公衆無線LANがワークスタイルを変える【後編】
意外と難しい!? 企業ユーザーの公衆無線LAN選び
公衆無線LANサービスはどれも同じ、ではない。それぞれのサービスの傾向や特性の違いをしっかり把握し、自社に最適なサービスを賢く選ぶことが大切だ。
公衆無線LANは、モバイルアクセスの最速手段であり、屋外でも社内にいるときとほぼ同等のレスポンスでIT資産を活用できる。しかし、何も考えずにサービスを選ぶと、かえって仕事のパフォーマンスを落としたり、全然活用されないといった結果になりがちだ。
現在、全国的に展開しているサービスはNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」、NTTドコモの「Mzone」、ソフトバンクテレコムが提供する「BBモバイルポイント」だが、それぞれ、サービスの違いや特徴がある。この中から、自社にベストなサービスを選ぶためのポイントを解説する。
公衆無線LANサービス選びのポイント(1):APのエリア特性
公衆無線LANサービスを実際に利用するに当たり、注意すべき大きなポイントは2つある。1つは、サービスエリア特性の問題だ。社員の動線上に無線アクセスポイント(以下、AP)がなければ、ビジネスの効率化にはつながらない。特にホットスポット、MzoneのNTT系事業者は、主に首都圏を重点的に展開しており、中京、関西を含めたほかの都市部では、まったくAPが見つからないエリアもある。
逆に、全国のマクドナルド店舗を主力にエリアを展開するBBモバイルポイントでは、地方都市を含めてほぼ均等に分散しており、どこに行っても比較的見つけやすい。このような特性の違いも念頭に入れておこう。
公衆無線LANサービス選びのポイント(2):セキュリティへの対応
2つ目に重要なポイントは、IEEE 802.1X(※注1)およびVPN利用の可否だ。公衆無線LANではWEPによる暗号化が標準的だが、セキュリティ強度は決して十分ではない。そこで必要なのがIEEE 802.1X認証である。IEEE 802.1Xでは認証サーバを使って安全にユーザー認証を行い、かつ一定の間隔で暗号キーを変更し、容易にキーを解読できないようにしている。この仕組みは、ホットスポット、Mzoneで採用されている(場所によって利用できない場合もある)。
※注1:有線LAN/無線LANにおけるユーザー認証を一元的に行うための仕組みで、認証サーバとの連携により正規ユーザー以外はネットワークの利用を阻止できる。また、この認証システム上で、動的な暗号鍵の交換(ダイナミックWEPとも呼ばれる)が提供され、より安全に通信できる。
また、VPNについては、SSL VPN(※注2)以外はネットワークの仕組みが根本的に絡んでくる。IPsec(※注3)やPPTP(Point-to-Point Tunneling Protocol ※注4)などによるVPNを安定して利用するためには、利用PCにグローバルIPアドレスが払い出されていることが条件だ。プライベートアドレスが払い出されるタイプのサービスでは、事業者ネットワーク側ではアドレス変換(NAT)やDHCPサーバを使う。IPsecで通信する場合、NATがアドレスを書き換える(グローバルアドレス/プライベートアドレス)ので、企業側のIPsecゲートウェイ、またはクライアント側のIPsecクライアントが「データが改ざんされた」ものとしてIPsecパケットを破棄する恐れがある。またPPTPでは、事業者側が払い出すプライベートアドレスと、ユーザーの接続先ネットワークが払い出すプライベートアドレスが混在し、PPTPトンネルが切断されるなどの問題が生じる可能性が極めて高い。
※注2:Webで使われているSSLの技術を用いてVPN環境を構築する、比較的新しいVPN技術。IPsecよりも運用が容易であり、今後のモバイルアクセスの有力な手段として注目されている。
※注3:現在主流のVPN方式で、そもそもIPネットワークの標準セキュリティ機能として生み出され、暗号技術を使ってIPパケットの完全性や機密性を実現する。
※注4:Windowsクライアントにも標準搭載されているVPN方式で、比較的実装が容易な点が特徴、。PPTPサーバと組み合わせてVPNトンネルによる通信が可能だが、セキュリティ強度はIPsecやSSL VPNよりは劣る。
現在、グローバルアドレスに対応し、ユーザーがVPNを利用できることを正式にうたっているのはホットスポットのみだ。Mzoneの場合、APによってはプライベートアドレスが払い出されているところがある。ちなみに、Mzoneを提供するNTTドコモではVPNの対応は現時点で表明しておらず、「VPN利用については、お客様の責任において利用してもらっている状況」(NTTドコモ広報部)ということである。なお、BBモバイルポイントは一部を除いてグローバルアドレスの払い出しには対応しておらず、IPsecやPPTPの利用は極めて難しい。自社のVPN機器で実際に利用できるかどうかは、各事業者の1日のみの随時契約プランを利用し、事前に確認しておこう。
どれが「本命」? 公衆無線LANサービスを比べると…
ホットスポット
| 事業者 | NTTコミュニケーションズ |
|---|---|
| 月額固定料金 | 1680円/月 |
| 一時利用 | 可能(500円/日) |
| アクセスポイント数 | 約4000 |
| ローミング | BBモバイルポイント(定額:819円/月、スポット利用:315円/日)、海外 |
| 通信方式 | IEEE 802.11a/b/g(場所によって利用可能な方式が異なる場合がある) |
| セキュリティ | IEEE 802.1X、VPN対応(場所によって未対応の場合がある) |
| 利用できる主な場所 | カフェ・ファストフード店(タリーズ、プロント、モスバーガー、カフェドクリエなど)、レストラン(東京都内のガスト主要店舗など)、駅(東京メトロ、都営地下鉄、JR西日本・JR四国主要駅、福岡市営地下鉄主要駅)、NEXCO西日本管内の主要サービスエリア、空港(羽田・成田など全国41主要空港)、主要なホテル、主に関東の主要図書館、一部のコンベンションホール・ビルなど |
802.1X認証やグローバルアドレスによるVPNにも対応し、通信方式も802.11gが主流だ。2002年より有償サービスを提供し、47都道府県にAPが設置されているが、大都市・人口密集地を中心に列車や飛行機などで移動するビジネスマン向きである一方、車で移動するユーザーにはやや不向きだ。
なお、BBモバイルポイントとのローミングサービスも提供しており、契約無しでBBモバイルポイントも利用できる。この場合、24時間単位で315円が加算される。また、819円の月額料金を払えば、どちらも常に利用可能になる。ただし、BBモバイルポイントの月額料金(Yahoo! JAPANでは525円)よりも高くなるので、個別に契約した方が安価だ。さらに、GBRS(Global Broadband Roaming Service)のローミングサービスに対応しており、iPassなどを使えば世界60カ国以上でワイヤレス、またはイーサネットによる接続も可能だ。
Mzone
| 事業者 | NTTドコモ |
|---|---|
| 月額固定料金 | 1575円/月(FOMA利用者は840円/月) |
| 一時利用 | 可能(525円/日) |
| アクセスポイント数 | 約5000 |
| ローミング | BBモバイルポイント(スポット利用:315円/日)、エアポートネット(成田空港:利用料金は無料)、海外 |
| 通信方式 | IEEE 802.11a/b/g(場所によって利用可能な方式が異なる場合がある) |
| セキュリティ | IEEE 802.1X対応(場所によって未対応の場合がある) |
| 利用できる主な場所 | カフェ・ファストフード店(タリーズコーヒー、プロント、ロッテリア、ファーストキッチン、ケンタッキーフライドチキンなど)、駅(東京メトロ、都営地下鉄、JR北海道/東海/西日本/四国主要駅、西武鉄道、多摩モノレール、京浜急行、京王帝都、東急電鉄、東武鉄道、ゆりかもめ、近畿日本鉄道、京阪電鉄、南海電鉄、伊予鉄道、高松琴平電鉄、えちぜん鉄道の各主要駅)、首都高速の主要パーキングエリア、空港(羽田・成田など全国主要空港)、主要なホテル、商業施設など |
通信方式は802.11gが主流で802.1X認証にも対応するが、APによって利用できない場合もある。また、グローバルアドレスによるVPNアクセスについても、対応APと非対応APがあり、対応がまちまちだ。
エリア展開については、JR各社、東京、大阪を中心に私鉄各社との提携に力を入れており、駅中心のエリア展開を行っているのが特徴だ。さらに、現在日本で唯一、列車内での移動公衆無線LANサービスを行っている。また、タリーズコーヒーやプロントなど、ホットスポットと併設して運用しているポイントも多い。
また、ホットスポットと同様にBBモバイルポイントとのローミングサービスを提供している。ただし、契約無しのスポット利用(24時間ごとに315円が課金)のみだ。さらに、iPassやドイツテレコム、テリアソネラ、シングテル社のサービスを使って海外からアクセスすることも可能である。
BBモバイルポイント
| 事業者 | ソフトバンクモバイル |
|---|---|
| 月額固定料金 | プロバイダーによって料金が異なる(Yahoo! JAPANの場合525円/月) |
| 一時利用 | 可能(500円/日、1000円/2週間、4000円/3カ月) |
| アクセスポイント数 | 約3500 |
| ローミング | なし |
| 通信方式 | IEEE 802.1b |
| セキュリティ | WEPのみ |
| 利用できる主な場所 | カフェ・ファストフード店(マクドナルド、ルノアール、ドトールコーヒーなど)、駅(JR東海/東日本/西日本の各主要駅)、空港(羽田・成田など全国主要空港)、一部のホテル、図書館など |
日本マクドナルドの店舗を主力にエリア展開を行っており、北海道から沖縄まで、日本全国の対応店舗で利用できる。通信方式は802.11bのみで、ほかのサービスに比べて通信速度が遅い。また、802.1X認証やグローバルアドレスの対応は行っていないが、地方都市でも利用できるのが強みだ。店舗は比較的見つけやすく、主要道路沿いにも店舗があるため車で移動するユーザーにも利用しやすいメリットがある。また、ルノアールやドトールコーヒーなどのカフェ、JR東日本の主要駅、JR西日本の新幹線駅、空港での利用も可能だ。
なお、BBモバイルポイントはホールセール事業者という位置付けであり、申し込みはYahoo! Japanや、Yahoo! BB、@niftyなどの提携プロバイダーを通じて行う。Yahoo! Japanから申し込む場合は、Yahoo! Japan IDの取得とYahoo!ウォレットという決済サービスの申し込みが必要だが、最も料金が安い。
総括
3つのサービスを詳細に見てきたが、速度、セキュリティと面で最も充実しているのがホットスポットだ。もし、社員の動線上でホットスポットが利用できるなら、無線LANならではの高速性を生かしたさまざまなIT活用が、セキュアな環境で実現するはずだ。しかし、ホットスポットはサービスエリア面でやや偏りが大きく、首都圏以外のエリアには弱い。
ホットスポットがうまくユーザーの動線に懸からないのなら、Mzoneが有力候補として考えられるだろう。特に地方都市ではホットスポットよりも利用可能な場所が多く、私鉄を含めた多数の駅で利用できるのが魅力だ。ただし、セキュリティ対策ではIPsecやPPTPの利用は保証できないので、SSL VPNの利用をメインで考えたい。
一方、BBモバイルポイントは地方に強いサービスだ。このメリットを最優先させたいのなら、唯一の選択肢といえるだろう。ただし、通信速度が遅く、セキュリティも十分ではない。SSL VPNやWebメールの利用を主とし、比較的軽いデータのやりとりにとどめた運用が向いている。
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