“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理【第5回】
クラウドソーシングで“盗作騒動”に巻き込まれない方法
安価かつ手軽な外注手段として存在感が増すクラウドソーシングだが、著作権侵害といったトラブルも相次いでいる。企業がクラウドソーシングと賢く付き合うにはどうすればよいのか。
企業がインターネットを通じて、不特定多数の個人に仕事を発注する「クラウドソーシング」。新しい外注の形態として普及し始めたこのクラウドソーシングで、著作権の侵害や著作物の不正利用といった問題が顕在化しています。正式取引に至る前の成果物を企業が無断で利用したり、他の人が作った作品を自分の作品として提供するといったトラブルが相次いでいるのです。
クラウドソーシングを利用する企業が注意すべきこととは何か。具体的な対策とは。トラブルの実例とともに解説します。
連載:“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理
「パクリ」が横行するクラウドソーシング
クライアントに提案してボツになったはずのデザインが、無許可で利用されている――。2014年8月に明るみに出たこの事案は、ソーシャルメディアなどで拡散し、大きな話題となりました。
クラウドソーシングでは、デザイナーやエンジニアなど、さまざまなスキルを持つ個人や団体がワーカーとして登録しており、企業などのクライアントは一定の手続きを経て、ワーカーへ仕事を依頼します。
コンペ方式を取るクラウドソーシングでデザインを受発注する場合、クライアントが希望のデザインと金額を提示すると、登録しているワーカーが複数のデザイン案を提案します。クライアントは、提案された案の中から1つを選択。その案を作成したワーカーに修正依頼などをしてデザインを完成させてもらい、費用を払ってそのデザインの使用権を得ます。
上述した事案では、あるワーカーがクライアントにWebサイトのデザインを提案。両者のやりとりを経て、結果的に正式な取引には至りませんでした。しかし、そのクライアントは、ワーカーから提案されていたWebサイトのデザインを、ワーカーの許可無く勝手に採用してWebサイトを作成し、公開してしまったのです。
クラウドソーシングでは、ワーカーとクライアント間の仕事の受発注がキャンセルになり、取引に至らないケースも少なからずあります。デザインの受発注の場合、取引に至るかどうかにかかわらず、提案過程ではデザイン案のやりとりが発生することになります。今回の事案では、こうした仕組みが悪用されてしまったのです。
トラブルが発生するのは、クライアントとワーカー間だけではありません。最近では、あるワーカーが他のワーカーの案を少しだけひねり、あたかも自分の案であるかのようにクライアントに提案していたことがインターネットで話題になり、問題視されました。
クラウドソーシングを提供する企業は世界で200社にも上り、業界推計では2016~2018年には世界市場が1兆円規模になるともいわれています。複数の提案を見てから決めることができる、価格が抑えられるなど、クラウドソーシングが企業にもたらす利点は少なくありません。健全な成長のためにも、著作権侵害や不正利用といった落とし穴は無視できないのです。
“盗作ゼロ”に特効薬はなし
クライアントである企業がなすべき対策とは何でしょうか。まずは、ワーカーとの正式取引に至らない段階で提示されたデータや情報を無許可で利用することは絶対に防がなければいけません。クラウドソーシングの正しい利用方法を従業員に周知するといった対策が求められます。
難しいのは、正式な取引に至ったワーカーが盗作をしていたケースへの対処です。ワーカーから提案された案が盗作かどうかを企業単独で判断するのはほぼ不可能だといえます。クラウドソーシング事業者が盗難対策を進めるにしても、全ての案を目視で監視し、盗作かどうかを判断するのはコスト的にも時間的にも現実的ではありません。
特にデザインはたまたま似てしまうケースもあり、盗作を証明することが非常に困難だという問題もあります。ワーカー同士で「自分の作品がオリジナルだ」と言い合いになれば、それこそ収拾がつきません。有名な企業ロゴの盗作であれば明確ですが、必ずしも有名ではない作品の場合、どれがオリジナルかの判断は極めて難しいのが現状です。
盗作対策として現状で考えられるのは、ワーカーへの第三者評価をチェックすることです。クラウドソーシングサービスの中には、ワーカーの紹介ページに、以前にそのワーカーに案件を発注したクライアントが数字やコメントで評価した結果を掲載していることがあります。こうした評価内容は、信頼できる仕事相手となり得るのかどうかを判断する有効な材料となります。
とはいえ、第三者評価も主観的なものであり、そのワーカーが盗作をしないかどうかが完全に分かるわけではなく、根本的な対策とはいえません。クラウドソーシングを巡る著作権侵害や不正利用について、「これなら絶対大丈夫」という解決策は、現状では存在しないのです。
「画像認識技術」で盗作対策に光
確実な盗作対策を進めるには、やはり人の力だけでは限界があります。そこで有力な手段となるのが、システムによる自動チェックです。
ソーシャルメディアをはじめとするWebサービス事業者は、投稿内容を効率的に監視するためのシステムや仕組みを積極的に開発してきました。テキストの内容を基に閲覧の可否を制御する技術である「テキストフィルタリング」は広く利用されており、インターネットの健全化に大きく貢献しています。
ただし、上述のクラウドソーシングの事案で問題となったデザインの場合、盗作の監視にはテキストフィルタリングだけでは不十分です。デザインの多くは画像で構成されており、テキストが含まれることはまれだからです。加えてインターネットでは、日々、膨大な数の新しい画像データが公開されています。画像データをより効率的に監視できなければ、盗作問題への対処は難しくなります。
こうした課題の解消に役立ちそうなのが、似た画像や動画を自動的に検出する画像認識技術です。画像認識技術では、人が画像や動画を分類する過程をコンピュータで再現する「機械学習」などを活用し、効率的な画像認識を実現します。最近では、こうした画像認識技術を画像監視に応用し、監視作業の負荷を軽減しようという動きが出てきました。イー・ガーディアンが人工知能研究で実績のある東京大学大学院と共同研究した「画像フィルタリングシステム」がその一例です。既に児童ポルノなどの違法画像/動画の抽出に効果を発揮しており、クラウドソーシングの盗作対策にも役立つと考えています。
クラウドソーシング事業者の間でこうした技術の導入が進めば、クラウドソーシングをより安心して使えるようになるでしょう。企業がクラウドソーシングサービスを利用する際も、盗作監視技術の導入をはじめとする盗作対策の充実度が、サービス選定の重要な基準になることも考えられます。
荒池和史(あらいけ かずふみ) イー・ガーディアン株式会社
2006年にイー・ガーディアン入社。2007年から、大手ソーシャルメディアプラットフォームの監視オペレーションの責任者を務める。その後、イー・ガーディアンのオペレーション統括、同社子会社イーオペの取締役を経て、オペレーション構築で培ったノウハウをより効率的な「自動化」に落とし込むため、イー・ガーディアンが新設したIT事業部のディレクターに就任。東京大学との共同研究商品である「画像フィルタリング技術」などを手掛ける。
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