10年かけてBIを再構築したアマノの一手 「権限がない」「予算がない」でもDXは動かせる「入力したのに見られない」現場の反発を突破

ベンダーの質、予算不足、対立ツール――。アマノは、SFAやERPのデータ活用を目的に導入したBIツールが十分に機能しない状況から、約10年かけて分析基盤を再構築した。具体的に何をしたのか、担当者に聞いた。

2026年08月24日 18時00分 公開
[成澤 亜希子TechTargetジャパン]

 「入力しろと言われてこれだけ入力したのに、全然見られないじゃないか」

 勤怠管理システム、駐車場システム、業務用ロボット掃除機などを手掛けるアマノは、営業支援システム(SFA)やERPに蓄積したデータを活用するため、全社で初めてBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入した。狙いは、「Microsoft Excel」(以下、Excel)による集計作業を減らし、必要な数字をすぐに確認できる環境をつくることだった。

小俣氏 アマノの小俣 智夫氏

 ところが、導入したBIツールは思うように機能せず、本社の企画部門や営業現場から不満が噴き出した。しかも問題はBIだけにとどまらず、並行して進めていたSFAの移行にも影響を及ぼした。

 会社として初めてのBIツール導入は、なぜ行き詰まったのか。プロジェクトに携わったアマノの小俣智夫氏(営業戦略企画課 部長)は、既存ツールの改善を待つのではなく、別の一手を選んだ。予算や権限に制約がある中、小俣氏はどうプロジェクトを立て直したのか。

約10年かかった分析基盤構築、最初にぶつかった問題は

 1つのExcel帳票をBIで実装するのに数カ月。大量のデータを集計すると結果が表示されるまで数分かかり、場合によってはサーバが止まる。表示されたデータも自由な切り口で分析しにくく、結局CSVに出力してExcelで加工する――。業務効率化のために導入したBIツールが、「ただのCSV出力システム」のようになっていた。

 さらに深刻だったのがSFAだ。新しいSFAは、入力された営業データをBIツールで可視化することを前提に設計していた。営業担当者はデータを入力しているのに、その結果を見ることができない。旧ツールではできていたことが、新ツールではできなくなってしまった。

 旧ツールを指して「こっちの方が全然いいじゃん、と言われました」。小俣氏はこう振り返る。現場からの反発を恐れ、SFAの全面移行も進められなくなった。

 会社として初めて導入したBIは、このまま使われないシステムになってしまうのか。

 小俣氏が選んだのは、既存システムの改善を待つことではなかった。別のBIを、自分たちで導入することを決めたのだ。

Excel集計をなくすはずが、Excelから抜け出せない

 そもそも、なぜこのような事態になったのか。

 当時アマノでは、小俣氏がグループウェア「Notes」で作成していた営業支援システムを全社向けSFAとして再構築する取り組みと、OracleのERPパッケージ「JD Edwards」(JDE)の導入が並行して進んでいた。

 従来は、それぞれのツールからデータを取り出し、担当者がExcelで集計する作業が多かった。そこで小俣氏は、「各ツールの集計機能を個別に作るのではなく、データをBIツールに集めて分析する」という構想を描いた。

 小俣氏自身は当初、ウイングアーク1stの「Dr.Sum」(データ分析基盤)を候補として考えていた。しかし、ERPとの関係や当時の情報システム(以下、情シス)部の判断などから、最終的にはOracleのBIツール「Oracle BI EE」(Oracle Business Intelligence Enterprise Edition:BI EE)を採用した。

 ここで、小俣氏には大きな制約があった。

 SFAの仕様について小俣氏が意見を出すことはできたが、予算やBIツールの最終的な決定権は情報システム部門にあった。BIツールの導入や構築も外部ベンダーが担当し、小俣氏ら事業部門は実現したいことを伝えることしかできなかった。同氏はさらに、もう1つ大きな問題にぶつかった。

 構築を担当するベンダーはBI EEに十分精通していなかったのだ。

 「このくらいはできるでしょう」と尋ねても、「できるか分かりません。やってみます」という返答が続いたという。1つのExcel帳票を実装するだけで数カ月を要し、アマノ側の作業は全く減らなかった。成果物を作るのに時間がかかるだけでなく、仕様追加を要求しても「できない」という回答で前に進まなかった。

 さらに、当時のBI EEは大量のデータを集計すると動きが遅くなり、集計結果を確認するだけでも数分を要したという。「下手するとサーバが止まることもありました」と小俣氏は話す。結局、集計されたデータを自分の好きな切り口で見ることができず、CSVで出力し、Excelで集計する、という何も変わらない状態だったという。

 現場や経営層からも不満の声が相次いだ。現場からは「SFAの入力データを見ることができない」、経営層からは「文字が小さく、動きが遅い」とデータを全く見てもらえなかった。

 「できると言っていたのに、全然できないじゃないか、という感じでした」。小俣氏は当時の心境をこう振り返る。

 目的だった本社スタッフの集計作業は減らない。BIツールの導入そのものは完了している。しかし、業務自体は変わらず、業務量が減るわけでもなかった。

「BIツールを2つにしたくない」 それでも小俣氏が別製品を入れた理由

 小俣氏にとって転機となったのが、ウイングアーク1stのデータ分析可視化基盤「MotionBoard」の導入だ。

システム構成 システム構成(提供:アマノ)

 MotionBoardのクラウド版を使ってSFAのデータを可視化すると、それまで苦労していたデータ確認を容易に進めることができた。操作性も、それまでのツールとは違ったという。

 ただし、導入にはためらいもあった。

 既に会社はBIツールに投資していたからだ。そこへ別のBIツールを追加すれば、社内にBIが2つ存在することになる。

 「BIシステムが二重になるのは嫌でした」

 それでも小俣氏は、「入力したデータを見られること」「現場が自分で分析できること」を優先した。情シスに新しい仕組みを作ってもらうのを待つのではなく、自部門の予算で小規模にMotionBoardのクラウド版を契約し、自ら手を動かして構築する道を選んだ。管理職として通常業務を抱えていたため、作業や情報収集は勤務時間外にも及んだ。

 ツールの導入に当たって、無料の評価版を利用しなかったこともポイントだ。

 小俣氏は上司に「1年間、捨て金になるかもしれないけれど契約させてほしい」と頼んだという。正規契約すればメーカー側もユーザー企業として支援しやすくなる。一方、30日や60日程度の評価期間では、日常業務をしながら本当に使えるかを判断するには短過ぎる、と考えたためだ。

 この小さな契約が、後の全社展開につながった。

真正面から予算を取りに行かず、「別プロジェクト」に協力する

 MotionBoardを試したあとに、すぐ全社利用を開始できたわけではないという。

 既存のBIがある以上、「なぜもう1つ必要なのか」という問題が残る。そこで小俣氏が利用したのが、社内の別部門で進んでいた「ペーパーレス化」のプロジェクトだった。

 同プロジェクトでは、紙を減らすためタブレットなどからデータを入力する仕組みを検討していた。一方、「入力したデータをどう見せるのか」という課題があった。

 小俣氏はそこに、MotionBoardのクラウド版の利用を提供したという。

 「これなら見られます」

 部門の担当者に画面を見せたところ、「これならいい」という反応を得ることができた。小俣氏は「これはチャンスだ」と思い、ペーパーレス化プロジェクトを支援しながら、営業現場だけでなく事業所も含めてデータ活用を広げることを考えた。

 この取り組みのポイントは、自分自身を新たな全社BIプロジェクトの旗振り役にしなかったことだ。

事業所メニュー 事業所メニュー(提供:アマノ)

 別部門のプロジェクトに入り込み、プロジェクトリーダーを支援する。ペーパーレス化という既に必要性が認められた取り組みの中で、データ活用という課題を解決する手段としてBIを位置付けた。

 ここで小俣氏は「二重投資ではありません」と説明し、既存BIを捨てることもしなかった。BI EEは、売り上げや原価など仕様が固まった定型集計やCSV出力を担当する。各事業部門が自由な切り口で分析する用途はMotionBoardに任せる、と役割を分担することにしたのだ。使い分けは現在も続いているという。

ようやく軌道に乗ったはずが、また「ベンダー」でつまずいた

 ここで話は終わらない。

 全社利用を見据えてMotionBoardやDr.Sum、データ連携ツールを本格導入する段階になると、小俣氏は再びベンダー選定でつまずいた。

 小俣氏は、MotionBoard、Dr. Sumや他のツールを組み合わせた全社的な分析基盤を一括して構築できるベンダーをWeb検索などで探した。目星を付けたベンダーに構築を依頼した結果、投入された要員のスキルは期待した水準に達していなかったという。プロジェクトのリーダーは真摯に対応していたものの、欲しいものはなかなか出来上がってこなかった。この状況は、約2年続いたという。

 ここで小俣氏は、もう一度決断を下した。今度は「製品」ではなく、ベンダーを替えることを決めたという。新たなベンダーは、前回の反省を生かして別の方法で探索した。

 小俣氏が頼ったのは、メーカーの営業担当者ではなく、ウイングアーク1stのユーザーコミュニティー「nest」だった。

 「営業に相談すると、どこのベンダーも『できます』と言います。でもコミュニティーで他社の担当者に聞けば、『うちはここに頼んでいる』『この業者はいい』というリアルな声が聞けます」

 nestに参加する中で、他社も同じような失敗を経験していることを小俣氏は知った。触ったことがなかったSNSでも情報を集め始め、フリーランスでコンサルタントをしているという技術的に信頼できそうな人物にダイレクトメッセージを送った。その人物と話をすると、自社が困っている点に対して具体的な答えが返ってきた。

 コミュニケーションを通じて安心感を得た小俣氏は、「じゃあ、もうそっちに切り替えよう」と判断した。

 会社として個人との直接契約が難しいという問題もあったが、相手側企業との会社間契約にすることで乗り越えた。新しいベンダーは価格面でも大きな問題がなく、社内からも「アウトプットをしっかり出してほしい」と励ましの言葉と了承を得ることができた。

「自分で手を動かした」から、予算の話ができた

 小俣氏には、DXを進める上で重視していることがある。

 「自分で手を動かすこと」だ。

 全てをベンダーに任せていては、何が難しく、どこに専門家の力が必要なのかを自分の言葉で説明できない。

 一方小俣氏は、「数字集計からシステム導入、社内インフラ整備まで手掛ける何でも屋」を自称する人物だ。これまで同氏自身がBIツールの設定や検証をしてきたため、「ここまでは自分でもできる。しかし、ここから先は専門家が必要だ」と具体的に説明できた。それが上司からの信頼や、投資判断にもつながったのではないかと振り返る。

 一方、予算が取れたからといって「入れられるオプションは全部入れる」のは失敗だったとも話す。

 ペーパーレス化プロジェクトでは、複数のオプション製品をまとめて導入した。しかし、通常業務を抱える担当者が多数の新しいツールを同時に使いこなすのは難しい。データ連携ツールでも、理解が不十分なまま実装したことで、後から作り直さなければならない部分が生じた。

 「1つずつ使いこなしていく方が良かった」。これも、一連の失敗から得た教訓だという。

DX担当者が「ぼっち」になってはいけない

 アマノでは、定型帳票と自由分析でBIツールを使い分け、事業部門内でデータを分析する運用が定着している。現在注力している取り組みとして小俣氏は、どのデータがどこにあり、何を意味するのかを利用者が理解できる「データカタログ」の整備を進めている。蓄積したデータをAIで分析することや、そのためのデータクレンジングにも取り組んでいる。

 インタビューでは最後に、「DXプロジェクトが頓挫しかけている企業の担当者に伝えたいこと」を小俣氏に尋ねた。

 「DX担当者は『ぼっち』になりがちです」(小俣氏)

 同氏によると、DX推進担当者は必死に改善案を考えて提案しても、現状維持バイアスから新しいことを拒む人や、評論ばかりして行動しない人、厳しい要求ばかりを伝える利用者などに囲まれがちだ。そのため、応援されるどころか責められることも多いという。助けてくれる人もおらず孤独になりがちで、くじけそうになるという。

 そこで、いつもいる社内だけで悩まず、他部門へ行く。社外の勉強会やユーザーコミュニティーにも出ることを小俣氏は薦める。少し勇気を出して声を掛ければ、思いもよらないところに助けてくれる人がいるという。

 小俣氏のプロジェクトを動かしたのも、一度失敗したBIツールをすぐに捨てることでも、正面から情シスと対立することでもなかった。

 まず自分の手の届く範囲で別の方法を試した。別部門が抱える課題とつないだ。社外にも出て、信頼できるベンダーを探した。

 その積み重ねが、止まっていたプロジェクトを動かした。

 「システム屋は導入に一番力を入れがちですが、結局、使われないシステムを導入しても意味がありませんし、利益を生まないものは評価されません」

 さらに、説明書を作っただけでは、人は使ってくれない。研修を開いただけでも定着しない。できるだけ直感的に操作できるようにするか、業務の流れそのものに組み込む必要がある――。約10年にわたりデータ活用に取り組んだ小俣氏がたどり着いた考えだ。

 DXプロジェクトが行き詰まったとき、「権限がない」「予算がない」「既に別製品を導入してしまった」と考えれば、打てる手はないように見える。

 一方小俣氏の経験が示すのは、大きな決裁を一度でひっくり返さなくても、プロジェクトを立て直す方法はあるということだ。

 失敗した仕組みを否定するのではなく役割を限定する。小さく試す。別部門の課題と結び付ける。そして、自分だけで解決しようとしない。

 止まりかけたDXを再び動かすために必要なのは、「正しい製品」を一度で選ぶこと以上に、次に打てる一手を探し続けることなのかもしれない。

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