BI戦略成功のカギはユーザーの参加BIを全社活用するために

BIを普及させるには、ユーザーを細かく分類し、異なるユーザー層に対して異なるBIツールセットを提供する必要がある。

2009年07月09日 08時00分 公開
[Christina Torode,TechTarget]

 企業がBI(Business Intelligence)アプリケーションの開発、購入あるいはカスタマイズを開始するに当たっては、データを利用するユーザーの範囲を十分に把握しておくことが肝要だ。この点が欠落すると、BI戦略で重大な過ちを犯すことになり、その結果は普及が進まないという形ですぐに露呈するだろうと専門家は指摘する。

 こういった失敗を防ぐために、プロジェクトリーダーは最初の段階でユーザーを分類し、彼らのニーズを把握した上で、BIアプリケーションのライフサイクルを通じて利用の促進とユーザー教育に継続的に取り組む必要がある。米市場調査会社Forrester Researchのアナリスト、ボリス・エベルソン氏によると、BI戦略の策定に際して、この重要なステップを見落とす企業が多いという。「BIアプリケーションの購入は、BI戦略策定における最初の10のステップにも入らない」と同氏は強調する。

 「わたしは毎年、多数のBI関連RFP(提案依頼書)を目にするが、その中身はと言えば、技術要件と運用要件に関することばかりで、ユーザーのタイプに関する項目は1行くらいしかない」とエベルソン氏は語る。

 CIOはビジネスユーザーを分類・定義する必要があり、個々のユーザー、グループ、部門を“ユーザー要件”という項目でひとくくりにすることはできないことを認識すべきだ。「第一線で働くインフォメーションワーカー、大量のデータと複雑なチャートを必要とする戦略的意思決定者、ビジネスのさまざまな側面に目を配る業務担当意思決定者──これらの人々に適したデータモデルはそれぞれ異なる。異なるユーザー層に対して異なるBIツールセットが必要だ」と同氏は話す。

 米保険会社Brotherhood Mutual InsuranceでBI責任者を務めるロブ・フォスノー氏によると、ツールを選択した後でよくある間違いは、見たいデータの種類やBIアプリケーションで作成する必要のあるリポートについて記述する(あるいは口頭で説明する)ようユーザーに求めることだという。文章あるいは口頭での説明では、具体的な指針やフォーマットが開発チームに伝わらないことが多く、後になってグラフやリポートフォーマットを見たユーザーが「こういうものを求めていたのではない」と言う可能性があるのだ。

 ユーザーが新しい機能やリポートを要望してきたときには、BIチームはBIツールのフォーマットで要望を記載するようユーザーに求める必要がある。

 Brotherhood Mutualの場合、保険金請求処理部門用の新しいダッシュボードの運用を開始するまでに、ユーザーの要望を把握するのに2カ月の調査期間が必要だったという。最初の会合ではグループのニーズについて議論し、各メンバー(業務担当副社長および給与、資産管理、保険金請求処理を担当する3人のマネジャー)に、1枚の紙にそれぞれのニーズをグラフで示したもの(文章による説明は不可)を次回の会合で提出するよう求めた。

 「ユーザーがグラフ形式で考えるように仕向ける必要がある。文章や口頭でのやりとりは、ダッシュボード開発プロセスとかみ合わないからだ。あらゆる要件をグラフで表現することでニーズが明確化される」とフォスノー氏は話す。例えば業務担当副社長は、ダッシュボードを表す3つの基本グラフを描いてきた。それぞれのグラフは、彼がリポート(トレンドラインなどのパラメータを含む)を必要とする個々の業務部門に細分化されていた。

 こういった会合は、パワーユーザーを特定するのにも役立つことが多い。「パワーユーザーとは、自分のグループでBIの利用を促進する、アプリケーション開発チームとの連絡役を果たす、ほかのユーザーをトレーニングするといった役割を担うユーザーであり、彼らの存在はIT部門の負担を軽減してくれる」と同氏は説明する。

 フォスノー氏はBIトレーニングプロセスの一環として、BIチームが毎週火曜日に「ドアを開放する」という方針を採用した。その日は同社の250人の従業員の誰でもが、ノートPCを持ち込み、特定のアイデアに基づいたリポートやダッシュボードを作成する方法を学ぶことができるのだ。パワーユーザーがこれらのセッションに参加することも多い。また、ITスタッフと各グループのパワーユーザーの間で頻繁に行われるブレインストーミングでは、それまで思い付かなかったような便利なリポートフォーマットが生まれることもよくあるという。

 例えば、同社が顧客サービスダッシュボードの開発に着手したとき、顧客サービススタッフの成績を把握するデータが不足していることが明らかになった。BIチームが問題解決までの問い合わせ回数を示した1年分のデータを検討したところ、明確な傾向が見られないことが分かったため、マネジャーと顧客サービス担当者を交えたトレーニングデーを開催した。そして、その日の担当者の成績を今後のトレンドラインの起点とした。

 「トレンドラインは成績が上下した個所を示し、そこから特定の請求処理にまでたどることができるので、マネジャーは特定の処理に関してコールセンターのスタッフのトレーニングを行うことができる」とフォスノー氏は語る。

BIアプリケーションの価値を高めるユーザーフィードバック

 ユーザーからのフィードバックは、ユーザーニーズの変化に応じてBI戦略を修正・改良するのに役立つ。業務部門からのフィードバックも、ITスタッフにとって便利なトレーニング教材だ。自動車販売業者を対象とした金融サービスプロバイダーである米Dealer Servicesでは、全従業員が同じ企業の業績情報を見ることができる。同社のクリス・ブレーディCIOによると、情報を特定の部署に閉じ込めてしまうと、従業員が効率的・効果的に顧客サービスを行うことができなくなるからだという。「顧客との関係を改善して売り上げを拡大するのが、BIの重要な目的ではないのだろうか」とブレーディ氏は指摘する。

 またブレーディ氏は、BI戦略の策定と新しいツールの評価の際にフィードバックを求めただけでなく、60カ所の支店の450人の従業員全員からBIに関するフィードバックを常に求めている。これまでのBI関連の取り組みとしては、売掛金と延滞ローンを追跡する指標ダッシュボードや関連リポート生成ダッシュボードの開発などがあり、これらはGoogle風のインタフェースで表示される。

 「わたしは、職務や地位に関係なくあらゆるユーザーから直接、電子メールを受け取るようにしている。従業員の苦労を直接聞きたいからだ。マネジャーが間に介在すると、彼らが提案を取捨選択したり、ばからしいと思った質問を握りつぶしてしまう恐れがあるからだ」とブレーディ氏は語る。さらに同氏は、電子メールを通じた従業員からのフィードバックをITチーム(特にアプリケーション開発チーム)のスタッフにも伝えている。ITチームも毎週1回、各部門の責任者と会合を開いているという。

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