SD-WANだから実現した「世界中で均質なサービス展開」SD-WAN導入事例

複数カ国でサービスを展開する際に課題になるのは、レイテンシや地域ごとに異なるプロバイダーを使わざるを得ない複雑性だ。SD-WANによってこれらを解決した事例を紹介する。

2019年09月26日 08時00分 公開
[Alex ScroxtonComputer Weekly]

 ここ数年、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)がネットワーク担当者必携のツールとして定着している。それに伴い、ソフトウェア定義WAN(SD-WAN)にも関心が集まり始めている。SD-WANは、SDNを利用して企業のサイトとデータセンター間のトラフィックのルーティングに優先順位を付けて自動化する。

 新進気鋭のSD-WANサプライヤー、Aryaka NetworksがSD-WAN技術を使って行おうとしているのがその点だ。Aryakaの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるシャシ・キラン氏によると、SD-WANは企業のデジタル変革のさまざまな戦略に不可欠な要素として真価を発揮するようになっているという。

 こうしたことを念頭に置いて、オランダを拠点とする食品サービス企業HMSHost International(以下、HMSHost)の事例を紹介する。

グローバルな成長をサポートするSD-WAN

 イタリアの大手企業Autogrillの子会社HMSHostは、空港や駅などで飲食店を運営する世界有数の企業の一つだ。アムステルダム・スキポール空港、北京首都国際空港、コペンハーゲン・カストラップ空港、ドバイ国際空港、ロンドン・ヒースロー空港などの主要空港で店舗を運営している。また、世界各地のBurger KingやStarbucksの大規模フランチャイズ加盟店でもある。

 米国とカナダでも別途ビジネスを展開しており、ゼネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港、シカゴ・オヘア国際空港、ジョン・F・ケネディ国際空港、シアトル・タコマ国際空港、ワシントン・ダレス国際空港、トロント・ピアソン国際空港などの多くの空港でサービスを提供している。

 HMSHostは対前年比で20%近い成長を続け、オーストラリアなどの新しい市場でも事業を始めている。だが、同社はネットワーク管理に関する問題に直面していた。

 HMSHostでITおよび設備部門のバイスプレジデントを務めるデニス・フーグリーフ氏はこの問題について次のように語る。「当社は複雑に絡み合う問題に直面している。ヨーロッパではインターネット接続は比較的良好だが、一元化したデータセンターを運営していると、ヨーロッパ以外でレイテンシの問題が生じる」

 HMSHostの販売時点管理(POS)プラットフォームはドイツのフランクフルトにあるバックエンドデータセンターを利用している。

 同社にとってレイテンシは特に重要な問題だ。顧客にサービスを提供する速さは、顧客が同社を評価する重要な指標になる。トランジットで空港を利用する乗客のスケジュールは厳しく、長く待たせると乗客はイライラする。レストランのChip and PIN(ICカードと暗証番号による決済)システムが正しく接続されなかったり、動作に時間がかかったりすると、通常よりも深刻な問題になる。

 「飛行機が遅れると、100〜200人の乗客がカフェに殺到する可能性がある。そうなっても、効率良く、素早くサービスを提供できるようにしたい」(フーグリーフ氏)

その他の複雑さ

 HMSHostの世界的な広がりが、ネットワークの品質に問題を生み出している。この世界的な広がりは、別の複雑性をもたらす。例えば、同社は複数の接続プロバイダーと連携する必要がある。

 「当社は数社の接続プロバイダーを選び、大きな契約を結んでいた。だが企業には吸収や合併がある。全ての地域にサービスを提供することも不可能だ。グローバルに展開することで、利用するプロバイダーの多様性も広がる」とフーグリーフ氏は言う。

 「国ごとに異なるほどではないが、間違いなく複数のプロバイダーを利用していた。また、出店先の施設が利用する特定のインフラやプロバイダーに対応しなければならないことも多い」(フーグリーフ氏)

 「当社にとっては、Aryakaを利用することで3つのことにまとめて対応できるようになった。まず、当社はそれまでVPN(仮想プライベートネットワーク)とMPLS(Multi Protocol Label Switching)サービスを利用していた。これはレガシー技術で、メンテナンスに多くの労力を必要とした。そのため当社はマネージドSD-WANに移行することを望んでいた」

 「2つ目として、アジア地域と中国ではレイテンシと接続の問題が発生していたのでWANの最適化を望んでいた。3つ目として、各サイトへのラストマイルを含め、全ての接続の監視と、積極的な管理も希望していた」

戦略的サービスプロバイダー

 AryakaのマネージドSD-WANサービスは、この3つの要望を全て満たす上、HMSHostが最近導入した「Microsoft Azure」へのプライベート接続も提供する。HMSHostはAryakaのサービスに移行し、2019年前半に戦略的サービスプロバイダーとしてAryakaに協力を求めた。

 「HMSHostは、特定の場所で特定の時間に、旅行者のニーズに対応することを専門としている。そのため旅行者のエクスペリエンスを保証する立場でありたいと考えている。MPLSはHMSHostが管理するには複雑な構成で、同社の機敏性を妨げていた」とキラン氏は言う。

 「ネットワークの状態は国ごとに大きく異なる。そのため、国ごとの格差を埋め、大きなオーバーヘッドを生じさせることなく、どこでも旅行者に一貫したエクスペリエンスを提供することがHMSHostにとって重要だった。HMSHostがMPLSサービスを進化させるために当社のインフラを選んだ理由がこれだ」(キラン氏)

 HMSHostは現在、居住可能な六大陸(訳注)全てでレイヤー2をサポートするAryakaのグローバルなPoint of Presence(PoP:接続点)を30カ所以上利用し、クレジットカード支払いのトラフィックを優先トラフィックとしてルーティングすることで、現場で働く従業員のエクスペリエンスと旅行客に提供するサービスのレベルを向上させるようになっている。

訳注:原文は「all six habitable continents」。一般に地球の大陸はユーラシア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、南アメリカ大陸、北アメリカ大陸、南極大陸の6つ。南極大陸を「habitable」と言えるかどうか、AryakaやHMSHostが南極大陸でサービスを提供しているのかどうか、疑問は残るが確認できなかったため原文ママとした。

 HMSHostは、サービスを提供する地域を拡大し、新しい地域への接続を可能にするために追加の帯域幅をスピンアップできるようになった。同社は最近、地域プロバイダーの対処に煩わされることなく、英国チェスターの近くにあるアウトレットモールCheshire Oaks Designer Outletとオランダの30カ所の鉄道駅で事業を行う契約を結んだ。事業開始までの時間は数カ月ではなく数日だ。

 HMSHostは、Aryakaのマネージドサービスを利用してラストマイルの管理と低レイテンシの保証というメリットも得ている。

 同社は現在、将来の災害復旧にグローバルネットワークを活用する計画を立てている。「当社にはバックアップデータセンターがあり、必要な場合はそこを利用できる。だが、データセンターへの全ての接続をリダイレクトできるニーズは残っている。もちろん、現在当社は単一のグローバルプロバイダーを利用するようになっているため、管理は以前より簡単なはずだ」とフーグリーフ氏は言う。

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