企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第8回】
システム管理者に優しいIaaS「ニフティクラウド」
AWSと比較されることの多いニフティクラウド。本稿では、ニフティクラウドの価格や機能について、AWSとの比較を交えて紹介する。
本連載ではパブリッククラウドベンダーへの取材や、公開資料などの調査をベースに、さまざまなクラウドサービスの特徴と利用時のポイントについて解説を加えている。今回は、ニフティの「ニフティクラウド」を取り上げる。
これまでの連載
ニフティのパブリッククラウド
ニフティは1980年代後半のNIFTY-Serve(後NIFTY SERVEに改称)というコンシューマー向けのパソコン通信サービスに起源がある(筆者もそのころからのユーザーだ)。その後1990年代後半からインターネットサービスプロバイダー(ISP)へと業態シフトし、「@nifty(アット・ニフティ)」として知られるようになった。単純な接続事業者ではなく、ブログ環境(ココログ)の提供、エンターテインメントや生活情報の供給など、「サービスコンテンツプロバイダー」としての地位を確立してきた。
業態をシフトしていく中で、多様なインフラ管理技術が必要だったことは想像に難くない。サービスの迅速な追加や廃止、人気コンテンツへのピークアクセス対応やその後の縮退運転、開発環境の整備や廃止など、インフラ技術者にとっては悪夢のような日々があったことだろう。
この途上で培った技術を、クラウドサービスとして外販しているのがニフティクラウドである。パブリッククラウド型のサービスで、いわゆるIaaS(Infrastructure as a Service)に相当する。市場投入は2010年1月である。
ニフティクラウドの特徴
@niftyはニフティクラウドのユーザーだそうだ。オンラインショップのAmazon.comがAmazon Web Services(以下 AWS)のユーザーであるのと近しいものがある。ビジネスモデルが似ているせいか、ニフティクラウドのサービス内容はAWSによく似ている。以下に機能的な類似点を挙げてみよう(表1)。
表1 ニフティクラウドとAWSの機能面での類似点
| ニフティクラウドの機能 | AWS機能の略称 | |
|---|---|---|
| 1 | 仮想サーバ(インスタンス)の時間貸し(1時間単位) | EC2 |
| 2 | 仮想HDD機能 | EBS |
| 3 | インスタンスのイメージを保管し、再利用できるイメージ機能 | AMI |
| 4 | イメージ作成を経由せず、インスタンスのコピーを作成・起動する機能 | Launch Like This |
| 5 | 負荷状況に応じてインスタンスを自動で増減できる機能 | Auto Scaling |
| 6 | GUIで設定できるロードバランサー | ELB |
| 7 | ルールベースでインスタンスへの通信を制御できるファイアウォール機能 | Security Group |
| 8 | 容量無制限のクラウドストレージ | S3 |
| 9 | Web画面によるインスタンスの管理・制御 | Management Console |
| 10 | 基本的な監視とメールの自動送信 | CloudWatch |
| 11 | VPN経由での自社LAN環境の延伸 | VPC |
こうして見ると、ニフティクラウドがAWSを競合として意識しつつも、機能面でほぼ同等のものを実現しようとしていることがよく分かる。実際、AWS互換のAPIを採用しており、ユーザーはAWSを制御するために開発したプログラムを簡単なパラメータの改変だけでニフティクラウドに転用することも可能とされている。これを踏まえて、以後、本稿では、ニフティクラウドとAWSの差異に焦点を当てて解説していくこととする。
インスタンスは17種類
インスタンス(仮想サーバ)は、CPU性能で5段階、メモリサイズで8段階の差異があり、表2に示されるような17種類の「プラン」が提示されている。OSは下記に掲げる4種類が標準サービスとして利用可能(「スタンダードイメージ」から選ぶ)。さらにサードパーティーのイメージ(「パブリックイメージ」と呼ばれる)を利用すれば、CentOS 6.0以上が利用できる。
スタンダードイメージから選択できるOS概要(出典:ニフティより筆者編集)
- CentOS 5.3(32/64ビット)、CentOS 5.6(64ビット)
- Red Hat Enterprise Linux 5.3(32/64ビット)。ただしあらかじめRed Hatのサブスクリプションを購入しておく必要がある。
- Ubuntu 10.04(64ビット)
- Windows Server 2008 R2(64ビット)
(注1)本記事の公開寸前に対応OSの追加発表があり、CentOS 6.2や、SQL Server 2008(64ビット版)が使えるようになった。
AWSとの大きな違いは、インスタンスのスペックの見せ方だろう。仮想コアのスペックについて、AWSではECUという独自の単位を用いており(OpteronまたはXeonの1G~1.2GHzに相当)、これがインスタンスによって、1~3.25ECUと変化し、その数も増減する。メモリ容量も0.6G、3.75G、17.1Gと、見掛けが複雑だ。ニフティクラウドでは、Xeonの3GHzをデフォルトとして採用し(例外は、miniインスタンスに採用されている同1GHz)、表2のような構成となっている。メモリ容量のバリエーションもシンプルだ。スペックがリニアにイメージしやすい点は優れているといえる。
初期のHDDサイズも、30Gバイト(Windowsは40Gバイト)で統一している(AWSはインスタンスによって160G~1690Gバイトのバリエーションがある)。ニフティクラウドもAWSも、実運用上は増設HDD(※)の利用が必須であることが多く、この場合、初期のHDDはシステム領域としてしか使わない。このサイズを統一した割り切りは評価したい。
※ AWSではAmazon EBS(Elastic Block Store)。
割高感が惜しい
さて、気になる価格だが、ニフティクラウドの場合は、何かと割高に見えてしまう点が非常に惜しい。例えば、下記のような点は、AWSの考え方に慣れた方だと「おや?」と思われるかもしれない。
- STOP中のインスタンスにも課金される(インスタンスタイプに応じ、1時間当たり5.15~15.75円)。
- インスタンスのイメージを取得すると課金される(1回500円、維持費月額3000円)
- インスタンスのコピーを作ると課金される(1回500円)
- ファイアウォールの設定数が一定以上を超えると有償版に移行する必要がある(1インスタンス当たり1時間1円)
少し弁護をしておくと、イメージの維持費については、実はAWSでも発生している。AMI(表1の3)のサイズ相当分のAmazon S3(Simple Storage Service)(表1の8)の課金が目に見えないところでチャージされているはずだ。ニフティクラウドは(金額はともかくとして)、この部分の費用を可視化しているという点は評価されるべきだろう。
次に、無謀を承知でインスタンスの価格をAWSと比較してみよう。ニフティクラウドからは使い勝手がよさそうなmedium8とlarge16を取り上げてみる。対するAWSは(完全に一致はしないが)、standard-largeと、HighMemory double-extra-largeを挙げてみよう(いずれもLinuxで比較)。簡単なスペックを併記しつつ、オンデマンド型の利用料金と予約型の利用料金について、それぞれ月額費用を比較すると次のようになる。
(注2)AWSの費用は東京リージョンの利用を前提とした。また、円ドル換算レートは1ドル83円とした。以下、同様。
(注3)AWSの予約型料金は3パターンあるが、ここではフル稼働を前提に「重度利用リザーブド」という体系を選んだ。
何度も検算したので間違ってはいないはずだ。約3~4倍の差があるように感じる。
ついでながらストレージ系の費用も比較しておこう。まずは増設HDDだ(AWSではEBS)。なお、ニフティクラウドでは、性能に応じて2種類ある(高速でトランザクション処理向きのDisk200と、低速のDisk40)。性能面からEBSとDisk40を比較すべきと思われるが、それでも、約4倍の差がある(表4)。
表4
| 名前 | 最小値 | 最大値 | 100Mバイト利用料(円/月) | |
|---|---|---|---|---|
| ニフティ | Disk200 | 100 | 1000 | 1万 |
| ニフティ | Disk40 | 100 | 2000 | 4000 |
| AWS | EBS | 1 | 1000 | 996 |
次にクラウドストレージを比較しよう(AWSではS3)。ここでも差は4倍近い(表5)。
表5
| 名前 | 100Gバイト利用料(円/月) | |
|---|---|---|
| ニフティ | クラウドストレージ | 4000 |
| AWS | S3 | 1079 |
さて、ここで、急いで付け加えなければならない。「AWS互換なのにニフティクラウドが割高なら、結局AWSを使えばいいんでしょ」と思った方はちょっと待ってもらいたい。何しろニフティクラウドには1000社以上の導入実績があるのだ。最近では、大手企業が基幹系システムのインフラとして使う事例も公表されている。つまり、この価格差を吸収して余りあるメリットがあるのだ。価格差も「3~4倍」というと大きく感じるが、絶対的な金額で見れば「年額、数万~十数万円」の差「しか」ないともいえる。この金額で買えるモノがお買い得ならむしろ歓迎すべきである。では、その中身をつまびらかにしていこう。
ニフティクラウドの優位性
性能差
仮想コア当たりの計算速度やストレージI/Oの速度などであるが、既に複数の記事やブログなどでAWSとの比較が行われている。おおむねニフティクラウドが優勢という結果が出ているようだ。処理内容によっては利用するインスタンスのスペックを落とす(コストを下げる)ことが可能だ。
デフォルトでHAのインスタンス
個々のインスタンスは、標準でHA(High Availability)機能が確保されている。事前の申し込みや予備リソースの予約、追加の費用負担などは必要ない。インスタンス(仮想OS)を支える物理サーバに何らかの障害が発生した場合には、同インスタンスは自動的に別の物理サーバに引っ越しされる(約5分以内)。このとき、同インスタンスに付与されていたクローバルIPアドレスや増設HDDも引き継がれる。物理障害の監視や対策についてユーザーは大きな関心を払う必要がないといえる。この発想はAWSのEC2には全くないものだ。
クリアなSLA
前項とも関連するが、ニフティクラウドは、SLA(サービスレベル保証)として99.95%を掲げている。これは個々のインスタンスにおいて、ネットワークや増設HDDの状況などを含めたトータルでの「稼働率」を月単位で保証するのだそうだ。これを下回るとニフティ側がペナルティを負う(利用料の10%の返金)。なお、前項で触れた物理サーバ障害時の自動切り替えに要する時間(5分程度)は除外される。
この定義は、「SLA」という言葉に一般のユーザーが感じるイメージとほぼ合致しており、理解がしやすい。例えば、AWS EC2のSLAの定義も、同様に99.95%だが、ユーザーが複数のアベイラビリティゾーン(物理的に離れたデータセンター)にまたがってインスタンスを冗長構成していることが前提となっている。つまり、個々のインスタンスの稼働率に無条件に設定されるものではないのである。算出も年単位だ。
ニフティクラウドもAWSも、実際にはこのSLAに抵触するような事態は最近ではほとんど発生しておらず、事実上問題はないという考え方もあるだろうが、ここでは「分かりやすさ」という意味で、ニフティクラウドに軍配を上げておくこととしたい。
管理機能
ニフティクラウドもAWSもWeb画面による管理機能が提供されている。AWSでは「Amazon Management Console」、ニフティクラウドでは「コントロールパネル」と呼ばれる(表1の9)。大きな違いを幾つか指摘しておこう。
まず、ニフティクラウドのインタフェースは、完全に日本語化されている。AWSは英語のみだ。操作ミスの防止やユーザー教育のしやすさなどを勘案すると、日本語化されているメリットは大きいといえる。
次に、ニフティクラウドのインタフェースは、利用料金管理、サポート問い合わせ、コミュニティー(掲示板)などの機能が一元化されている。AWSは画面が個別に用意されており、都度、ログインしなければならない。ニフティクラウドはAWSよりも統一感があり、何よりも面倒が少ない。
最後に、ニフティクラウドのインタフェースは、オペレータの操作ログが保存される。オペレータも100人まで定義可能で(マルチアカウント機能)、ログも実行者ごとに取得できる。これはAWSには決定的に欠如している大きな機能だ。
ログ
ログの重要性は言うまでもないだろう。ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)や内部統制などさまざまな制度面から強い要請がある。例えば、前項の管理画面のユーザーは、ニフティクラウドであれAWSであれ、自分のシステム環境に関して強力な権限を有している。基幹系システムのサーバ類を数秒で消し去ることなど造作もない。そこまで過激ではなくとも、インスタンスのスペックを上げたり、開発環境と称して全く新しい環境を新規に構築したりなど、コスト面で大きな影響を与える操作が個人レベルで数分のうちにできてしまう。本格的なシステムを預かる場合は、操作のログは必須といえる。この点について、AWSはユーザー任せだが、ニフティクラウドは基本の仕組みとして対応していることになる。
また、前述した「有償のファイアウォール」もログの取得が可能だ(AWSはできない)。セキュリティポリシー上、「ファイアウォールのログ」を求めている企業は多い。システム管理者の機微を心得た強力な機能といえるだろう。
事務処理面
インスタンスやストレージなどは、月額固定の利用料金が設定されている。これに応じてWebから見積書を取得することが可能だ。また、支払いに当たっては請求書が発行される。必要なら銀行口座からの自動引き落としも可能だ。クレジットカードは必要なく、料金は(当然のことながら)円建てである(為替レート変動の心配がない)。なお、ニフティクラウドは個人では利用できず、「法人ID」の取得が必須である。
サポートと運用
ニフティクラウドの事例集を読むと、多数の方々が「ニフティクラウドを選んだ理由」としてサポートの良さを挙げている。例えば「日本の企業なので相談しやすい」「国内で長年やっている大手プロバイダーの安心感がある」「ユーザーの業務を理解しようとする姿勢がありがたい」などである。
有償ではあるが、人間系による運用サポートが得られる点も特徴的だ。インスタンスのコンソールの確認や、定型オペレーションなどを委託できる。AWSでは得難い魅力だといえるだろう。
ニフティクラウドには、「パートナー」と呼ばれるソリューション提供事業者(付加価値再販事業者に相当する)が100社以上存在しており、サポートや運用の一次対応はパートナーが行う場合も多いと思うが、最後の砦であるニフティ本体が上記のような体制を整えていることはユーザーにとって心強く感じられることだろう。
課題
最後に駆け足でニフティクラウドの課題を列挙しておこう。
データセンターの指定はできない
ニフティクラウドは複数のデータセンターから構成されており、可用性が高いといえるが、ユーザーは自分のインスタンスを立てる際にデータセンターを選ぶことができない(AWSでは、アベイラビリティゾーンを選ぶことができる)。大規模災害などを想定したDR構成を組む場合など、データセンターを意図的に分けてインスタンスを立てる必要が生じる場合もあるので、この点は機能追加を期待したい。
VPN環境と通常環境の共存が難しい
VPNによるプライベート環境だが、現時点では1つのアカウントで利用中の全てのインスタンスに適用されてしまう。一部を社内LANの延伸環境とし、残りを対外公開環境用としようとするなら、ファイアウォールで互いにアクセスできないルールを設定するか、もしくは最初から複数のアカウントに分けて運用する必要がある。この点では機能面の拡張があるとよいだろう。
AWSとの機能面での差はまだ大きい
AWSにあってニフティクラウドにはない機能はまだ多数ある。エンタープライズシステムにおいは全てが必要不可欠という状況ではないが、Amazon RDS(Relational Database Service)やCloudFormationなど、上手に使えば便利そうな機能も幾つかある。ニフティクラウドは、現在、1カ月~数カ月に1つのペースで新しい機能をリリースしているという。今後もシステム管理者の視点で便利なサービスが追加されていくことを希望する。
以上、ニフティクラウドについて概観した。読者各位のクラウド利用の選択肢が広がれば幸いである。なお、取材や資料調査には最大限の注意を払っているが、本稿の内容に事実と異なる点があれば筆者の責によるものであることをお断りしておく。
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