2008年06月11日 08時00分 公開
特集/連載

エリア展開、セキュリティ面で着実に進化公衆無線LANがワークスタイルを変える【前編】

外出がちな社員を多く抱える企業にとって、屋外でのアクセス手段は悩みの種。ビジネスの生産性を上げるには、格段にアクセスポイントの増えた公衆無線LANがベストだ。

[池田冬彦]

 この数年で企業のITシステムは格段に進歩し、今や電子メールを核とするメッセージングサービスやグループウェアの停止が即業務停止につながるほど、ITへの依存度は高まるばかりだ。しかし、営業部員や出張がちな社員など、主にオフィスの外で仕事を行うユーザーは、その恩恵を受けるのが難しい。社内へのアクセス手段がなければ、オフィスの最新鋭のITシステムからは隔絶してしまう。

 やはり、社内・社外で働く社員が公平にITインフラの恩恵を享受するためには、屋外でのモバイルアクセスは必須である。この有力候補として浮上するのが、「公衆無線LAN」サービスだ。公衆無線LANサービスは、Wi-Fi(IEEE 802.11a/b/g)のアクセスポイントを駅や地下鉄構内、カフェ、ファストフード店、ホテルなどに設置し、ワイヤレスアクセス手段を提供する。また、東京・秋葉原/つくば間を結ぶ「つくばエクスプレス」のように、列車内インターネットサービスとしての広がりも期待されている。

画像 公衆無線LANが利用できるポイントには、目印となるステッカーが張られている(写真はつくばエクスプレス車内)

ビジネスに最適? 公衆無線LANのアドバンテージとは

 公衆無線LANの最大のアドバンテージは、何といっても通信速度だ。IEEE 802.11gのリンクアップ速度は54Mbps。実効速度は、おおむね15〜20Mbpsが平均的なところだ。このスピードはモバイルアクセスとしては最速である。なお、BBモバイルポイントはIEEE 802.11bのみで最大リンクアップ速度は12Mbps、実効速度は3〜5Mbpsほどになる。

 これが、携帯電話(HSDPA ※注1)やPHS通信技術を用いてサービスを展開する、ほかのブロードバンドサービスと大きく異なるポイントだ。ウィルコムのPHSデータ通信「AIR-EDGE」では、リンクアップ速度は最大256Kbps(4xモード、パケット方式の場合)、または、800Kbps(8xモード、W-OAM typeGの場合)。イー・モバイルの「EMモバイル・ブロードバンド」でも下り最大7.2Mbps/上り最大384Kbpsで、実効速度はさらに低くなる。

※注1:HSDPA 3G携帯電話の規格である「W-CDMA」を拡張した高速通信規格。1から12までのカテゴリが規定されており、現在主流なものは「カテゴリ6」で、最大通信速度は下り3.6Mbps。イー・モバイルが採用する「カテゴリ8」は下り最大7.2Mbpsだが、まだ一部の基地局しか対応していない。

ほかのモバイルアクセスサービスとの比較
接続手段 料金 通信速度 接続のしやすさ
PHSデータ通信 比較的高価(最大4xモードの定額制プランで月額8851円〜) 遅い(8xモードで最大800Kbps、4xモードで最大256Kbps) 良好(全国を既存のPHS網で面展開)
携帯電話(HSDPA) やや高価(定額制プランで月額4980円〜) やや速い(下り最大7.2Mbps) やや良好(全国主要エリアを面展開・拡大中)
公衆無線LAN 安価(定額制プランで月額525〜1575円) 高速(最大54Mbps) 悪い(点展開のため、スポットに赴く必要がある)

 だが、公衆無線LANなら、比較的安定して高速なインフラを利用でき、しかも月額コストも安い。ホットスポットの場合、月額料金は1680円、Mzoneでは1575円、さらにBBモバイルポイントではわずか525円(プロバイダーにYahoo! BBを選んだ場合)だ。もちろん定額制で、追加料金は発生しない。

HSDPA(EMモバイルブロードバンド)の速度と公衆無線LANの速度比較
種類 地点 平均速度(下り) 平均速度(上り)
HSDPA 都心(カテゴリ6) 2.3Mbps 359Kbps
HSDPA 都心(カテゴリ8) 3.1Mbps 360Kbps
HSDPA 郊外(カテゴリ6) 940Kbps 86Kbps
公衆無線LAN 東京都心のスポット 14.5Mbps 14.2Mbps
最大7.2Mbpsの通信が可能なHSDPAカテゴリ8対応エリアでは、下り平均3.1Mbps。ただし、電波強度が低いと1Mbpsを下回ることもある。特に上りの速度が遅く、PCからのデータ送信は遅くなる

公衆無線LANがもたらすビジネスメリット

 公衆無線LANは、モバイルアクセスの可能性を格段に広げる。ファイル共有やVoIP(Voice over IP)、大容量の添付メールなど、オフィス内で利用しているネットワークサービスのほとんどすべてが利用可能であり、「添付メールはやりとりしない」など、使い方を工夫したり制限を加える必要がない。ノートPCの潜在能力をフルに発揮できるのだ。具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていこう。

  • 営業社員のパフォーマンスを改善

 1日のほとんどを社外で過ごす営業社員にとって、オフィス内のIT基盤上のワークフローに合わせるのは大変だ。日報などの書類を提出するのも、社内の情報を仕入れるのもオフィス内のPCでしかできず、現実的に直行・直帰は不可能だ。このための移動時間や交通費は、年間の支出で考えると結構ばかにならない。

 だが、公衆無線LANを利用すれば、出先で必要な事務処理などを完了できる。会社への移動にかかっていた時間で、もう1件得意先を回ったり、必要な書類を作成する、あるいは今後の営業計画を作る、といった時間に充てられる。このようなメリットに加え、外出先から社内のリソースにアクセスできるメリットも大きい。例えば、外出している間に顧客にプレゼンするためのPowerPoint資料が更新され、すぐに入手しなければいけない、といった場合もすぐに対応できる。

  • 外出がちな社員の利便性と生産性を向上

 度重なる出張で忙しく飛び回る社員にとって、モバイルアクセスは業務効率化・合理化の鍵だ。例えば、メールやグループウェアによるチームやプロジェクト内での情報共有は、オフィス内ではもはや当たり前だが、モバイルアクセスの手段がないと、外出先で刻々と変化する状況をフォローすることができず、コミュニケーションロスが発生することもしばしばだ。

 各スタッフの行動予定から会議室の空き状況、立ち寄り先の各種情報など、イントラネットで得られるすべての情報を電話で確認しながら作業しなければならない。このような問題も、出先で公衆無線LANを利用してVPN経由で社内にアクセスするだけで解決する。もちろん、社外からのメールサーバへのアクセスを禁止している企業でも、問題なくやりとりが可能だ。外出中の情報格差は解消されるはずだ。

 また、公衆無線LANでは、携帯電話/PHSのモバイルアクセスでは難しい数百Mバイトものデータ転送も可能だ。802.11gが利用できるスポットなら、100Mバイト程度のデータもほぼ数分で転送できる。わざわざ出掛ける前に必要なファイルをノートPCにコピー、といった面倒な作業は不要になる。

どのようなサービスがあるのか

 現在、全国的に展開しているサービスはNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」、NTTドコモの「Mzone」、ソフトバンクテレコムが提供する「BBモバイルポイント」だ。これらのサービスは着々とアクセスポイント数を増やし、カフェやファストフード店、駅構内などを中心に、日本全国の主要エリアで利用できるまでに広がっている。

主要な公衆無線LANサービス
ホットスポット Mzone BBモバイルポイント
契約方法 インターネット、郵送、代理店窓口 ドコモショップ窓口のみ インターネット
初期費用 1575円(定額契約の場合のみ) なし なし
料金 1680円/月 1575円/月(FOMA利用者は840円/月) プロバイダーによって料金が異なる(Yahoo! BBの場合525円/月)
一時利用料金 500円/日 525円/月 500円/日または1000円/2週間(※ファミリーマート店頭端末でのみ購入可能)
アクセスポイント数 約4000 約5000 約3500
通信方式 IEEE 802.11b/g/a IEEE 802.11b/g/a IEEE 802.11b
セキュリティ WEP、IEEE 802.1X認証 WEP、IEEE 802.1X認証 WEPのみ
代表的な提供場所 カフェ・ファストフード店舗。東京メトロ、都営地下鉄、JR、私鉄の主要各駅。空港、ホテル、レストランなど カフェ・ファストフード店舗。東京メトロ、都営地下鉄、JR、私鉄の主要各駅。つくばエクスプレス車内、空港、ホテル、レストランなど 全国のマグドナルド、ルノアール、ドトールコーヒーなどの各店舗、主要な駅、ホテル、空港など
ローミング BBモバイルポイント(定額:819円/月、スポット利用:315円/日)、海外 BBモバイルポイント(スポット利用:315円/日)、エアポートネット(成田空港:利用料金は無料) なし

ホットスポット(NTTコミュニケーションズ提供)

 ホットスポットは、IEEE 802.1X認証(※注2)やグローバルアドレスによるVPNにも対応し、通信方式も802.11gが主流だ。北海道から沖縄までの47都道府県にアクセスポイントがあるが、大都市・人口密集地、かつ、電車や飛行機などで移動するビジネスマンの動線に特化したエリア展開が行われている。

※注2:有線LAN/無線LANにおけるユーザー認証を一元的に行うための仕組みで、認証サーバとの連携により正規ユーザー以外はネットワークの利用を阻止できる。また、この認証システム上で、動的な暗号鍵の交換(ダイナミックWEPとも呼ばれる)が提供され、より安全に通信できる。

Mzone(NTTドコモ提供)

 Mzoneは、JR各社さらには東京、大阪を中心に私鉄各社との提携に力を入れており、駅中心のエリア展開を行っているのが特徴だ。さらに現在、日本で唯一、列車内での移動公衆無線LANサービスを行っている。鉄道に強いサービスといえるだろう。また、ホットスポットと併設して運用しているポイントも多い。

BBモバイルポイント(ソフトバンクテレコム提供)

 BBモバイルポイントは、日本マクドナルドの店舗を主力にエリア展開を行っており、北海道から沖縄まで、日本全国の対応店舗で利用できる。ただし、通信方式は802.11bのみで、ほかのサービスに比べて通信速度が遅い。また、802.1Xやグローバルアドレスの対応といったセキュリティ対策は現在行っていないが、マクドナルド店舗は比較的見つけやすく、利便性はほかのサービスに比べて高い。

 次回は、使い勝手やセキュリティ面などこれらのサービスの詳細や具体的な違いについて比較していく。


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