AIツールによるコーディング効率化が進む一方、上流の「要件定義」が担当者の暗黙知に依存したままでは結局手戻りが多発する。KDDIは「au PAY」の開発で、この“属人化のわな”をどう抜け出したのか。
アジャイル開発や内製化において、AI(人工知能)ツールを活用した「コーディングの自動化・効率化」は定着しつつある。しかし、どれだけ速くソースコードを書けるようになっても、「そもそも何を作るべきか」という上流工程が曖昧なままでは、完成後に手戻りが発生するだけだ。バックログ(要件・タスクを優先順位付きで整理した開発計画リスト)の精度が低いまま後工程に流れると、設計や実装、テスト全体の品質が低下しかねない。
企画や要件定義は、業務要件やシステムへの影響、関係者の視点など、熟練した担当者の経験や“暗黙知”に依存しがちだ。ドキュメントの整備やトレーニングだけでは組織全体に展開することが困難であり、担当者のスキルによって成果物の品質に大きなばらつきが生じる。に陥り、頭を抱える情報システム部門の決裁者や現場リーダーは少なくないだろう。
この「属人化のわな」を抜け出すべく、KDDIは自社のQRコード決済サービス「au PAY」の内製アジャイル開発において、AIエージェントを組み込んだ「バックログ作成支援システム」を構築した。同社のアプローチは「AIエージェントに要件定義を丸投げする」という安易なものではなく、「人間が考えを深め、チーム全体を育てる」ためにAIツールを活用するというものだ。同社がたどり着いた、システム開発における人間とAIツールの新たな役割分担とは。
KDDIは、au PAYの内製アジャイル開発向けに、AIエージェントを組み込んだ企画・要件定義の支援システムを構築した。支援ベンダーとしてはグロース・アーキテクチャ&チームス(Graat)を選定し、同社のAIエージェントデザインサービス「EBAAD」を活用。2026年4月27日、Graatの親会社であるグロースエクスパートナーズが発表した。熟練者の暗黙知をAIによって再利用可能にすることで、属人化に起因する品質のばらつきを解消したという。企画部門と開発部門のコミュニケーションの質を高め、より本質的な要件の議論などに時間を充てたい考えだ。
KDDIはau PAYの内製アジャイル開発を推進する中で、AIツールを開発プロセスに活用する取り組みを進めてきた。しかし、企画や要件定義の領域では、熟練した担当者や開発者が持つ判断や進め方のノウハウが属人化しやすく、担当者によって成果物の品質にばらつきが生じていた。業務要件やシステム影響、関係者視点などを踏まえた判断は経験豊富な人材の暗黙知に支えられており、ドキュメントの整備やトレーニングだけでは組織全体に展開することが困難だったという。
こうした課題を解消するため、KDDIはGraatの支援を受け、AIツールを組み込んだバックログの作成支援システムを開発した。システムの構築に当たっては、熟練人材のノウハウをAI活用によって業務プロセスに組み込むコンサルティングサービスであるEBAADを採用。AIツールを単なる作業効率化の手段として使うのではなく、企画・要件定義の進め方や人とAIツールの役割分担そのものを見直し、AIツールが思考支援と作業代行を担う仕組みを整えたという。
構築したシステムは、目的や手段の関連性を検証して情報の不足や論理的整合性の確認を支援する他、関連システムなどの前提知識を補足する機能を備える。さらに、エンドユーザーやエンジニアなど複数の立場からのシミュレーションレビューも可能で、担当者本人だけでは気付きにくい論点の検討を促すという。こうしたプロセスを経て整理された要件を基にバックログ草案を生成してチケット管理ツールへ登録する一連の作業をカバーする。
これによって、経験の浅い担当者でも一定のクオリティーを確保した形で要件定義を進めやすくなり、熟練者への過度な依存が緩和されたという。KDDI パーソナル事業統括本部システム開発本部アジャイル開発部 副部長の藤木潤氏は、「当初はAIツールによる作業効率の向上を期待していたが、業務の進め方を見直す中でそれ以上の価値を実感している」と話す。具体的には、論点をそろえやすくなったことで、企画部門と開発部門の間でより本質的な議論を進めやすくなった。「AIツールは個人の生産性を高めるものとして語られがちだが、組織としてよりよい判断や連携を支える役割も大きい」と藤木氏は語る。このシステムはau PAYに関わる複数チームで運用されており、同社は今後さらに対象範囲を拡大する方針だ。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「KDDI、au PAY開発の要件定義にAI活用 属人化を解消し組織としての判断や連携を改善」(2026年4月27日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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