データセンター電力の65%が「無駄」に Ciscoが示すデータセンター刷新の3本柱とは?Cisco Live 2026

AIの爆発的な普及により、データセンターの電力不足が深刻な経営課題となっている。シスコは液冷や次世代配電技術FMPによる劇的な効率化を提唱。情シスが取り組むべき電力網刷新の正体を解き明かす。

2026年06月09日 05時00分 公開
[Deanna DarahTechTarget]

 AIは絶えず変化、進化、そしてアップグレードを繰り返している。こうした進歩は企業に恩恵をもたらす一方で、ネットワークインフラには多大な負荷を強いている。

 Cisco Systems(シスコ)でエンジニアリングサステナビリティ担当バイスプレジデントを務めるデニス・リー氏は、米ラスベガスで2026年5月31日から6月4日まで開催された同社のイベント「Cisco Live 2026」の基調講演でこの課題について言及した。同氏が解決策として提示したのが「エネルギー・ネットワーキング・システム」だ。

 本稿では、AI時代のエネルギーとコストを節約するための3つの柱からなるアプローチを解説する。また、クラウド型の人事・財務管理ソフトウェアを提供する米Workday(ワークデイ)がこのアーキテクチャをどのように検証したかについても探る。

AI時代に高まる電力需要

 リー氏によると、AI時代のデータセンターでは「グレースペース」とも呼ばれる配電盤、電力、冷却、電気インフラなどの構成要素の重要性が増している。例えば、全米電気機器製造業者協会(NEMA)が行った調査「2025 Year in Review」によれば、データセンターの容量は2030年までに200ギガワットに増加、エネルギー消費量は2050年までに現在より300%増加すると予測されている。

 「AIは可能性を書き換えている。エネルギーシステムもそのペースに合わせて進化しなければならない。どのモデルも、どのブレイクスルーも、以前より多くの電力を必要としている」とリー氏は語る。

 電力要件の増大により、データセンターの建設はより困難になった。かつては、十分な電力が確保されている前提で建設が進められていたが、AIの時代においては、電力網の容量、水供給、インフラ構築期間などの物理的制約を考慮しなければならない。これらの制約が工場の建設を阻む要因となり得るからだ。

シスコが提唱する3つの柱

 こうした電力問題に対するシスコの回答が「エネルギーネットワーキングシステム」だ。これは単なるアーキテクチャプラットフォームではなく、電力消費の激しいAIインフラを管理するための主要要素、「エネルギーの可視化」「給電(パワーディストリビューション)」「熱管理」を包含する総称である。

エネルギーの可視化

 エネルギーネットワーキングシステムの第1層は、エネルギーの可視化だ。これは「Cisco Cloud Control」内のダッシュボード「Energy Management」を通じて提供され、「可視化とレポーティング」「インサイトとアナリティクス」「制御と自動化」といったタスクに必要なテレメトリーデータを入手できる。それにより、エネルギー消費量、構成、コストを把握できる。また、プロジェクトごとの炭素集約度(カーボンインテンシティ)や温室効果ガス排出量も認識可能だ。

給電(パワーディストリビューション)

 シスコは、故障管理給電(Fault Managed Power:FMP)と呼ばれる最新技術で給電をサポートしている。シスコを含む世界中のエンジニアが開発したこの技術は、より多くの電力をより遠くまで届ける。従来のシステムではデバイスに届く前に電力変換が必要だったが、FMPは送信機、ケーブル、受信機を使用してデータセンターのラック内のデバイスに直接電力を送る。

 「触れても安全で、設置も早い。使用する材料も少なくて済む。最大450Vの直流(DC)に対応しており、多様なワット数のニーズに柔軟に応えることができる」とリー氏は説明する。

 シスコが給電を重視していることは、AIデータセンターのネットワーキングで給電が重要であることを示唆している。この進化した給電形態は、AIデータセンターだけでなく、スマートビル、エッジコンピューティング機器、バッテリー蓄電システムなど、建物全体に電力を供給できる。

熱管理

 冷却は、「エネルギーネットワーキングシステム」の枠組みで最も重要な要素の1つだ。膨大なリソースが冷却に投じられているからである。従来の空冷式データセンターでは、電力の40%以上が冷却に費やされている。リー氏はこれを「非有用電力」と呼び、大量のエネルギーが本来の目的以外に向けられていると指摘している。

 今日ではリアドア熱交換器やチップ直接冷却など新しい冷却手法が登場しているが、リー氏は、シスコの冷却アプローチとして、直接液冷方式を採用したネットワークスイッチ(Silicon One G300など)や液浸冷却を挙げた。

 「電力と冷却についての新しいアーキテクチャ、特に冷却に着目すると、二重の波及効果がある。冷却自体に費やす電力を削減できるだけでなく、必要な出力を得るための冷却の電力効率も向上するからだ」とリー氏は述べる。

 企業は現在、複数の冷却オプションを選択できる。1つのデータセンター内で異なる冷却方式を併用することも可能だ。これは既存のデータセンターを改修しなければならない場合に特に有用である。

WorkdayのFMPの段階的導入

 FMPのような給電技術は、Workdayにとって特に有益だった。同社のテクノロジーおよびスマートビル部門のリーダーを務めるベン・パターソン氏によると、同社はどれだけの電力を消費しているかを認識できておらず、可視化に課題を抱えていたという。

 「施設は生きた存在であるべきだ。全てのモノがデータを提供し、人々がどのようにスペースを利用しているか、動線、あるいは冷暖房の状況を追跡できるようにすべきだ」とパターソン氏は語る。

 パターソン氏のチームは、FMPの段階的導入を決めた。まずやったことは、シスコおよびパートナー企業と概念実証(PoC)を行いFMPの利点を確認することだった。第1段階では、施設内の一角にFMPの暫定的なセットアップを設置した。このテストでは、FMPが照明、デスクの電源、監視機器など、室内のあらゆるものに電力を供給した。従来の配電システムであれば数週間かかるところだが、FMPはわずか1〜2時間で完了したとパターソン氏は説明する。

 第2段階に入った現在、WorkdayはFMPをオフィス環境全体に拡大し、改善方法を検証している。パターソン氏は、もし新しいデータセンターをゼロから建設するのであれば、ネットワーク機器やサーバの消費電力を考慮すると付け加えた。これらが消費する電力が少なくなれば電力損失も減少するからだ。

データセンター効率化の未来

 シスコの調査によると、データセンターで消費される電力のうち、有用な計算に使われるのはごく一部にすぎない。冷却に消える40%の非有用電力に加え、給電過程でさらに25%、合計で65%が失われている。こうしたデータセンターを稼働させる年間エネルギーコストは、平均約600万ドルに上る。

 しかし同レポートによれば、空冷から液冷に切り替えるだけで、非有用電力を20%以上削減し、全体の損失を43%まで抑えられる。コストも600万ドルから300万ドルに半減する可能性がある。

 液冷とFMPを組み合わせればさらに節約できる。非有用エネルギーは4分の1以下の22%まで減少し、データセンターの運営コストは200万ドルまで下がる。これにより、エネルギーコストを76%削減し、同じエネルギーで2倍以上の計算能力を確保できるようになる。

 ただし、最適なセットアップは環境によって異なる。Workdayの段階的導入と同様に、企業はエネルギー・ネットワーキング・システムの技術をテストし、既存のインフラにどう適合するかを見極める必要がある。

 「効率化の恩恵や、どのように設計し、配線し、構築するかは、状況によって異なるためユーザー次第だ。あらゆる環境が少しずつ違う。私たちは、実際の環境でPoCや実証実験(PoV)を開始することを勧めている」とリー氏は締めくくった。

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