IBMが目指すのはAIシステムの会話をより人間らしくすることだ。本稿では会話型UX設計という新しい分野と、そこに注ぎ込まれる専門技術について、2人の研究者が考察する。
AI(人工知能)システムが備える会話機能の進化を促すためにIBMが頼りにするのは技術者だけではない。「IBM Watson」を発明した同社は、社会学と芸術分野の背景を持つ2人の専門家にも助けを求めた。
ボブ・ムーア氏は社会学の博士号を持ち、Yahoo LabsとXeroxの研究部門で働いている。ラファエル・アラー氏は美術学修士号を持つ受賞歴のあるデザイナーで、アーティストでもあり研究者でもある。この2人は、ここ数年、会話分析とユーザーエクスペリエンス(UX)設計に関するそれぞれの知識をIBMで発揮している。より人間らしい会話システムの構築を支援するのが目的だ。
ムーア氏とアラー氏は、IBMのチームと共に新しい設計分野の最先端に立っている。それが会話型UX設計だ。会話分析、UX設計、AIを橋渡しするこの分野は、現状多数の会話型AIエージェントが持つ主な弱点を克服することを目指す。つまり少量の自然言語をつなぎ合わせることで、人間同士の話し方に近い会話を実現することを目標にしている。
本稿ではムーア氏とアラー氏が会話型UX設計について説明する。また両氏の研究、そして50年の歴史を持つ会話に関する社会学の文献が会話システムの進化にどのように貢献しているのかについても紹介する。両氏は、この分野に携わる者が使用できる、会話システムを設計するための一連の基準を作り上げることを目標としている。
――会話型UX設計という新しい分野はどのようなもので、その主な目標は何でしょう。
ボブ・ムーア氏(以下ムーア氏) 会話システムはかなり昔からあるが、現時点で重点的に取り組んでいるのは、Amazon.comの「Alexa」、Googleの「Googleアシスタント」、Appleの「Siri」、Microsoftの「Cortana」のように、プラットフォームとして有名になったシステムだ。こうしたシステムは一部のスタートアップ企業も提供している。会話テクノロジーには設計要素があり、完全な機械学習ベースでもなければ、完全な学習システムでもない。
テクノロジーの転換が起こり、ほとんどの人が学習ベースのシステムを利用する時期がくると考えている。そこでは必ずしも設計者は必要とされないだろう。むしろ教師やトレーナーの方が求められるようになる。将来的にはそうなると考えているが、現時点ではまだ先の話だ。前述のプラットフォームでは機械学習を利用してユーザーの言葉を認識する。だが、ほとんどの場合、答えとして返す言葉を考え出す設計者が必要になる。そのため、そこに設計の役割が求められる。ユーザーが話し掛けたことに対する返事の仕方と、ユーザーが喋った内容の分類方法を考え出すためだ。それにより、AIエージェントがさまざまな方法で返答できるようになる。現時点はまだこの段階にある。
これらの強力かつ新しいプラットフォームが大勢の人の手に渡っている。また、私たちには大小多数の協力企業があり、各種システムとUXを試している。この分野では新しい規律が登場しつつある。こうした状況にあっても、現在は実験段階にあり、優れた会話型UXの設計方法についての共通認識がそれほどない。まさにそうした問題に対処しようとしている。
ラファエル・アラー氏(以下アラー氏) そのようなことに加えて、これらの会話に対するアプローチと設計方法に適したプロセスや手法はどのようなものかを真剣に考えている。それが、私たちが実際に協力を始めたきっかけだ。というのもUX設計には、特にここ数年で、設計問題への対処方法にいくらか堅実なプロセスが取り入れられているためだ。
ムーア氏と私が取り組んでいることの1つに、一連のベストプラクティスとガイドラインを作り出すという取り組みがある。これらのシステム設計へのアプローチ方法や、秩序立った形でそれを行う方法を広めるのが目的だ。現時点では、実に多様な手法やリソースが存在している場合もあれば、そうしたものがほとんどない場合もある。そのギャップを埋めようとしている。
――そうしたギャップはどのように埋めるのでしょうか。
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