オンライン面接で候補者の代わりにAIツールが回答を代理する現象が多発している。従来の採用手法を見直す上で、AIツールを禁止するだけでは解決にならない。不正を防ぎ、真の専門性を見極める抜本的な対策とは。
ITエンジニアの採用を取り巻く状況は、生成AIの普及によって一変した。これまでの採用プロセスにおいて中核を成してきた短時間のコーディングテストやシステム設計課題において、候補者がAIツールを用いて回答を自動生成する事態が多発しているためだ。
Cisco Systems傘下のネットワーク監視ツールベンダーThousandEyesに所属するアンドリュー・ハッチ氏(マネジャー)は、自社のSRE(サイト信頼性エンジニア)の採用において、画面の裏でAIツールに回答を代行させる「ゴースト」と呼ぶべき候補者に直面した。候補者が10分間ほど視線を外した後に、突如としてキーボード入力なしで完璧なコードを提示するケースが相次いだのだ。当時、ThousandEyesの面接ではAIツールの使用を禁止していたものの、実態として制限することは困難だった。
こうした変化を前に、企業は従来の採用手法を根本から見直し、表面的なコード生成能力ではなく、真の専門性を評価するプロセスに移行することを迫られている。
AIツールの利用を単純に禁止するだけでは問題の解決にはならない。ハッチ氏の経験に基づき、面接手法の具体的な改善策と、エンジニアの過度なAIツール依存の危険性を読み解く。
本記事は、「SREcon26 Americas」で行われたアンドリュー・ハッチ氏のセッション「Ghosts in the Interview Loop & Avoiding AI Taylorism」の内容を基に構成している。
ハッチ氏が面接で直面したゴーストとは、裏で大規模言語モデル(LLM)を利用し、課題を処理させている候補者のことだ。視線の不自然な動きや、タイポ(打ち間違い)が一切ないコードが数分で提示されるといった兆候から、同氏は従来の面接プロセスがもはや機能していないことに気付いた。
この問題に対し、ThousandEyesは選考の仕組みを大きく変更した。まず、面接官自らがAIツールに面接課題を解かせ、特有の回答パターンや癖を事前に把握するようにした。従来は45分間で解かせていたコーディングテストを廃止し、インフラ構築ツール「Terraform」を用いた、数日を要する「持ち帰り課題」を導入。システム設計問題も、AIツールが容易に解答できないよう全面的に刷新したのだ。
ハッチ氏は、実際の業務でAIツールを日常的に使用する以上、「面接でのみAIツールの使用を禁止するのは実態に即していない」と指摘する。今後の面接の在り方として、「従来であれば1週間かかる課題を与え、AIツールを使って30分で処理させる」といったように、AIツールをいかに効果的に使いこなし、生産性を高められるかを評価する方向にシフトすべきだと提起している。
採用手法の変化以上にハッチ氏が危惧しているのが、「AIテイラー主義」のまん延だ。1911年にエンジニアのフレデリック・テイラー氏が提唱した「科学的管理法」(テイラー主義)は、管理者が「思考」し、労働者がマニュアル通りに「実行」するよう作業を分離して効率化を追求する手法だ。この手法は反復可能で線形なプロセスには有効だったものの、労働者の意欲低下を招く要因にもなった。現代のAIツールの導入圧力が、これと同じ状況を複雑なソフトウェア開発の現場にもたらす危険性がある。
AIツールが生成するコードをただ受け入れるだけの「プロンプトジョッキー」化が進めば、エンジニアの認知機能がAIツールに委ねられ、根本的な理解や専門知識が失われる。ThousandEyesの現場では、ソースコードでインフラの構成を管理する「IaC」(Infrastructure as Code)において、AIツールが生成した質の低いプルリクエスト(ソースコードの変更申請)のレビューに、人間の多大な時間と労力が奪われているという。
初学者と専門家では学習プロセスが根本的に異なる点にも注意が必要だ。すでにシステムが動く仕組みやエラーの因果関係(メンタルモデル)を頭の中に構築している専門家であれば、AIツールの回答の正誤を即座に判断し、自身の作業を高速化できる。しかし、これからモデルを構築すべき初学者がAIに依存すると、実際のシステムが発する複雑なエラーに対処する「現実の経験」を得られず、深い学習が阻害されてしまう。
システムが成長し複雑化する中、障害発生時のトラブルシューティングや想定外事態への対処には、エンジニアが蓄積した深い専門知識が不可欠だ。AIツールにシステム管理を完全に委ねた場合、システムが破綻した際に修正できる人間がいなくなる深刻なリスクを抱えることになる。
ハッチ氏は、「AIツールは生産性向上に活用すべき手段であり、人間の判断を代替する『オペレーター』にしてはならない」と強調する。複雑な社会技術システムにおいて、最も適応力があるコンポーネントは人間だ。AIツールの利用を前提とした新しい採用基準の構築とともに、エンジニアが試行錯誤を通じて専門性を磨き続ける体制を維持することが、今後の企業における最大の課題となる。
本稿は、USENIXが2026年4月24日に公開した動画「SREcon26 Americas - Ghosts in the Interview Loop and Avoiding AI Taylorism」を基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
瞬時にM365が乗っ取られる――全社員に周知すべき“新フィッシング”の教訓
MFA(多要素認証)を入れたから安心という常識が崩れ去っている。フィッシング集団「Tycoon2FA」が摘発されたが、脅威が完全になくなったというわけではない。

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...