コンシューマー技術が業務をどう変える?
NASAがIT改革 iPhone、3Dプリンタで“大気圏脱出”
独自技術にこだわるNASAのような組織でも3DプリンタやiPhoneなどコンシューマー技術の採用を検討しだした。このコンシューマライゼーションは、“大気”のようにどの企業にもあるIT部門の業務をどう変えるのだろうか。
ITコンシューマライゼーションの影響が及ぶのは、IT部門がエンドユーザーに提供するツールやサービスだけではない。ITのコンシューマライゼーションが進む中、IT部門の構造や担当業務の内容はこの先何年かで様変わりすることが予想される。
コンシューマライゼーションがもたらす変化への対応には、どんなに先進的なIT部門であっても苦労することになりそうだ。
米航空宇宙局(NASA)の本業は本来、科学的な未来を生み出すことだ。だが、2013年春の連邦政府による強制歳出削減措置の発動と、迫り来るIT部門の予算削減を機に、NASAはコンシューマー(一般消費者)向けテクノロジーの採用に踏み切った。
「コンシューマー主導型のITによって、これまで想像すらされなかった可能性が開かれた」と、NASAのジェット推進研究所(JPL)で最高技術責任者(CTO)を務めるトム・ソダストローム氏は2013年6月初旬に開催された「CITEworld」カンファレンスで語った。この変化にうまく対応するために、JPLはIT部門の仕事の進め方を変える必要があったという。
JPLは「IT体験コーナー」を設置し、3Dプリンタ、拡張現実(AR: Augmented Reality)、米AppleのiPhoneやiPadを使ったロボット制御など、各種の最新のコンシューマー技術を試せるようにした。またDropboxやPinterest、Facebook、YouTubeなどからヒントを得て、所内に職員のコラボレーション用のWebサイトを構築した。さらにJPLは、NASAが提供するデータを可視化したグラフィックを公募するなど、クラウドソーシングを活用したプロジェクトも進めている。
ソダストローム氏によれば、JPLはさらにIT部門内にこうした新しいコンシューマー主導型のプロジェクトを統括するための新たなポジションを設置しているという。例えば、JPLの3Dプリンタ関連のプロジェクトを統括する「Head Body Part Maker(身体部位の製作主任)」もその1つだ。
従来のIT業務も引き続き必要となるが、IT部門には今後、俊敏に動き、既存の枠組みにとらわれずに物事を考えることが必要となるはずだ。防衛技術を手掛ける米Northrop GrummanのCTO、ブランドン・ポルコ氏によれば、例えば、IT部門には少なくとも1人、未来のテクノロジーを広い視点から考えられる未来志向の人間を置くことが重要となるかもしれないという。
「5年後にもIT部門が存在しているかどうかは、分からない。少なくとも、これまでのIT部門とは違ったものになっているだろう。IT部門は進化して生き残る可能性も、停滞して廃れる可能性もある」と同氏は語る。
「IT部門には、事業のスムーズな遂行に役立つ新しいテクノロジーを見極められるよう、少し斜めの視点から物事を見る人が必要となるだろう」と同氏は続ける。
例えば、Googleのウェアラブル端末「Google Glass」を目にしても、一切気にも留めないのは不十分だ。「Google Glassの登場によって、管理やセキュリティにどのようなソフトウェアが必要になるか」を心配するのも、十分ではない。それよりも、Google Glassを目にしたIT部門は「機械工や現場サービスの技術者がどのように活用できるか」を考えるべきだ。3Dプリンタがあれば、部品を競合他社から購入せずに自社で製造できるか? ヘルプデスクを、メールによる予約システムから、AppleのGenius Barスタイルのキオスクに変身させるのは理にかなったことか? IT部門はそういったことを考える必要がある。
IT部門の新しい役割はどのようなものに?
一部からは、「組織はIT部門内に“最高モバイル責任者(CMO)”のようなポジションを設け、時間の経過とともに段階的に規模を拡張したり縮小したりできるようにして、最新のインフラ環境への効率的な移行を支援する必要がある」との指摘も上がっている。また業界観測筋の中には、「IT部門は今後、マーケティング部門や法務部門など、概して今もテクノロジーの多くを購入している他の事業部門ともっと緊密に結び付くことになる」と予想する向きもいる。
米保険会社MassMutual Financial Groupのエンタープライズアーキテクト、ダン・ガルシア氏は、次のように指摘する。「一部の企業は、コンシューマライゼーションに対応するために、この先数年でIT部門の構造のあちこちに細かい調整を施す必要があるだろう。企業は今後、優秀な人物をひき寄せ、維持するために、より広範囲な技術を採用する必要が出てくるはずだ」
そうした徹底的な変革が自身のIT部門にも訪れることを、全ての人が確信しているわけではない。
「われわれはまだBYOD(私物端末の業務利用)への対応に追われているところだ。だから、まだ恐らくIT部門が丸ごと一気に変わるようなことにはならないだろう」と、あるエネルギー会社のシステム管理者は語る。
ソーシャルとモバイル、クラウド関連の役割が加わることで、IT部門は「単にシステムの立ち上げと稼働の責任を担う存在」から、「何かの実現を可能にするための仲介者的な存在」に変わることになる。そう指摘するのは、情報管理の専門家のための非営利団体AIIM Internationalの代表を務めるジョン・マンチーニ氏だ。
同氏によれば、これは「決まったルートで乗客を運ぶ鉄道会社」と「どこへでも言われた場所まで乗客を運ぶタクシー会社」との違いだという。運転するのは今まで通りIT部門だが、タクシーの運転と列車の運転とでは、必要なスキルが異なる。
「そうした新しいスキルはもしかすると、IT部門にもっとコンサルタント的な役割を担わせることになるかもしれない」と、英人材派遣サイトreed.co.ukの技術ディレクター、マーク・リドリー氏は指摘する。
「人々はしばしば、IT部門から提供されるシステムをものともせずに仕事をこなしている。われわれはもっと分析を行えるのだろうか? 作業に忙殺されるのではなく、もっと従業員との関係を円滑にすることで、従業員の希望に添うようにはできないだろうか? 組織におけるIT部門の役割を今後どのようにすべきかについて、考えずにはいられない」と同氏は語る。
米ソフトウェアベンダーZohoのラジ・サブロック氏は、「職務や焦点は変わるかもしれないが、IT部門の構造は恐らく変わらない」と考えている。
「アプリケーション管理者は今後も存在するはずだ。ただし、ソフトウェアのパッチ管理やアップデートではなく、アクセスや権限や役割を管理する責任を担うことになるだろう。SaaSを含むクラウドへの移行に伴い、組織でアプリケーションを配布したりサポートしたりする方法も違ってくるからだ」と同氏は語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
市場調査・トレンド
[パロアルトネットワークス株式会社] 現代の働き方に潜むセキュリティ課題とは? 解消に導く2つの注目技術を解説 -
製品資料
[パロアルトネットワークス株式会社] 生成AIのセキュリティリスクにどう対処する? 経営層が知るべきポイント -
製品資料
[パロアルトネットワークス株式会社] AIで真の包括的セキュリティを実現、ハイブリッドワーク時代に選ぶべきSASEとは -
市場調査・トレンド
[パロアルトネットワークス株式会社] 最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策 -
製品資料
[クラウドストライク合同会社] AIシステムのセキュリティを確保するためのプレイブック
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
2
PHPはそもそも必要か? 脆弱性で問われる自社サイト安全性と保守負担のバランス
-
3
なぜMicrosoftは「Rust」を標準言語に? AIで進むC/C++書き換えの課題
-
4
「Copilot」がIT予算を食いつぶす? 高額請求を招く課金体系と節約術
-
5
「顧客の声」は負担ではなく資産 サーモスのコンタクトセンターに見る未来の姿
-
6
PHP2Shellの「事前の情報流出」でパニックに パッチ公開を巡る“混乱劇”
-
7
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
8
なぜ「Claude Code」拡張は消しても危ないのか? Cursorで不正版配信
-
9
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
10
シャトレーゼを悩ませる偽メール 混乱なしでBIMI導入とDMARC強化を実現した方法
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
3
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
4
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
5
SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド
-
6
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
7
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
-
8
有識者が語る、中堅中小企業に求められる最新のサイバーセキュリティ対策とは
-
9
なぜAIは組織で定着しないのか? 全社展開を阻む「3つの壁」と突破のヒント
-
10
侵入から横展開まで27秒の脅威にどう立ち向かう? 防御のカギがEDRの理由
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー