医療分野におけるクラウドサービスが市場に多く登場している。中でも、医用画像の外部保管サービスは、医療機関のストレージ運用の課題の解決策として注目されている。そのメリット/デメリットを考察する。
厚生労働省が2010年2月に通知した「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」を受け、ガイドラインの順守を前提として民間のデータセンター事業者による医療情報の外部保存が可能になった。これを受け、同年、医療分野におけるクラウドサービス(医療クラウド)の提供が開始された。また医療クラウドは、2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに事業継続性の面からも注目されている。
調査会社シード・プランニングが2011年2月に発表した医療クラウドの市場調査によると、2010年の市場規模は19億3000万円だが、2020年にはその100倍に当たる1928億円まで成長すると予測されている(関連記事:なぜ、医療クラウド市場は急速に拡大しているのか?)。中でも「クラウド型電子カルテ」「クラウド型医用画像管理サービス」「データ分析サービス」など分野の規模が拡大するという。特に2011年から2012年にかけて医用画像の外部保管サービスが多く提供されている。本稿では、医用画像の外部保管サービスの現状のメリット、デメリットを考察する。
「OECD Health data 2011」調査によると、人口100万人当たりのCT保有台数(2008年)は、OECD加盟国の平均が22.1台に対して、日本が93.2台で世界第1位だったという。また、日本はMRIの保有率も43.1台(OECD平均12.0台)で最も多かった。さらに近年、画像診断装置(モダリティ)の高性能化や3D画像・動画の活用が増えている。医用画像は最低3年間の保存義務があり、慢性疾患患者の増加などでさらに長期の保存が求められている。そのため、医療機関におけるストレージの増設コストや運用管理の負担が増える傾向にある。外部保管サービスを利用すると、「医用画像保管スペースの削減」「画像管理サーバやPACSなどの設備投資の削減」「システムの保守作業・管理負荷の削減」などのメリットがある。こうしたストレージの運用課題を解決策として、その利用を検討する医療機関も多くなっている。
また、医用画像データの外部保管は「複数の医療機関における情報共有」にも役立つ。モダリティの高性能化で患者の病状をより正確に判断できるようになったが、読影に関する専門化が進んだことで専門医制度が設けられた。そのため、外部の専門医に遠隔診断を依頼するニーズが増えている。各医療機関が院内に医用画像を保存している場合、外部の診断医にCD、DVDなどの可搬媒体でデータを送る必要があった。外部保存サービスでは、データを参照するシステムを介して遠隔読影が容易になる。
さらに、医用画像データはデータの追加がほとんどで、更新や削除などの処理がない。バックアップや事業継続/災害復旧の仕組みを構築しやすい点でも外部保存は適しているといえる。
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