数億ドルの損害が米国で発生
史上最悪の情報流出事件を引き起こした5人の実像
米史上最大規模となる情報流出事件で、ロシアとウクライナの男5人が訴追された。それは1年以上に及ぶ執拗な攻撃だった。5人の実像とは――。
大手企業のネットワークに侵入して情報を流出させ、何百万件ものクレジットカード番号を盗んで数億ドルの損害を生じさせたとして、米ニュージャージー州で男5人が連邦当局に訴追された。
これは米国で摘発された中では過去最大規模の情報流出事件。容疑者訴追に至った捜査はシークレットサービスが主導した。
訴追されたのはロシア国籍とウクライナ国籍の男5人で、決済サービスの提供企業、決済情報の受け渡しを担う小売業者、その他利益につながる情報を持った機関を狙ったとされる。具体的にはNASDAQ、7-Eleven、Carrefour、JCP、Hannaford、Heartland、Wet Seal、Commidea、Dexia、JetBlue、Dow Jones、Euronet、Visa、Jordon、Global Payment、Diners Club Singapore、Ingenicardなどが被害に遭った。
「われわれのコンピュータネットワークに侵入するノウハウと意図を持つ者たちは、われわれの経済の健全性やプライバシー、国家の安全を脅かす。今回の事件で実質的なコストが発生していることが示された。この種の詐欺のおかげで、全ての米国のコンシューマー向けビジネスのコストは日々上昇している」。ポール・J・フィッシュマン連邦検察官はそう指摘する。
容疑者5人は、広範に及ぶ消費者や組織に数億ドルの損害を生じさせた世界的ハッキング共謀事件にかかわった罪に問われている。
攻撃
米連邦検察局の発表によると、5人は「ハッキングを通じて1億6000万件を超すクレジットカード番号を不正に入手した」とされる。
攻撃の始まりは多くの場合、SQLインジェクション攻撃を通じた不正アクセスの確立だった。SQL(Structured Query Language)は特定の種類のデータベースに格納されたデータを操作するためのプログラミング言語。容疑者であるハッカーたちは脆弱性を見つけて悪用し、コンピュータネットワークに侵入していた。
ネットワークに侵入すると、システムにマルウェアを植え付けて、そのネットワークにアクセスするための「バックドア」を作成する。中にはセキュリティ対策によってアクセスが断たれても、執拗な攻撃を仕掛けて再度アクセスを確立していたケースもあった。
インスタントメッセージからは、容疑者たちが標的とする企業を何カ月にもわたって執拗に狙い続け、セキュリティ対策をかわそうとする攻撃を辛抱強く続けていたことが分かった。数社のサーバには1年以上にもわたってマルウェアを忍び込ませ、そのネットワークから長期間にわたってデータを見つけ、収集して盗み出す「スニファ」をインストールしていたことも判明した。
容疑者の実像
米ニュージャージー州ニューアークの連邦裁判所などで公表された罪状によると、訴追された5人は今回の犯行の中でそれぞれ特定の役割を担っていた。ロシアのウラジミール・ドリンクマン容疑者(32、モスクワ/スイクトイフカル出身)とアレクサンドル・カリニン容疑者(26、サンクトペテルブルク出身)はそれぞれネットワークセキュリティをかわして被害企業のシステムへのアクセスを確立する専門だった。ローマン・コトフ容疑者(32、モスクワ出身)もハッカーで、ドリンクマンとカリニン両容疑者が侵入したネットワークを掘り起こして貴重なデータを盗むことを専門としていた。
この3人が自分たちの行動を隠すために使っていた匿名のWebホスティングサービスは、ウクライナのミハイル・リティコフ容疑者(26、オデッサ出身)が提供。ディミトリ・スミリアネッツ容疑者(29、モスクワ出身)は、共謀者たちが盗み出した情報を売りさばき、利益を分配した罪に問われている。
カリニン、ドリンクマンの両容疑者は、2009年に米マイアミのアルベルト・ゴンザレス受刑者(32)が5件の企業情報流出に関連して起訴された事件でも、「ハッカー1」「ハッカー2」として罪に問われていた。この事件ではクレジットカード会社のHeartland Payment Systemsなどが被害に遭い、当時では過去最大規模の情報流出事件だった。ゴンザレス受刑者は禁錮20年を言い渡され、連邦刑務所に服役している。
米ニューヨーク州南部地区連邦検察局は、カリニン容疑者についてさらに2件の罪状を発表している。このうち1件ではNASDAQのサーバに対するハッキングの罪に問われ、もう1件ではカリニン容疑者とロシアのハッカー、ニコライ・ナセンコフ容疑者が、米国の金融機関のハッキングによって銀行口座情報を盗み出す国際犯罪にかかわったとされる。リティコフ容疑者は別の事件に関して過去に米バージニア州東部地区で訴追されている。コトフ、スミリアネッツの両容疑者には米国での前科はない。
ドリンクマン、スミリアネッツの両容疑者は米国の請求により、渡航先のオランダで2012年6月28日に逮捕された。スミリアネッツ容疑者は同年9月7日に米国に移送され、米連邦裁判所に拘置されている。優先起訴手続きのためニュージャージー州の連邦裁判所に出廷する予定だが、期日は未定。ドリンクマン容疑者は米国への移送に関する審理を待つ間、オランダで勾留されている。カリニン、コトフ、リティコフの3容疑者は現在逃亡中。ウクライナ国籍のリティコフ容疑者以外は、全員がロシア国籍を持つ。
法定刑
裁判で有罪を言い渡されるまでは全員が推定無罪であり、現時点での罪状は検察側の主張にすぎない。だが、有罪になればかなりの長期刑を言い渡される可能性がある。
コンピュータ不正アクセスの共謀罪は、法定刑が5年以下の禁錮と25万ドル以下またはその犯行による損益の2倍の罰金と定められている。有線通信不正行為の共謀罪は30年以下の禁錮と100万ドル以下またはその犯行による損益の2倍の罰金、コンピュータ不正アクセス罪は5年以下の禁錮と25万ドル以下またはその犯行による損益の2倍の罰金、有線通信不正行為は30年以下の禁錮と100万ドル以下またはその犯行による損益の2倍の罰金がそれぞれ科せられる。
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