定し、システム標準を一元化したのか。
スクウェア・エニックスは、基幹システムの刷新に伴い、ウイングアーク1stのクラウド帳票サービス「SVF Cloud」を採用した。2026年4月3日、ウイングアーク1stが発表した。他システムとの自由度の高い連携によって、帳票の大量出力にも耐え得る安定的なシステム構成を整備した。クラウドサービスに統一された帳票システムを構築したことで、運用管理の効率化と処理速度を両立させている。
業務上の取引を記録、証明する帳票は、見積書や請求書など企業間取引において不可欠な存在だ。特に業務現場からは、システム刷新後も現行の帳票と全く同じレイアウトを維持したいという強い要望があった。日本企業特有の細かな枠線の太さや位置、文字間隔といった緻密なデザイン精度が求められる中、同社はこれらの課題を解決するソリューションとしてSVF Cloudを選定した。
採用の決め手となったのは、デジタル帳票システム「SVF」が培ってきた実績による信頼性と安定性だ。帳票開発の容易さに加え、日本特有の複雑な帳票要件を、アドオン開発なしで再現できるレイアウト再現能力も高く評価された。
新たな基幹システムは2023年5月から運用を開始している。2026年4月現在は、会計コアシステムであるSAP S/4HANAから出力される会計関連帳票の他、フロントエンドを担うPega Platformから発行される請求書、見積書、発注書といった各種報告書の全てがSVF Cloud経由で出力されている(図)。これによって、大量出力やリアルタイム出力においても優れた処理性能を確保し、日々発生する膨大な帳票の安定的な運用が可能になった。
今回のシステム刷新を機に、スクウェア・エニックスは業務プロセスや帳票システムの見直しも実施した。帳票の作成、管理をSVF Cloudに一元化するというポリシーを策定し、最終的に約50本の重要な帳票に絞り込んだ。エンジニアのスキルを集約して仕様やシステム標準を統一したことで、メンテナンス費用の抑制も見込んでいる。
スクウェア・エニックスの担当者は、「大規模なシステム刷新によって業務プロセスが大きく変化したにもかかわらず、現場ユーザーに違和感を与えることもない。安定して高品質な帳票を継続して提供できていることが、SVF Cloudがもたらす大きな価値だ」と評価している。
今後は、生成AI(AI:人工知能)を活用した業務プロセスの高度化にも取り組む。人間が介在する業務の自動化も視野に入れ、さらなるデジタル化やシステムの集約を検討する。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「スクウェア・エニックス、基幹刷新で帳票基盤をクラウド化 大量出力の安定稼働へ」(2026年3月31日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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