企業システムの発想を刺激する、Googleクラウドの構成要素企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第13回】

各種サービスの集合体で成り立ち、他社クラウドサービスとは根本的に発想を異にするGoogleクラウドは、良質なサービスと高度なインフラを安価で提供する。本稿では、企業利用の視点でGoogleクラウドの構成要素を解説する。

2012年11月28日 08時00分 公開
[加藤 章,電通国際情報サービス]

 本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」ではさまざまなパブリッククラウドを、エンタープライズの業務システムで利用する観点で解説している。今回は「クラウド」というタームを最初に使い始めたといわれるGoogleを(再度)取り上げる。六本木の華やかなオフィスを訪問して取材をした内容をベースに、筆者の私見を交えながら解説を試みる。なお、Googleの成り立ちなどについては、過去の記事を参照していただきたい(過去の記事はこちら:「Google App Engine」の企業利用におけるさまざまな課題)。

 取材してあらためて分かった(確認できた)ことだが、Googleはこれまで紹介してきたクラウドサービスとは根本の発想が大きく異なっている。従って、今回の記事もこれまでのスタイルをかなぐり捨てて、全く違うアプローチで書き進めてみたい。

 さて、いきなり個人的な話で恐縮だが、筆者は次のようなWebアプリケーションのモックアップを作ったことがある。数年前、あるお客さまの業務に関して提案を検討した際に利用した。実際に提案するまでには至らなかったが、面白いという評価(?)はいただいた。稚拙なデザインなので本当はここで披露するのもお恥ずかしい限りなのだが、解説を進める上でよいサンプルになりそうなので、まずは画面イメージをご紹介する。

図1 サンプルWebアプリの画面イメージ

 業務としては、お客さまの依頼に応じて社内スタッフを訪問させるサービスを想定している。オフィス機器の保守をするフィールドエンジニアのディスパッチをイメージしていただけるとよいだろう。上記の例では候補となった2人のスタッフのどちらを訪問先(東京タワー付近)に送り込むべきかを検討している。検討に当たっては2人それぞれのスケジュールと移動ルート、移動の所要時間を見比べる。従来はアサイン担当者の勘と経験と記憶と紙情報に頼っていた業務がシステム化される、というもくろみである。

 図1に表示される「候補者のスケジュール」「移動経路」「所要時間」は、実はGoogleから引っ張ってきたものだ(ここでは担当者は日頃のスケジュールを全てGoogle Appsで管理することを前提としている)。「目的地」や「1つ前の予定の訪問先の位置情報」をテキスト入力すれば、移動経路や所要時間が再計算され、誰を派遣するのがベストなのかという判断がやりやすくなる。

 筆者自身は、プログラミングから完全に離れてしまっており経験が乏しい。それでも見よう見まねで数日間の夜なべ仕事で上記のようなモックアップができてしまい、部分的とはいえ画面が動くという点は自分でも興味深かった。通常の企業が自前でゼロからこのようなシステムを構築しようと考えたら、かなりのコストと深い知識、開発体制が必要なことは想像がつく。ところが、ややこしそうな部分(カレンダーと地図と経路計算)をGoogleのAPIで処理させることで開発が一気に平易になる。これがGoogleをエンタープライズで利用する典型的なパターンと言えそうだ。

Googleを構成するサービス群

 そういう意味ではGoogleを単なるIaaSPaaSSaaSと捉えたり、他のクラウドと比較することは適切ではないのだろう。Googleは、Google AppsというSaaSと、多数の良質なAPI、そしてそれらを補完するサービスから成る集合体なのだ。これらの個々の要素は「ややこしいことをあっさりとやってくれる」便利な部品と理解するとよいかもしれない。これらの部品が複雑な処理を行うに当たって膨大なコンピュータリソースを必要としたとしても、それらは見えないところ、つまり雲(クラウド)の中でGoogleが管理していて、ユーザーは何ら気にする必要はない。部品を使いこなして自分のビジネスに活用することだけに集中すればいいのだ。この考えを念頭に置いた上で、以降では、集合体の個々の要素(下記のリスト)について解説を加えることとしたい。

  • Google Apps
  • Google App Engine
  • Google Cloud SQL
  • Google Compute Engine
  • Google Cloud Storage
  • APIライブラリ
  • Google Maps
  • Google Translate API
  • Google BigQuery
  • Google Prediction API

Google Apps

 Google Appsを実際に使っておられる方も多いだろう。あらためて説明するのも気が引けるくらいだ。メール(Gmail)、スケジューラ、簡易ファイルサーバ、グループ管理機能などがGoogle上の(=Webの)アプリとして利用できる。特に個人については無料で使えるという点も見逃せない。許可を出し合った利用者同士、スケジュールを共有することも可能であり、小さな組織であれば、無料でも十分に役に立つ。法人向けの有償サービスもあり、1ユーザー当たり年間6000円で利用できる。

Google App Engine

 Google App Engine(以下、GAE)は、前述のGoogle Appsと名前を混同しやすいが、別物である。Google Apps自体は単純なSaaSであり、ロジックの組み込みなどは困難であるが、これを打破するのがGAEの主な役割だ。Webの開発プラットフォーム(PaaS)の形をしており、PythonやJavaの開発環境からGoogle上にデプロイができる。デプロイ後は、「Google上のWebアプリ」として可用性の高いインフラの上で動作する。WebアプリがGoogle AppsのAPIを呼び出すことでGoogle Appsのラッパーとすることも可能だし、Google Appsからアプリを呼び出す形で機能追加を実装することもできる。このとき、後述するAPIライブラリを上手に使うと、本稿の冒頭で例示したようなアプリを組み立てることが可能になる。

Google Cloud SQL

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

技術文書・技術解説 ドキュサイン・ジャパン株式会社

導入が進む一方で不安も、電子署名は「契約の証拠」になる?

契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VMware「永久ライセンス」を継続する“非公認”の方法

半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。

市場調査・トレンド 株式会社QTnet

業種別の利用状況から考察、日本企業に適したクラウドサービスの要件とは?

システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。

製品資料 発注ナビ株式会社

商談につながるリードをなぜ獲得できない? 調査で知るSaaSマーケの課題と対策

SaaSサービスが普及する一方、製品の多様化に伴い、さまざまな課題が発生している。特にベンダー側では、「商談につながるリードを獲得できない」という悩みを抱える企業が多いようだ。調査結果を基に、その実態と解決策を探る。

製品資料 株式会社ハイレゾ

GPUのスペック不足を解消、生成AIやLLMの開発を加速する注目の選択肢とは?

生成AIの活用が広がり、LLMやマルチモーダルAIの開発が進む中で、高性能なGPUの確保に問題を抱えている企業は少なくない。GPUのスペック不足を解消するためには、どうすればよいのか。有力な選択肢を紹介する。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。