受発注システム選びの勘所【第1回】
流通BMSの先行事例から見えてきた受発注システムの課題
流通業界の受発注システムに大きな影響を及ぼした流通BMS。連載の第1回では、流通BMSの先行導入から見えてきた現状の課題点を整理する。
新しい受発注システムが必要とされる背景
昨今、さまざまなメディアで取り上げられているように、流通業界では賞味期限切れや産地偽装などの不祥事をいかに防止するか、その対応の重要性が叫ばれている。一方で業界内の競争も激化し、M&Aなども加速されつつある。消費者の信頼を維持し、良い商品を市場に投入し続けるには、トレーサビリティによる食の安心・安全を確保しつつ、伝票レスなどの業務効率化や、単品管理やカテゴリーマネジメントなどのオペレーションの高度化を実現する必要があるが、残念ながらまだ十分でないのが実情である。
流通業界では既に多くの業務改革が行われてきたが、実は大きなとりでが残っていた。それが企業間取引のベースとなる「受発注システム」である。受発注システムが古いままでは正しい産地や原材料の情報伝達が滞ってしまい、結果として企業間の高度な情報連携ができずに業務全体の効率化や最適化にも限界をもたらし、ビジネスの足かせとなっていたのである。しかし、その受発注システムに関連して流通業界の標準化に大きな動きがあった。
これまでの流通業の企業間取引は、1980年に制定された「JCA手順」と呼ばれるEDI(Electronic Data Interchange)をベースにした受発注システムが主流を占めており、電話やFAX、紙の伝票処理もまだまだ多く残っている。その後、2000年前後からインターネットを利用したWeb EDIが一部で導入されたが、各社各様の独自対応が乱立してしまい、導入後の運用やメンテナンス工数の増加を招いてしまった。その結果、流通業界ではデータフォーマットが各社独自仕様であるだけでなく、取引手順も統一されていない上にデータ伝送スピードも遅いという、高度な情報連携を実現するには程遠い状態であった。
全国的なインターネット回線網の整備と合わせて、専用モデムの製造中止によってJCA手順がなくなることが明示的になったことを契機に、本格的に流通システムの標準化を求める声が高まり、2006年に「流通BMS ver1.0」が制定された。その後順調に普及が広まり、現在は導入企業数が1000社を超えようとしている。そして2010年は「流通BMS ver1.3」の登場によって、流通BMSが本格的に普及していく年と筆者はみている。
このように、標準化とインフラの両面がそろうことで、流通業界の企業間取引はこれまでの各社各様の独自仕様と取引手順にバッチ処理を組み合わせていた仕組みから、流通BMSを基にした各社共通の仕様と手順をリアルタイムに連携する仕組みに進化させることが可能になった。受発注システムはこれまでのお荷物的な存在から、SCM(Supply Chain Management)を構築し業務効率を向上するために各企業の情報システムには欠かせない存在になったといえる。
先行事例に見る流通BMS導入の課題
しかし、流通BMSが黎明(れいめい)期から本格普及期に入るに当たり、先行事例から現実的な課題も見えてきた。これから流通BMSを導入しようと考えている企業の担当者にこれら先行事例の課題に学んでいただきたいのはもちろんだが、「取りあえず流通BMSを導入したものの、取引先の増加に伴い拡張を検討している」という企業の担当者にも、ぜひ参考にしていただきたい。
流通BMSを導入する際に陥りやすい“落とし穴”
小売業・卸売業・メーカーの各現場で、流通BMSを導入する過程、もしくは導入後に以下のような課題が表面化してきた。
- 既存EDIプロトコルと同じ要領で流通BMSを導入すると、導入効果が限定されてしまう
- 接続先が増えることを見越してシステム拡張性を考慮しておかなければ、トータルコストが増加してしまう
- システム担当者のスキルが不足していると、ユーザー企業ではなくSIerにとって都合のよいシステムができてしまう
流通BMSの仕組みを正しく理解し、現状の自社システムへの適応をあらかじめ十分に考慮していれば、いずれの課題も事前に防ぐことができただろう。しかし、流通業の現場では情報システム部門として必要な要員が確保されているケースはまれであり、仮に人員が足りていたとしてもスキルアップを図る機会が限られている場合も多い。そのため、約30年ぶりに改められるEDIの仕組み(流通BMS)を自社システムに最適な形で取り入れることは、既存業務と兼務で対応しなければならないシステム担当者には非常に難しい。
1.既存EDIプロトコルと同じ要領で流通BMSを導入してしまうと、導入効果が限定されてしまう
流通BMSを導入することで最初に得られる効果は、伝送速度の向上である。特にバッチ処理で30分程度かかっていた取引先との通信処理であれば、たとえXML化によりデータ量が増加したとしても、インターネット回線を利用することで1分程度に短縮することが可能だ。
次に得られる効果としては、メッセージスキーマが統一されることである。特に、卸売業やメーカーにしてみれば、これまで各社各様で用意する必要があった連携のためのフォーマット(中堅企業で200~300種類)を1種類にできるため、基幹システムとの連携が容易になるだけでなく、メンテナンス工数が激減する。
流通BMSの導入に際して、これまで同様に各社ごとに個別仕様の連携を設ける要領で開発を行ったり、基幹システムとの連携でバッチ処理を残さざるを得ないアーキテクチャでシステムを構築してしまうと、こうした流通BMSの効果を引き出せないのだ。
2.接続先が増えることを見越してシステム拡張性を考慮しておかなければ、トータルコストが増加してしまう
流通BMSの特徴を理解したシステムを構築していれば、接続先が増えてもそれに合わせてシステムを追加改修するコストを増やさずに対応できる。しかし、コストを重視するあまり、最初は1社だけの接続を満たす簡単な仕組みを導入した場合、5~10社と接続先が増えることで、コストが5~10倍になるケースが見られる。
流通BMSはインターネット回線を利用するものであり、接続時間や接続先数に依存しないインフラをベースとしている。これにより、JCA手順に比べて接続先を増やすのも減らすのも容易な仕組みとなっている。そのため、流通BMSを導入する企業では、あらかじめ接続先が数社と限定されているような場合を除き、拡張性のあるアーキテクチャを基にしたシステムを用意しておく必要がある。
また、流通BMSは各社一様のフォーマットを利用できるため、受発注システムと連携する基幹システムに関しても取引先追加に伴う対応が容易となる。その結果としてシステム部門の作業を削減できるということを理解した上で、自社のシステムや運用に合わせた拡張性のある流通BMSの連携方法を考えておく必要がある。
3.システム担当者のスキルが不足していると、導入企業ではなくSIerにとって都合のよいシステムができてしまう
流通BMSはインターネットの世界では一般的な要素技術である証明書によるセキュリティの確保や、SOAP、XMLの知識をベースにした仕組みであり、これまでのJCA手順を基にしたEDIの知識(モデム、ATコマンド、CSVフォーマットなど)だけでは対応できない。
情報システム部門の中に、会計や在庫、受発注の各システムに専任の担当者がいるような組織であれば、人員のスキルアップを図りながら流通BMSへの取り組み行うことが可能だが、総務を兼ねた数名のシステム担当者が10年以上前のシステムのメンテナンス作業をほそぼそと続けている現場が多いのが実態である。
このような場合、流通BMSの仕組みを理解することもなく、単に1種類増えたEDIの対応作業として、これまで取引のあるSIerに自社の流通BMS導入のすべてをお願いすることになってしまう。受発注システムに限らずSIerのビジネスモデルは「工数売り」の場合が多く、ユーザー企業が正しく指示をしなければ、SIerの都合がよいように、自分たちの作業が今後とも続くような仕組みを前提に作りこんでしまっているケースを見掛けることがある。
流通BMSに関しても同様である。JCA手順を基にしたこれまでのEDIの問題として、取引先が増えることによるシステム改修作業が都度発生してしまっていた。この原因は先に述べたように各社ごとに違う仕組みだったからである。流通BMSは各社一様のため、どんな企業との接続を追加したとしても、接続設定をするだけで完了でき、専属のシステム要員を手配できないような企業でも十分に対応可能である。しかし、その点を理解した上でユーザー企業が作業を依頼しなければ、SIerはこれまで同様に接続先の追加に応じて作業依頼が来るような仕組みを作り込んでしまう恐れがある。
流通BMSのメリットを最大限生かすためのスキルアップを
流通BMSを導入する際、仮にシステム要員のスキルが不足しているとすれば、この機会に流通BMSの仕様を正しく理解できるためのスキルを身に付ける程度までスキルアップを図ることをお勧めする。しかし、さまざまな事情からそれが難しい場合には、流通BMSに精通したSIerやコンサルタントを検討段階からメンバーとして加え、スキルアップを図りながら自社にとって最適なシステムを一緒に作り上げていくべきである。
本来は流通BMSを導入することで、受発注システムにおける既存EDIの問題と決別することが可能である。にもかかわらず、先行事例が示すように流通BMSに対する正しい理解が不足していたり、場当たり的な対応をしてしまうために、既存の課題を解決するどころか、さらに新しい課題を増やしてしまっている。
先行事例から成功の近道を学び、受発注システムに流通BMSの特徴を生かす企業と、生かし切れていない企業、もしくは間違った方法のままで利用する企業では、受発注システムの先にあるSCMの構築と利用において大きな差が出てしまうだけでなく、将来的には事業としての存続が危ぶまれる状況に追い込まれてしまう可能性もある。
次回は受発注システム構築の選択肢とシステム選定する際の留意点について解説する。
(※)「流通BMS」は、財団法人流通システム開発センターの登録商標です。
<筆者紹介>
土田浩之
ウルシステムズ株式会社 ソリューション事業部 事業部長
10年以上メーカーにおいてさまざまな業種のシステム開発にかかわる。特に大規模なシステム開発の経験を生かし、ビジネスが求めるシステムと実際に開発されるシステムとのギャップを埋めるべくコンサルティング業に従事。現在は流通業にフォーカスした製品開発とクラウド環境でのソリューションを展開中。
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