2009年04月14日 08時00分 UPDATE
特集/連載

Googleマップとの連携だけがマッシュアップではない現場主導型のアプリ構築を可能にする「ビジネスマッシュアップ」

Googleマップとの連携が有名なマッシュアップだが、企業の業務アプリケーション構築での利用も増えつつある。一般的なマッシュアップとの違いは何か? その導入メリットや普及への課題を解説する。

[川岸達之,セレナソフトウェア日本支社]

 一般的にマッシュアップというと、インターネット上に公開されている情報やWebサービスAPIなどを組み合わせて「1つのWebサービスや機能のように見せる」ことを指すことが多い。

 また、マッシュアップと聞いて連想されるものとしてGoogleマップの地図情報とレストラン情報のデータを組み合わせたり、個人のブログ内に商品検索結果を一緒に表示したりするようなWebサイトを思い浮かべる人が多いだろう。

 その一方で、ビジネスの現場においても、マッシュアップは「業務アプリケーションの構築手法」として採用され始めている。しかし、この場合のマッシュアップとは、企業Webサイトの所在地情報の横にグーグルの地図を表示させることではない。

 企業向けのマッシュアップとは一体何だろうか?

 本稿では、企業向けマッシュアップを「ビジネスマッシュアップ」(以下、BM)と称して、一般的なマッシュアップとの違いやその導入メリット、普及への課題について解説する。

ビジネスマッシュアップとは?

 マッシュアップという言葉には「混ぜ合わせることから転じて、既にあるものを利用して新しいものを作り出す」という意味がある。

 BMとは、マッシュアップ手法を用いて「人」「データ」「プロセス」を結び付けた「業務ワークフロー」を構築することを指す。すなわち、CRM(Customer Relationship Management)ERP(Enterprise Resource Planning)など、個別のアプリケーション機能そのものではなく、それらをコンポーネントとして組み合わせて、自社に最適な業務ワークフローシステムを構築することだといえる。

 BMが普及すれば、業務ワークフロー構築の今後の主導権は、IT部門のエンジニアではなく、ビジネス部門の担当者(例えば、営業や人事、マーケティング部門などの担当者)に移行していくと予測される。現場のビジネスパーソンが、自ら業務フローのアプリケーションを構築するスタイルが、今後、組織内におけるIT活用のスタンダードとなるだろう。

photo 作成者タイプから見たマッシュアップの分類

 BMにもさまざまな種類がある。例えば、社員の休暇申請や承認、商談に関するディスカウントなどの承認用といった、業務プロセスを一括管理するアプリケーションが挙げられる。このように「承認待ち」「承認済み」というような「状態(ステータス)」を持ったデータを処理するアプリケーションを、ほかのマッシュアップと区別するために「プロセスマッシュアップ」と呼ぶこともできる。

 BMは現場のビジネスパーソンが主導権を握るという点で、IT部門のエンジニアが中心となって企業内システムを構築する「エンタープライズマッシュアップ」とは異なる。また、ビジネスの現場で必要な業務プロセスを構築するという点で、単なる「データマッシュアップ」とも異なる。

マッシュアップの方法から見た分類
マッシュアップの種類 概要 状態の有無
プロセスマッシュアップ 状態を持ったプロセスを処理する。業務ワークフローを処理するBMはこれに当たる あり
データマッシュアップ 複数のデータを組みわせて表示する。複数のデータベースを参照して統合リポートを出すビジネスインテリジェンス(BI)ツールなど なし
ポータルマッシュアップ 複数のサービスやデータを1つの画面に読み込んで表示する なし

開発要求のロングテール現象がBMを誕生させた

 BMへの関心が高まってきた背景には、高度なIT知識を持たないビジネス部門の担当者でも、マッシュアップの手法を使って簡単にアプリケーションを作成できる環境が整ってきたことがある。

 個人ユーザーの間でマッシュアップ活用が広がった要因は「高度な技術やIT知識がなくても、短期間で簡単にアプリケーションの開発ができた」からだろう。BMの場合も、WebサービスやSaaS(Software as a Service)などと、社内のデータベース(DB)や業務プロセスを組み合わせることによって、業務アプリケーションやワークフローを構築する。そして、ここでも通常のマッシュアップと同様に「自分が求める機能を持つアプリケーションが簡単に短期間で構築できる」点が重要となる。

 筆者は日本でSaaSが注目され始めたのは2006年ごろからだと記憶しているが、それ以前にもビジネスの現場で必要とされる機能を迅速に導入する手法として、「ASP(Application Service Provider)」形式のサービスが利用されていた。

 しかし、ここ数年SaaSへの注目が高まってきた背景には、「ASPが出始めた時期に比べて通信環境が整ってきた」ことや「サービス内容が充実してきた」ことに加えて、「ITのコモディティー化が進み、ビジネスの現場からIT部門に対する要求が爆発的に増えた」ことがあると考えられる。

 今日のビジネス環境は、10年前と比べものにならないスピードで変化している。その状況下で、ビジネス部門の担当者は、競争力を高めるために必要な業務アプリケーションの開発をIT部門に対して要求する。

 しかし、その多くの場合で、複雑で大規模なアプリケーション開発やユーザー数が多くビジネスインパクトの大きい開発案件などに、IT部門のリソースを取られてしまう。そのため、例えば、営業担当者や人事担当者などの現場のビジネスパーソンが、日々の業務効率を上げるために必要とされるアプリケーションの開発まで手が回らない。

 実際、現場からのリクエストは、大抵は部門レベルで使われるような小規模でニッチなものが多く、IT部門に依頼しても優先順位が低いと見なされ、なかなか構築されない。こうしてビジネス部門からIT部門への開発要求はロングテール化し、開発要求のバックログ(積み残し)が蓄積されていく。

 そしてビジネス部門では、口頭でのやりとりや電子メール、Microsoft Office Excel、手作業などによって、厳しいビジネス状況をしのいでいるというのが実情だろう。

 先述のような状況は、現実的なITリソースを考慮すれば仕方がないと思える面もある。

 「現場のビジネスパーソンが、必要なときに必要なアプリケーションをIT部門に負担を掛けずに作成できないか」ということで、注目されるようになったのがBMだった。

さまざまなビジネスシーンにおいて活用できる

 BMでは、複数のWebサービスを組み合わせたり、SaaSサービスと自社の基幹システムやDBを連携させることで「承認待ち」「承認済み」というような「状態(ステータス)」を持つデータを処理する業務のワークフローを構築する。これにより、ビジネス部門のワークフローの課題や問題点の改善に役立てることができる。

 具体的には、どのようなビジネスシーンにおいてBMが活用できるだろうか?

 例えば、営業担当者が上長から自社商品のディスカウント承認を得る場合が考えられる。顧客管理ソフトと承認プロセスが一連のワークフローとして連携していなければ、担当者は顧客管理データの入力とは別に、メールソフトを立ち上げて上長にメールを送ったり、口頭でやりとりをしたりする。この場合、途中で別業務の担当者が介入することで情報が錯綜(さくそう)して、ビジネスチャンスを逃してしまう恐れもある。

 また、顧客管理や会計といった用途別のソフトウェアを導入してIT化を進めている場合でも、ワークフローで特に重要となる“承認や決定プロセス”が口頭やメールで行われているという話は最近でもよく耳にする。

 さらに、商談が成立した後にその業務プロセスの監査証跡が必要になった際、口頭や個別メールのやりとりの履歴だけでは、業務プロセスの妥当性を証明することは容易ではないだろう。大企業ならまだしも中小企業では、似たような状況はまだまだ多いと思われる。

 このような場合、1つの案件を把握するために散在するデータを参照しなければならなかったり、証跡記録が保存されていなかったりするなど、データが拡散していて全体的な把握が難しくなることもある。こうした状況において、自社のワークフローに最適なアプリケーション構築を容易にする手段としてBMを活用できる。

 先に例に挙げた営業のディスカウント承認のほかにも、文書管理や予算編成プロセス、物品購入、資産管理など、さまざまなビジネスシーンにおいて、BMによる業務ワークフロー改善の余地はあるといえる。

BMの活用事例
活用分野 具体的な活用例
開発 変更要求承認、アジャイル開発、緊急案件の追跡、ケース ツー イシュー、テスト要求
ファシリティ ハードウェア/ソフトウェア管理(購入・変更)
ファイナンス 経費精算、購入申請、信用調査
人事 休暇申請、社員雇用プロセス、社内トレーニング申請
サポート インシデント対応、インシデントエスカレーション
アプリケーションライフサイクルマネジメント(ALM) 各種ALMツールとの連携
CRM/ERP SaaS型CRMとの連携、商談ディスカウント承認、商取引承認
コンプライアンス J-SOX法、CMMI(Capability Maturity Model統合版)、FDA(米国食品医薬品局:Food and Drug Administration)などへの対応

BM構築例〜商品配達プロセス〜

 BMによるアプリケーション開発では、社内外の複数のプロセスやデータを連携させて全社的なIT化を図る場合にはIT部門の力を必要とする部分もあるだろうが、比較的単純なものであれば、プログラミングの知識を持たないビジネスパーソンがGUI(Graphical User Interface)を用いて開発できる環境も既に用意されている。あらかじめ用意されているテンプレートの中から自分の組織に合ったアプリケーションを作ったり、変更を加えたりすることも可能だ。

photo GUIを採用したBM構築環境(画面はセレナソフトウェアのBM構築ツール「Serena Business Mashup」)《クリックで拡大》

 以下の図は、BMで構築した簡単なサンプルアプリケーションだ。ここでは「商品配達プロセス」におけるBMの例を紹介する。想定される業務フローは、以下の通り。

  1. CRMツールで管理している顧客から発注を受ける
  2. コールセンターの担当者が、顧客と配達日時を調整する
  3. 配達部門が実際に商品を配達する
  4. 配達が終了した時点で在庫数がアップデートされる

 ここではすべてのプロセスについてログが取られるため、個々の業務がどのように行われたかを後から確認することもできる。

photo 商品配達プロセスを想定したBMの例《クリックで拡大》

 上記の例では、以下のサービスを利用してアプリケーションを作成した。BM構築環境を使うと、このような業務ワークフローを2〜3時間で構築できる。

BM構築環境
マッシュアップ内容 使用したサービス
位置情報サービス Microsoft Virtual Earth
Google Maps API
スケジューリングシステム Google Calendar API
簡易DB Google Spreadsheet Data API
BM構築ツール Serena Business Mashup

 また、各コンポーネントをいつでもほかのサービスに変更することができる点もBMの特徴だ。例えば、位置情報システムをほかのWebサービスに変えたり、スケジューリングシステムやDBなどを社内で運用している基幹システムに切り替えたりすることも容易にできる。

BMの活用メリットとは?

 以下に、自社開発する場合と比較したBMの活用メリットをまとめる。

開発のスピードアップが図られる

 先述したように、ビジネス部門からの業務アプリケーションの開発要求は、費用対効果の観点から後回しにされたり、見送られたりすることが多い。しかし、BMを利用すれば、自社のITリソースでの開発と比べて、アプリケーションの開発から導入までの期間を短縮することが可能だ。

コスト低減の効果が期待できる

 既存のSaaS型アプリケーションやWebサービスを使って構築することができるため、開発のコスト低減が期待できる。また、試験的な導入や、投資効果の算定が難しくIT投資が限られている場合などにおける最善の選択肢の1つにもなるといえる。

柔軟性やスケーラビリティが高い

 複数の業務コンポーネントの一部の機能を、途中から別のコンポーネント(WebサービスやAPI)に変更する場合でも、自社開発と比べて比較的容易に対応できる。また、新たな機能を追加する際にも、SaaSベンダーから提供される、動作保証済みのアプリケーションを使うこともできる。特にIT予算の少ない中小企業において、これまで難しかった「いつでも最新の機能を最新の状態で安全に使う」というメリットを享受できるだろう。

セキュリティ、コンプライアンスを確保できる

 SaaSベンダーなどの第三者による「管理や監視、SLA(Service Level Agreement)の保証」など、セキュリティや信頼性が確保されたサービスをコンポーネントとして利用することで、自社のITリソースの負担やリスクなどの軽減を図ることができる。また、監査証跡保存機能を備えたアプリケーションを利用することで、IT統制におけるコンプライアンスを強化することも可能だ。

継続的なイノベーションに活用できる

 組織における人員の増減、プロセスの改善やソフトウェアの変更など、ビジネスを取り巻くさまざまな変化は、多くの時間とコストを必要とする「重荷」ととらえられていた。しかし、そうしたマイナス原因を軽減させ、より強い組織へと導くための継続的な改革のための手段としても活用できるだろう。

本格的な普及に向けて

 今後、現場のビジネスパーソンがBMをつくる際に使える業務ワークフローのテンプレートが増えていけば、テンプレートをダウンロードしてそのまま使ったり、テンプレートに変更を加えて使ったりすることが可能になる。また、テンプレートとなるアプリケーションの公開や共有、販売などのビジネスモデルの普及も視野に入ってくるだろう。

 BM普及の初期段階では、IT部門による手助けが必要になる場合もあるだろうが、ビジネス部門の「IT部門への100%依存」から脱し、自部門主導で対応できるものはBMに徐々にシフトさせることができる。これにより、IT部門に蓄積している開発要求の積み残しを減らすことができ、IT部門にとってもビジネス部門にとっても、あるいは企業全体に対しても多くのメリットをもたらすと考えられる。

企業向けマッシュアップ関連製品

 ここからは、マッシュアップによる業務アプリケーション開発ツールや関連製品を紹介していく。

日本アイ・ビー・エム

IBM Mashup Center

 マッシュアップ組み立てツールやEclipseベースのウィジェット作成環境、情報検索/共有機能を提供するカタログなどで構成される「IBM Mashup Center」と、企業内の各種データソースのデータをマッシュアップ用の部品として利用するために変換機能を持つ「InfoSphere MashupHub」を活用してマッシュアップを構築する。

日本オラクル

Oracle WebCenter Suite

 J2EEやJavaServer Faces(JSF)などの標準規格に基づくアプリケーション開発/運用フレームワーク「WebCenter Framework」、マッシュアップアプリケーション統合開発環境「Oracle Application Development Framework」、各種サービス群「WebCenter Services」などで構成される。

ジャストシステム

xfy Enterprise Basis 2.1

 XML(eXtensible Markup Language)形式データのマッシュアップ作成機能を提供するアプリケーションフレームワーク。アプリケーション定義言語「XVCD」によって、WebサービスへのリクエストやXMLデータのマッシュアップ、ビューへのマッピング、ユーザーイベントのハンドリングなどの処理を定義したり、実行したりできる。

セレナソフトウェア

Serena Business Mashup

 無償で提供されるビジュアルモデリングツール「Serena Mashup Composer」と、社内のSOA(サービス指向アーキテクチャ)や外部Webサービスとの連携を取るオーケストレーションも可能なマッシュアップ実行エンジン「Serena Mashup Server」、オンラインマーケット「Serena Mashup Exchange」などで構成される。

富士通

Interstage Interaction Manager

 既存のWebアプリケーションや外部のWebサービスと連携した業務アプリケーションの開発機能を提供する「マッシュアップフレームワーク」を搭載した、Webフロントアプリケーション構築基盤。

<筆者紹介>

川岸達之

セレナソフトウェア日本支社 ジャパン・ソリューション・センター リード・リサーチャー

専門分野:

複数の外資系ソフトウェア会社において、エンジニアやプロダクトマネジャー、ビジネスマネジャーとして日本市場進出のプロジェクトなどに携わる。2008年にセレナソフトウェア日本支社に入社。現在は、ビジネスマッシュアップを中心にALMやSaaSプロダクトに関するグローバライゼーションおよび国内での啓蒙活動に従事。


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