意外と危険、BYODの法的リスク【後編】
私物スマートフォンで持ち帰り残業、残業代は請求できる?
私物端末の業務利用(BYOD)を解禁すれば、時間や場所を問わず仕事ができるようになる。ただし、労使間で労働時間の考え方が食い違うと、法的なトラブルに発展するかもしれない。
前編「私物スマートフォンを監視 合法と違法の境目は」では、プライバシーやセキュリティの観点から、私物端末の業務利用(BYOD)を解禁する際の法的リスクについて検証した。
後編は、BYOD解禁で再考すべき就業規則や労務制度について、人事・労務コンサルティング企業ピー・エム・ピーの代表取締役、鈴木雅一氏の話を基に解説する。内容は、ソフトウェアベンダーの業界団体であるコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)が2013年7月に開催した「『BYOD』企業導入のポイント説明会」での講演内容に基づいている。
「いつでもどこでも仕事ができる」ことの落とし穴
BYOD解禁のメリットとして大きいのが、従業員が思い立ったときに、いつでもどこでも仕事ができることだ。このことは、従業員だけでなく、経営者にとっても魅力的に映るかもしれない。
ただし、いつでもどこでも仕事ができるようにすることは、「労務の専門家の立場から考えると、大変チャレンジングだ」と鈴木氏は指摘する。
問題になるのが労働時間の考え方だ。労働基準法上の労働時間は、会社の指揮命令下に置かれている時間を指す。そのため、従業員が自分の判断で家に持ち帰ってする残業、いわゆる「持ち帰り残業」の場合、「会社の指揮命令下にないので労働時間とは見なさない、という考え方が定着している」と鈴木氏は説明する。つまり、会社は持ち帰り残業に対して残業代を払わなくてもよい、ということになる。
一方、会社側が「家に持ち帰って仕事をしろ」と命令した場合、持ち帰り残業でも労働時間だと見なされる可能性がある。また、こうした明示的な持ち帰り残業の指揮命令がない場合でも、「会社から『これだけの量の仕事をこの日までにやれ』といわれたが、残業しなければできない」と従業員が主張することも考えられる。その場合、「過去の判例を踏まえると、会社側が『指揮命令下にない』で押し切れるかどうかは分からない」と鈴木氏は注意を促す。
会社側は、「『私物端末を使って家でこれだけ働いたのだから、残業代として申請したい』と従業員が言ってきた場合に、どう対処するかも考えておくべきだ」と鈴木氏は強調する。会社側が「指揮命令下にない労働なので、残業代の申請は認められない」と応じるのは問題ないが、「会社と従業員との間にしこりが残りかねない」からだ。会社側は「『今回は自己申告を認める。ただし、以後あなたは家で仕事をしないでほしい」と従業員に話をせざるを得ないだろう」と、鈴木氏はアドバイスする。
またBYODに解禁に伴って家で仕事をする機会が増えると、過重労働のリスクが高まるという指摘もある。過重労働で体を壊す従業員が現れたりすれば、会社の責任になりかねない。「日本の場合、争いになると会社側が不利になることが多い」と鈴木氏は注意を促す。「各社が置かれている状況に応じて、リスクマネジメントの観点を踏まえ、BYODを推進するかどうかを決めることが重要だ」
BYODが“ガラパゴス”な日本の労働環境を変えるか
「BYODを積極的に推進できれば、もっと自由な働き方、ワークライフバランス指向の働き方ができるようになるはずだ」と鈴木氏は語る。例えば、午前9時から午後5時までが定時の会社で、「今日は午後2時に帰って、残りの仕事は家でやる」といった働き方も可能になる。その場合に「労働基準法に照らし合わせた自社の就業規則や労働時間をどう考えるかが、大きな課題となる」。
コンプライアンスの観点からは、「会社は従業員の労働時間を厳格に計測して、それに応じて給料や残業代を払わざるを得ない」。ただしこのことは、いつでもどこでも仕事ができるというBYODのメリットを引き出す上で足かせになる。
米国では、労働時間ではなく成果に対して給料を支払う「ホワイトカラーエグゼンプション」という制度が幅広く導入されていると鈴木氏は説明する。「米国で労働時間を基に給料や残業代を払うケースは、ホワイトカラーではごく一部でしかない」。ヨーロッパも米国ほど極端ではないが、ホワイトカラーエグゼンプションの導入が進みつつあるという。
「グローバルで見ると、労働基準法だけでなく働き方を含めて、国内企業は随分と特殊な世界に入り込んでいる」と鈴木氏は指摘。BYODの積極活用は、従業員の働き方や就業規則、労働時間を再考する動きにつながるのではないかと見る。
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