ハイスペックモデルへの移行の裏側
PC市場はなぜ「本体価格値上げ」でも増収なのか?
部品不足やインフレによるPCの価格高騰が続く中、販売台数は減少しているにもかかわらず市場の売上高は増加している。価格上昇の波が押し寄せる中、企業はなぜ今PCを買うのか。
調査会社CONTEXTのPC市場調査から、興味深い現象が明らかになった。2026年第2四半期(4~6月)の最初の6週間において、ノートPCの販売台数は2025年同期比で3%減少したにもかかわらず、欧州での売上高は12%の大幅増を記録した。
なぜ販売台数が減っているのに売上高が大きく伸びているのか。その背景にあるのが、顧客のハイスペックモデルへの移行と、「AI搭載PC」への急激なシフトだ。大手PCメーカーHPの2026年度第2四半期(2~4月)の決算報告では、出荷台数全体に占めるAI搭載PCの割合が前期(2026年度第1四半期)の35%超から44%へと跳ね上がっている。
これに加えて、深刻な部品不足によるハードウェアの価格上昇を見越し、法人顧客が早めに製品を確保しようとする「駆け込み購入」の動きも市場を強く後押ししている。本記事は、この一見すると矛盾する市場動向の裏側にある力学と、2026年後半に向けた部品費用の高騰が及ぼす影響を解説する。
なぜ高価格帯のPCが売れているのか
CONTEXTのシニアアナリストを務めるマリー・クリスティーン・ピゴット氏によると、2026年第1四半期(1~3月)は価格上昇を見越した販売代理店網での積極的な在庫確保が売上高を引き上げた。
しかし「第2四半期に入ると状況が一変した」とピゴット氏は指摘する。販売台数は減少したものの、平均販売価格の上昇とハイスペックモデルへの移行によって、緩やかながら売上高は増加し続けたいう。2026年第2四半期の最初の6週間において、欧州の販売代理店網を通じたノートPCの売上高は、前年同期(2025年4~5月)比で12%増加した。同期間のデスクトップPCの売上高は2%増加している。販売台数については、ノートPCが3%、デスクトップPCが7%それぞれ減少した。
ノートPCの売上高が増加した背景には、15%増を記録した2026年第1四半期の好調な業績がある。一方でデスクトップPCの勢いは失速しており、第1四半期に記録した20%の増収からは大きく落ち込んでいる。販売代理店網は、平均販売価格(ASP:製品1台当たりの平均的な販売単価)上昇の恩恵を受けている。2026年第2四半期の最初の6週間における平均販売価格は、2025年同期比でノートPCが11.4%、デスクトップPCが10.5%上昇した。
CONTEXTの市場分析は、PC市場への主要な経路として販売代理店網が果たす役割も浮き彫りにしている。2025年5月から2026年4月の英国市場におけるビジネス向けPC販売において、代理店経由は38%のシェアを占めた。フランスとドイツでも同程度の水準を示している。企業は販売代理店網が提供する豊富な在庫や資金調達の選択肢、迅速な納品を求めており、ピゴット氏は「販売代理店網は欧州PC市場の重要な原動力であり続けている」と語る。同氏は2026年3月時点で、「PC市場は表面上は好調に見えるものの、その実態は価格上昇を見越した顧客の駆け込み需要に支えられている」と言及していた。
ハイスペックモデルへの移行は、2026年5月に発表されたHPの2026年第2四半期(2~4月)決算でも主要なテーマだった。同社の暫定CEOを務めるブルース・デール・ブルサール氏は、決算発表の電話会議において、AI機能を備えた機器への需要が拡大していると明かした。パーソナルシステム事業の売上高が2025年度同期比13%増となり、法人向けと消費者向けの両方で業績を伸ばしたという。「出荷台数に占めるAI搭載PCの割合は、35%超から44%に拡大した」とブルサール氏は語り、高度な計算処理や業務向けのツールも堅調に推移していると述べる。
ブルサール氏は、「2026年度第2四半期は無駄を省いた効率的な経営に注力したものの、想定通りメモリとストレージの部品費用が前期(2026年度第1四半期)比で上昇した」と付け加えた。この傾向は2026年後半も続き、調達費用が増加する見込みだ。
業界がインフレや調達難など複数の課題に対処する中、2026年は状況が好転する兆しはないことをブルサール氏は示している。「今後のメモリとストレージの調達条件は、引き続き逼迫(ひっぱく)するだろう」と同氏は言及し、原油価格やそれが製造・輸送に及ぼす波及効果など、より広範な圧力も見込まれると警戒感を表す。
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