iPadなどの汎用的な携帯端末を活用した「医療クラウド」実現の可能性はどれくらいあるのか? 「ITで医療は変わるのか?」討論会での活用事例から考えてみよう。
前回の「孫社長も驚いた「医療現場のiPad/iPhone活用」最前線」に続き、ソフトバンクが11月5日にUstreamで生中継した「ITで医療は変わるのか?」討論会で発表した、医療現場におけるiPad/iPhoneの活用事例を紹介する。今回は、看護師・薬剤師といった医師以外の医療従事者や患者による活用、在宅医療/緊急医療などでの取り組みだ。
孫 正義氏(ソフトバンク 代表取締役社長)
杉本真樹氏(神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座消化器内科分野 特命講師)
高尾洋之氏(東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 助教)
狭間研至氏(一般社団法人 在宅療養支援薬局研究会 理事長・ファルメディコ、ハザマ薬局 代表取締役社長)
姜 ●鎬氏(ケアネット メディア事業部長) ●=王へんに「基」
金井伸行氏(金井病院 理事長)
網木 学氏(済生会栗橋病院 外科 医長)
宮川一郎氏(習志野台整形外科内科院長)
遠矢純一郎氏(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 院長)
片山智栄氏(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 看護師)
急性期病院への平均入院期間が短くなり、高齢者や寝たきり患者における医療機関以外での長期療養が増えると予想される。呼吸器系の外科医であり、現在は薬局を経営している狭間研至氏は「今後ニーズが高まるであろう“在宅医療”においては、各専門職のセクションを超えた多職種連携・情報共有による“医療の全体最適化”が求められる」と説明する。
狭間氏は、在宅治療の治療方法の多くを“服薬”が占めることから、「薬剤師」の役割に着目し、医療3.0と同様に“薬局3.0”を提唱している。薬局3.0は、薬局・薬剤師を地域医療の重要な担い手としてとらえ、在宅訪問サービスなどを提供するという考えで、全国の5万3000件の薬局、13万5000人の薬剤師を地域医療のリソースとする取り組みでもある。既に高齢者を対象とした訪問サービスを実践する「次世代型『薬局3.0』を活用した高齢者居住安定化スキーム」が、2009年度国土交通省モデル事業として採択されている。
現在、ハザマ薬局の薬剤師は在宅訪問時に、患者が薬を正しく服用できているかを確認したり、体温や血圧の計測、聴診器による心音の診断などを行い、薬の提供と同時にその効果のアセスメントを実施している。しかし、2006年に薬学部の6年制課程が設置されて以後はそのカリキュラム内で聴診器の使用方法を学べるが、それ以前に卒業した薬剤師への教育が必要になったという。そこで狭間氏が開発したのが、iPadアプリ「基礎から学ぶバイタルサインHD」だった。このアプリは、薬剤師向けに行っているバイタルサインの講習会を基に、その基礎理論から実際の手法がまとめられている。
また、画面上の人体イラストからその部位の聴診音を聞くことができたり、実際に聴診器の音を録音できる機能も備えている。狭間氏は「もちろん医学書にもCDが付属している場合もある。しかし、医学書を現場で持ち歩くわけにはいかないので、携帯端末でできることが重要」と説明する。
さらに狭間氏は「医療現場では今後、“教育”と“業務支援”の2つのITのインフラが求められる」と説明する。業務支援ツールとして「改訂版長谷川式簡易知能評価スケール」を開発し、公開している。このツールには認知症判定に関する質問項目がまとめられており、その回答を入力した結果で簡易判定が可能だ。医療従事者だけでなく、認知症の疑いがある人を家族に持つ人や司法書士が成年後見人制度の判断に利用するなど、既に6000件以上のダウンロードがあるという。
狭間氏は、今後も引き続き、アプリ開発を進めるとしている。また、「こうしたツールを活用して、医師や看護師以外の医療従事者でもできることを分担することで、医師不足の解消や地域医療の改善に役立つのではないか」と説明する。ただ、薬剤師の役割拡大については「実際に社内の半数近くの退職者が出るなど、心理的な障壁はある」という課題も挙げていた。
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