流動的な時代に適応できるネットワーク戦略流動的な時代に適応できるネットワーク戦略

クラウドの普及がネットワークの要件を変化させている。現代の企業活動の中枢神経を担うネットワークには、新たな戦略が必要だ。

2018年05月09日 08時00分 公開
[Sophia VargasComputer Weekly]

 企業は、サービスの差別化を実現するためにクラウドへの依存を強めている。結果として、新しいインフラプラットフォームの普及がエンタープライズネットワークの構成を変え、プロバイダーのソリューションや消費モデル、パフォーマンス駆動型アーキテクチャを変化させてきた。

 ネットワークサービスの選択肢が通信会社しかなかった時代は終わった。クラウド大手、コロケーションプロバイダー、ワイヤレスサービスといった新しい選択肢は、通信大手の拡張をもたらす(だが取って代わることはない)。

 通信サービスは既に固定料金や長期契約から離れつつあり、クラウドコンピューティングに似た、機敏な価格設定で素早く柔軟なモデルへ移行している。

つながるエンタープライズ

 接続性はビジネスの中枢神経であり、クラウドの普及によってネットワークの構成が変化した。集中的なクラウドの普及は、サービスの設計とデリバリーを変化させ続け、ネットワークインフラに対する負荷を一層高めている。

 企業のネットワークや通信に関する意思決定権者の約83%はプライベートクラウド戦略の一環として、ハードウェアとソフトウェアのアップグレードによってローカルなパフォーマンス課題に対応している。だが組織はまた、さまざまな外部リソースの統合によって生じる課題への対応も迫られる。

 帯域幅ニーズの増大に対応したハイブリッドクラウドの追求は、データセンターを越えたネットワークの限界を浮き彫りにした。分散性が高まるアプリケーション、サービス、データのポートフォリオ間の統合は、コンポーネント層とアグリゲーション層の両方で、新しい最適化戦略を必要とする。

 かつては個別の製品、サプライヤー、戦略が、データセンターや支社のネットワークインフラを支えてきた。だが異なるネットワークセグメントの上に、一貫性のあるソリューションを構築することはできない。

 これに対応するため、単一の仮想化されたビジネスワイドファブリックが台頭して、新しいデジタルビジネスネットワークを支えるようになった。

 顧客がクラウドプラットフォームをより活用して複数の地域へと進出する中で、ネットワークにおいてクラウド事業者が担う部分は増大する。そして、クラウド事業者が直接接続PoP(Points of Presence)を増やし続け、自分たちの施設間のプロプライエタリな接続を確立する中で、顧客がそうしたデータセンター内やデータセンター間でクラウドネットワークインフラを活用するための選択肢は増えている。

ネットワークの破壊者

 クラウドの普及は、エンタープライズネットワークにおける転送技術の多様性を拡大させた。SaaSの普及は支社のブロードバンド利用を加速させ、クラウドへの直接接続はプロプライエタリなデータセンターと支社の両方の広域ネットワーク(WAN)へと増大した。

 ソフトウェア定義WAN(SD-WAN)ソリューションは、この複雑性を抽象化するために浮上した。翻ってこれは、ソフトウェア定義オーバーレイを提供し、複数種類の接続を管理すると同時に、定義されたアプリケーションポリシーごとのリンク間トラフィックを自動化するために使われている。

 多くのキャリアはこの種のソリューションをOEMモデルを通じて販売している。そうしたプラットフォームの本質的な機能のおかげで、顧客はWANのコントロールを取り戻すことが可能になり、MPLS(Multi-Protocol Label Switching)や管理型ソリューションに対する依存度を減らすことができる。

 魅力的なデジタルエクスペリエンスを提供する信頼性の高いサービスを設計・提供することへの圧力が強まる中で、企業はネットワークの設計やサプライヤーへの依存状態を切り替えて、そうした需要に対応している。

 多くはクラウドの普及によってネットワークがシンプルになると予想していたが、クラウドは単に、ネットワークの前向きな(そして複雑な)進化を加速させたにすぎない。

クラウド対応ネットワーク

 クラウドはインフラの柔軟性に対する期待をリセットし、柔軟性の低いコンポーネントやサービスに対する負荷を増大させる。真のクラウドの恩恵を実現するために、ネットワークはリアルタイムのトラフィックパターンに反応し、需要の変化に対応して割り当てる容量を拡張できる必要がある。

 従来型の製品は柔軟性に欠けるが、多くはForresterが説く仮想ネットワークインフラの原則に積極的に従って、柔軟性を高め、管理のシンプル化を図り、きめ細かいコントロールと顧客向けのAPIを拡張している。

 接続サービスを提供しているのは通信会社だけではない。顧客はシステムインテグレーターやリセラーのようなサプライヤーなど、さまざまなプロバイダーを通じて接続を追求する姿勢を強めている。

 コロケーションや管理型インフラサービスのサプライヤーが自前の接続機能を組み合わせることもある。一部はさらに先を行き、そのときそのときで最善の接続を横断してルーティングを管理する統合型ソリューションを提供している。

 キャリアはまだそうしたサービスの多くを下支えしているが、顧客からは一層切り離され、一層簡単に代替製品に入れ替えられている。

 インフラ環境におけるスプロール現象の統合・低減に対するプレッシャーはあるが、マルチクラウドの採用は継続的に多くのプロバイダーや地域にインフラリソースを分散させている。リソースの分散化が進み、内部および外部コンポーネント間の多様なトラフィックが増大すれば、レガシートラフィックパターン用に設計されたハブ&スポークモデル(スタートポロジー)に負荷がかかる。

 結果として、ハブ&スポークモデルのWANは侵食され、ハイブリッドインフラ環境を支えるためにもっとリッチに相互接続されたメッシュファブリックWANに取って代わられつつある。

 新興ソリューションはキャリアサービスの再販からさらに先へ行き、多くは抽象化された統合型の、あるいはプロプライエタリな接続の代替を提供している。

 IaaSプロバイダー大手が拡大を続ける中、各社はデータセンター機能と自社施設間のネットワーク接続の両方に投資を行っている。

 IaaSプロバイダーは世界的に分散されたプラットフォームを提供することから、サイト間接続はそうしたサービスの鍵を握るコンポーネントであり、ネットワークレイヤーを保有して管理すれば完全なシステムの構築と最適化が可能になる。

 Content Delivery Networks(CDN)は、統合されたネットワーク上のルートとキャッシュを最適化する。コロケーションプロバイダーはキャリアサービスを組み合わせ、融合型のIP製品を提供している。

 クラウドサービスによってスピードとアジャイルに対する期待が膨らむ中で、多くの通信事業者は仮想ネットワークインフラ(VNI)への大規模投資に着手した。

 だが、VNI実装に必要な条件の範囲と内部リソースが限られているという認識に基づき、多くのプロバイダーはOpen Compute Project、OpenDaylight、OpenStackといったオープンソースコミュニティーとの連携に目を向けてきた。それは共同で革新をもたらし、業界をさらに先へと進め、ペースを加速させる仕組みとしての役割を果たしている。

 さらにAPIのおかげで、通信会社にとってはエンタープライズ顧客やエコシステムパートナーとのデジタルインテグレーションの新たなチャンスが開けている。

変化するネットワークの役割

 インフラチームと運用チームは、誰がサービスを保有して運用するかにかかわらず、常にサービス品質と可用性に関する責任を負う。

 社内のソフトウェアとインフラを横断して複数のクラウドサービスを導入する組織は、社内の能力の戦略的な入れ替えを行っているだけでなく、サービスデリバリーモデルに関わるプロバイダーの数も増やしている。

 サプライヤーの数が増えれば責任の分散性が強まり、導入の種類が複数になれば、複数の引き継ぎポイントが生じる。

 サービス品質保証契約にはパフォーマンス条件が規定されるが、ITプロフェッショナルはこうした異種混在のサプライチェーンをモニターして、そうした条件を満たす責任をサプライヤーに持たせなければならない。

本稿はForresterの報告書「Adapt your network strategy to thrive in a shifting ecosystem」に基づく。ソフィア・バーガス氏はForresterのアナリスト。

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