2010年03月11日 08時00分 UPDATE
特集/連載

通話だけじゃない! IP電話による業務コミュニケーション活性化【第1回】IP電話の本当の価値とは? 潜在能力を引き出す“次の一手”

通信料削減のために導入が進んだIP電話だが、多くの企業は通話以外の用途を見いだせないでいる。「使いにくい、音質が良くない」という段階はもう過ぎた。IP電話本来の価値を引き出すソリューションを考える。

[荒牧大樹,ネットワンシステムズ]

 5年ほど前から、企業内電話の世界では「IP電話」という言葉が脚光を浴び始め、PBX(構内交換機)を利用していた世界から、その後は一気にIP電話が当たり前の世界へと変わっていった。この流れに乗って多くの企業がIP電話を導入したが、電話機をIPベースに置き換えることに終始してしまい、本来のIP電話らしいメリットを得られることなく移行プロジェクトが終了しているユーザーもいる。

 本連載では、この導入済みのIP電話をいかに活用するか、IP電話の先にあるユニファイドコミュニケーション(UC)という新しいキーワードを使って、事例も交えながら解説していく。

 今回は、IP電話が活用されていない問題の原因が何なのかを考える。まず、VoIP(Voice over IP)の技術が登場してから現在のUCに至るまでの、それぞれの問題点を整理してみよう。

VoIP導入時の問題

 VoIPとは、拠点間のPBXをIPネットワーク上で接続する技術である。その導入の目的は、単純にPBX間をIPネットワークで結んで拠点間の通信コストを削減することだった。技術的にネットワーク側の問題点はさまざまあったのだが、ユーザーにとっては、時々障害が発生する程度で、使い勝手の面では従来と変わらず利用することができていた。しかし、そもそもの導入の主眼が拠点間通信費の削減のため、生産性の向上などコスト以外の利点は得られなかった。つまり、VoIP導入において訴求されたポイントは、「コストと安定性」である。

IP電話導入時の問題

 VoIPの次に、電話機を直接IPで収容するIP電話が登場した。呼制御装置としては、PBXベースのIP-PBX、IP電話のセントレックス(※)、サーバベースのunPBXといった種類がある。

※IP電話のセントレックス:企業の内線通話や拠点間の通話をIP化するための手法やサービス。固定電話のほか、携帯電話を内線電話として利用するモバイルセントレックスがある。

図 UCの変遷イメージ

 IP電話機が出始めた当初は、コスト削減を実現した上で、従来の電話機で実現していた機能をどのようにIP電話で置き換えるのかに重点が置かれていた。この時点でPCサーバを利用するunPBXも登場していたが、電話機能が十分ではなかった(unPBXの初期のタイプでは保留音が出なかったり、代理応答ができなかったりしていた)。当時は、導入に際して電話機能の比較が活発に行われており、いかに多くの機能を提供できているかが重要な比較項目だった。そのため、電話機の機能をそのままIP電話へと置き換えるからには、価格も従来よりも安いか同等でなければならない。このような背景もあって、製品選定のポイントがコストと電話機能にフォーカスされたため、安価に導入できるIP-PBXやサービスとして提供されるIPセントレックスが選択の中心になっていた。

 このように、コストと電話機能に焦点が当たってしまったため、音声周りのアプリケーションを活用して生産性向上を図ることなどほど遠い話だった。加えて、IP-PBXやIPセントレックスはアプリとの連携が難しかったこと、アプリケーション環境に強いunPBXでも当時はシステムの安定性が欠けていたことなどが原因となり、アプリケーションを使うところまでは到達できなかったのだ。

 エンドユーザーから見ても、コスト面のみにフォーカスしてIP電話を導入してしまうと、電話機の操作が変わるだけなので何のメリットもない。さらに、電話機能もIP電話ですべて再現できなかった場合は、電話機として劣って見えてしまうだけである。これでは、ユーザー部門で強い反対が巻き起こるのも当然だ。実際に、IT部門と総務部の主導で全国展開が決まっていたが、現場からの強い反対があったために本社に導入した段階でストップしてしまったという事例もあった。つまりIP電話にするからには、ユーザーに対する何らかの付加価値が必要だということだ。

IPコミュニケーションツールの問題

 IP電話の後には、簡単な音声関連のアプリケーションを追加した「IPコミュニケーション」という言葉が登場した。これは、ボイスメールを進化させたユニファイドメッセージングや音声会議、Web電話張を利用した製品だ。しかし、音声に偏ったソリューションであったため、投資対効果の点から音声専用アプリケーションを導入しようというユーザーはあまりいなかった。いざアプリケーションと一緒にIP電話を導入しようとすると、電話機の置き換えの問題に立ち戻ってしまい、予定していたアプリケーションが導入されずに終わったケースも多い。

 また、主な注目製品が留守電を進化させたユニファイドメッセージングだったことも、大きな問題だった。日本企業では留守電の文化がなく、必ず誰かが代理応対するため、利用用途が限られていた。電話会議と留守電が重要な要素となる外資系の企業とは違い、両方とも使用を避ける日本では普及しなかったのだ。初期のユニファイドメッセージングは安定性に欠けており、IP電話の変更に対して消極的になっていた点も挙げられる。

アプリケーション活用が進まなかった製造業

 次に、企業がIP電話を活用できない問題を別の角度から見てみよう。IP電話導入後、アプリケーション活用へと進まなかった製造業の例だ。製造系はコスト削減に厳しいものの、拠点間通話の多い証券業を中心にIP電話の導入がいち早く進んだ金融系企業に比べると電話を活用しているとはいい難い。

 製造系でのIP電話の主要な導入先は工場だ。工場ではアナログ電話やPHSの文化が根強く、工場にIP電話を導入しようとする場合、まずはこれらをIPで置き換えることから始まる。基本的に工場で働いている社員は動き回ることが前提なので、モバイル対応は必須である。そうすると、PHS網を無線LANに置き換えることは、音声のみに焦点を当てるとコスト的に見合わなくなってしまう。また、工場の従業員用にアプリケーションが使えるPCが用意されていないことが多いため、PCと連動するような機能だとIP電話のメリットを出しにくい。

 従って、製造系では本社のみにIP電話が導入され、工場はいまだに無線の部分は構内PHSを使用し続けているような場合が多い。筆者がシステム構築に携わったある事例では、IP電話を工場と本社で導入しており、工場では無線IP電話を利用していた。しかし当時の技術では、無線IP電話の音声がPHSに比べるとなかなか安定しなかった。当初はアプリ導入などの予定があったが、無線IP電話の安定性向上のための業務に忙殺されてしまい、結局動作が安定した後もアプリケーション利用の話が立ち消えとなった。

UCで通話以上の価値を引き出す

 では、こうした問題を解消し、IP電話の導入効果を最大化することはできるのだろうか?

 これまでの例のように、既存の電話機を置き換える形でIP電話を導入してしまうと、ユーザーはメリットが得られないことが多い。しかし、IP電話と連携させる形で、顧客情報との連動であったり、Web電話帳の利用だったり、モバイルの活用だったりと、音声機能を便利にするアプリケーションを導入すると、ユーザーにとっても大きなメリットとなり得る。ただし、音声通話をそれほど使用していなければ、あまりIP電話のメリットは得られないだろう。その場合は枠組みを広くして、UCを活用すればよい。

 UCは、人と人とのコミュニケーション全体を扱っている。登場当初は音声周りが中心だったが、今や音声・ビデオ、チャット、プレゼンス、Web会議、留守電がその対象となっている。将来的にはmixiやFacebookのようなソーシャルメディアまでもが含まれるようになってくるなど、UCの対象範囲は広がりつつある。それは“人と人とのつながりをITで解決する”という、UCのカテゴリーの定義からも明白だ。

 だが、単一のUCツールを導入しても、使用率が低かったり思うような導入効果が得られず、多くの企業が悩むことになりかねない。それは、複数のコミュニケーションツールをシームレスに相互連携させることで、ユーザーが1つの操作でストレスなく各ツールを利用でき、生産性の向上が図れるのがUCの本来の導入効果であるからだ。

 UCはそれぞれ使用する場所や機器を問わず、同じことができるようになっている。例えばWeb会議であれば、あるユーザーはPCで参加し、またあるユーザーは外出中にスマートフォンで同じWeb会議に参加することも可能である。

 また、IP電話の一般化と同時に安定性が増したことで、IP電話の次のステージであるUCを積極的に検討できる環境が整ってきた。先述の製造系の工場の例でいえば、スマートフォンがハンディ端末としての利用価値を同時に作り出せるようになっている。

 次回からは、UCを構成する製品の解説と、その製品を導入した事例や導入効果を紹介していく。具体的には、PCと電話機を連動させて業務効率を改善した例やモバイルでのアプリケーション利用で生産性の低下と通信費の増大を抑えた例を取り上げる予定だ。

<筆者紹介>

荒牧大樹

ネットワンシステムズ 営業推進本部

2001年よりIP電話機構築にかかわる。国内の大手金融や製造系の大規模なUCネットワーク構築において、先端UC技術をいち早く取り入れてきた。メーカー以外の企業のエンジニアとして、UC技術の最高資格である「CCIE Voice」を国内で初めて取得。現在はネットワンシステムズにてUC製品の先端技術サポートを行っている。



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