システム運用管理の業務には、さまざまなリスクが潜んでいる。その中でも特にやっかいなのが、「ヒューマンエラー」だ。これを防ぐためには、どのような取り組みが効果的なのだろうか。
本連載のこれまでの内容を簡単におさらいすると、「システム運用管理とはサービス業である」という考え方を基に、日々の運用管理業務の可視化・平準化を行い、お客様とのヒアリングによってSLAを導入してきました。「ここまで来れば完ぺき!」と言いたいところですが……。
システム運用管理に少しでも携わったことがある方なら容易に想像が付くと思いますが、運用管理業務には常に「リスク」が付いて回ります。どんなに理想的な運用メニューを構築したとしても、システム自体にも、運用管理にかかわるさまざまなプロセスの中にも、リスクは潜んでいます。
そもそも、「リスク」って何でしょう? よく耳にする言葉なので何となくイメージはつかめるかと思いますが、ここであらためて説明すると、リスクとは「損害を受ける可能性」のことです。また、リスクを「脆弱性×脅威×影響範囲」という定義によって評価し、その対策を検討し実施することを「リスクマネジメント」といいます。こういった説明を聞くと何となく小難しく感じるかもしれませんが、言うならば損害が発生する可能性が「リスク」で、損害が発生しないようにすることが「リスクマネジメント」です。今回は、リスクマネジメントの観点からシステム運用管理を考えてみたいと思います。
では、本連載の第1回から使っているラーメン店の例で今回も説明してみたいと思います。ラーメン店では、一体どのようなリスクが存在するのでしょうか?
店内には、損害を引き起こす可能性のあるものが幾つも存在します。調理器具はもちろんのこと、火や水もリスクになり得ます。店の立地条件にもリスクは潜んでいるかもしれません。そして、そこで働く人。この「人」がリスクを生み出す場合があります。
例えば、ラーメン店にとってスープは店の味を決める大切なものです。毎晩、次の日に使うスープを大鍋で一生懸命に作っていたりするのでしょう。もし、そのスープを煮込んでいるときに居眠りをしてしまい、大事なスープを全滅させてしまったとしたら? 店の命ともいえるスープがなければ翌日の営業ができず、店は大きな損害を被ります。
しかし、起こってしまったことはもう取り返しが付きません。まずは、もう二度とこのような事故が起きないように対策を練らないといけません。どのような再発防止策を講じればいいのでしょうか?
この場合、原因が居眠りだとはっきりしていますので、居眠りをした調理人に「居眠りをするな!」と厳重注意することで問題は解決するという判断もあるかと思います。しかし、毎日朝早くから仕込みを始め、夜中まで次の日の準備をするような生活であったならば、いくら厳重注意をしたところできっとまた再発するのではないでしょうか。もしわたしが同じような状況下に置かれたら、店の損害に対しては「申し訳なかった」と思うものの、「でも、こんな過酷な労働環境ではしょうがないじゃないか」という気持ちが先に立ってしまい、素直には反省できないような気がします。
人的ミスというものは、そのミスを犯した人間を責めるだけでは解決になりません。表面に現れたミスという現象の背後にある、真の問題を解決する必要があります。ここで挙げたラーメン店の例でも、調理人の勤務体制の見直しなど、根本原因の解決を図らなければ再発防止策にはならないでしょう。
最近「ヒューマンエラー」という表現をよく耳にします。これは分かりやすく言えば「人為的なミス」のことであり、近年発生した大きな事故の多くも、このヒューマンエラーが原因であることが少なくないといわれています。そしてその対策は、多くの企業にとって非常に重要で難しい課題となっています。
わたしもシステム運用管理におけるリスクマネジメントについて考えるとき、このヒューマンエラーの対策を最も重視します。リスクを軽減していくためには、ヒューマンエラーは絶対無視するわけにはいきません。
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