脆弱性管理における部門間調整の難しさを語る英文に登場する「herding cats」。直訳すると「猫の群れを誘導する」ですが、IT業界では別の意味を持ちます。情シスが日々直面する難題を表す言葉を掘り下げます。
日々の業務で海外の技術文書やニュースを読む際、直訳すると意味が通じないIT特有の表現に出会うことはありませんか。今回は、企業の脆弱(ぜいじゃく)性管理に関する英文から、ユニークな表現を紹介します。
Different groups have different goals, priorities and compensation models, so coordination across these groups requires hands-on leadership from the top. Otherwise, the term "herding cats" comes to mind.
社内の各グループには、それぞれ異なる目標、優先順位、報酬体系があるため、これらを調整するにはトップによる実践的なリーダーシップが不可欠です。そうでなければ、「猫の群れを誘導する」という言葉が思い浮かびます。
出典:Top vulnerability management challenges for organizations
ビジネスに関する文章の途中で突然「猫の群れを誘導する」と言われても、不自然に聞こえます。実は、IT業界やプロジェクトの現場でよく使われるイディオムなのです。
「herding cats」のIT・開発現場での実際の意味は、「個性が強くてばらばらな人たち(特にエンジニアや専門家)をまとめ上げる至難の業」です。
犬や羊と違い、猫は群れを作らず自分のペースで動く生き物です。このことから、IT業界において「それぞれが強いこだわりや技術的見解を持つエンジニア集団」や、「部門ごとに利害が対立するステークホルダー」を1つのプロジェクト目標に向かって統率する困難さを自嘲気味に表現する際に使われます。
この言葉は、1997年にリーダーシップの専門家ウォレン・ベニス氏が著書のタイトルで用いたことで広く知られるようになりました。しかし真の起源はさらに古く、1981年に高IQ集団「Mensa」の集会で「Mensa会員を導くのは猫をまとめるようなものだ」と記されたTシャツが作られた記録や、1985年の新聞記事で一流プログラマーの管理に例えられた記録が残っています。1980年代のITコミュニティーで、すでに自然発生的に使われていたのです。
開発の現場や、ベンダーマネジメントの場面で頻出します。
Trying to get the front-end and back-end teams to agree on the new API specifications is like herding cats.
訳:新しいAPIの仕様について、フロントエンドチームとバックエンドチームの合意を取るのは、まるで猫の群れをまとめるような至難の業だ。
We have three different vendors involved in this cloud migration. Managing them feels like herding cats, but we need to meet the deadline.
訳:今回のクラウド移行には3つの異なるベンダーが関わっています。彼らをまとめるのは骨が折れますが、何とか期限に間に合わせなければなりません。
herding catsが一躍全米のバズワードになった決定的な出来事があります。2000年のスーパーボウル(米国の一大スポーツイベント)で、ITサービス企業のElectronic Data Systems(EDS)が放映した「Cat Herders」というテレビCMです。カウボーイたちが数千匹の猫を大真面目に誘導するコミカルな映像を通じ、「複雑なITシステムをまとめるのは、猫の群れを誘導するようなものだ(だからわれわれプロにお任せを)」というメッセージを伝えました。このCMは当時の大統領もお気に入りに挙げるほどの社会現象となり、数々の広告賞を受賞しています。
現代のIT部門が直面する「全社セキュリティルールの徹底」や「新しいSaaSの導入」は、まさにHerding Catsです。事業部門のエンドユーザーは猫のように自由気ままで、ルールで縛ろうとしても、使い勝手が悪ければ抜け道(シャドーIT)を見つけてしまいます。近年ではAIツールの無断利用(シャドーAI)も大きな課題となっています。
このフレーズから得られる教訓は、「猫(エンドユーザー)を無理やりロープで縛って誘導しようとしてはいけない」ということです。猫を動かしたいなら、無理やり引っ張るのではなく、猫が自分から集まりたくなるような環境(=直感的に使いやすいシステム、業務が圧倒的に楽になるツール、ストレスのない認証プロセス)を用意し、「気が付いたら正しい方向(セキュアな状態)に向かっていた」という仕組みをデザインすることこそが、これからのIT部門に求められる真のマネジメントの姿になるでしょう。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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