中小企業にとってもクラウドストレージが現実的な選択肢になってきた。まずは中小企業にとってのストレージ要件を整理しよう。
これまで、中小企業(SME)向けストレージは小型ストレージを指すことが多かった。だが今は、クラウドストレージが徐々に実現可能な選択肢となっている。特に、大企業に比べてIT部門のリソースが足りないSMEにはこうした選択肢が必要になる。
SMEがクラウドストレージに切り替えるにはどうすればよいだろう。クラウドを利用すれば、予算を運用経費に組み込み、ストレージハードウェアを購入/保守する資本支出を削減できる。SMEにとっての問題は、クラウドのメリットを最大限に生かす方法だ。
パブリッククラウドが適しているのは、バックアップのような二次的なデータの格納だ。ホームディレクトリや共有データ向けのファイルストレージもクラウドストレージの優れたユースケースになる。ただしセキュリティには配慮と計画が必要だ。
クラウドストレージに適合させるのが最も難しいのは、恐らく基幹的なアプリケーション(データベース、ERPなど)だ。
オンプレミスのハイパーコンバージドインフラも適している。これにより、SANストレージやそれに関連するスキルは必要なくなる。
ストレージインフラの近代化を希望するSMEには、クラウドストレージとオンプレミスストレージを組み合わせて、そこからメリットを得る方法はたくさんある。本稿は、こうした方法を幾つか取り上げる。
一般に、ストレージの要件は2つの領域に分かれている。
プライマリーストレージは、事業を運営するのに不可欠な運用ワークロードを表す。セカンダリーストレージは、運用データを除く全てを表す。つまり、現在使用していない全てを保持する。
もう一つ、区別すべきは構造化データと非構造化データだ。
構造化データは、データモデルの形式で保持されるデータを指す。ERP、トランザクション処理、Webサイトを支えるデータベースなどがその例だ。トランザクションシステムはデータのレイテンシの影響を受ける性質がある。そのため、一般的にはSANなどのブロックベースのストレージに導入される。
非構造化データは、データベースのようなモデル形式を取れないデータ全てを指す。オフィスの文書から画像やストリーミング動画まで、ほぼ全てのデータがこの部類に入る。ただしこの種のデータには、問い合わせを行えるようにメタデータヘッダが含まれている場合が多い。そのため実質的には半構造化データになる。
プライマリーであれセカンダリーであれ、非構造化データは一般にNAS/ファイルアクセスストレージか、オブジェクトストレージで保持される。
そのため、どのSMEもブロック、ファイル、オブジェクトの各プロトコルが必要になることが分かる。パブリッククラウドベンダーが、こうした要件に合わせて自社のストレージポートフォリオに各プロトコルを用意しているのは意外ではない。
パブリッククラウドの場合、ブロックストレージへのアクセスは一般にローカル仮想インスタンスに限定される。その理由は主に2つある。
仮想インスタンスには、ブートドライブ用とローカルデータドライブ用のブロックストレージが必要になる。これらのブロックストレージは、一般に仮想インスタンスを実行するハイパーバイザー内部の仮想環境に導入される。
もう一つの理由はパフォーマンスにある。ブロックベースのストレージやアプリケーションは、遅延の影響を受ける。特に個々の入出力の応答時間による影響が大きい。
これに対してオンプレミスの共有ストレージ(SANなど)は、ハイブリッドアレイからの応答時間が10ミリ秒未満になる。オールフラッシュシステムなら通常1ミリ秒未満だ。
SMEがブロックストレージとパブリッククラウドの利用を希望する場合、どのように実現すればよいだろう。一つの解決策はストレージゲートウェイの利用だ。ストレージゲートウェイはハードウェアとソフトウェアを備えたアプライアンスだ。これをオンプレミスデータセンターに配置し、iSCSIなどのプロトコルを使ってブロックストレージにローカルアクセスできるようにする。
データは定期的にパブリッククラウドにアーカイブされる。それは、ある種のデータ保護を提供したり、オンプレミスの処理能力をクラウドにバースト/拡張する機能を提供したりするためだ。こうしたソリューションには「Microsoft Azure StorSimple」や「AWS Storage Gateway」がある。
もう一つの解決策は、アプリケーションをパブリッククラウドに移動してそこでブロックベースのクラウドストレージを利用することだ。この方法は、一般にパブリッククラウドを利用するための大掛かりな戦略の一部にする必要があるだろう。
非構造化データの管理には2つの選択肢がある。パブリッククラウドのファイルベースのストレージを利用する方法と、オブジェクトストレージを利用する方法だ。
どちらも必要なプロトコル(ファイルの場合NFS/SMB、オブジェクトの場合HTTP)がWAN経由で機能するだろう。ただし、ファイルパフォーマンスは遅延の影響を受ける可能性がある。
ファイルストレージは、オンプレミスのNASアプライアンスでも同等の機能を提供する。クラウドベースのソリューションを利用すれば、データセンターにハードウェアを導入するときに生じる一般的なインフラ管理の問題が取り除かれる。クラウドプロバイダーのサービスの制限は課されるが、新しいファイルシステムを動的に作成/拡張できる。
ここ1年でクラウドベースのファイルサービスの成熟が進んでいる。NetAppなどのベンダーが既存の成熟したストレージ製品(NetAppの「ONTAP」など)をネイティブクラウドサービスとして提供し始めているためだ。
クラウドベースのファイルストレージはコストを削減でき、運用面のメリットもある。
「Nasuni PRIMARY」のようなプラットフォームは、顧客がどこから利用してもグローバルなファイルアクセスを提供する。高価なアレイベースのレプリケーションやバックアップを必要とせず、災害復旧を簡単に導入できる。
パフォーマンスや運用上の理由から、データが複数の場所にコピーされ、データが重複することがある。グローバルアクセスはこうしたデータの重複も少なくなる。データのインスタンスを一つにすると、誤って古いコンテンツを利用するリスクが大幅に少なくなる。
後編(Computer Weekly日本語版 1月23日号掲載予定)では、セキュリティやデータ保護、コスト効率について解説する。
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