既存のネットワークインフラを使って高速アクセスを実現するNVMe over TCP。高性能と低コストを両立させた優れた選択肢だが、今導入するならちょっとした覚悟が必要だ。
NVMeはフラッシュストレージに超高速アクセスをもたらす。NVMe over FabricはNVMeを拡張し、データセンターでの幅広い展開を可能にする。
そして2018年後半、新たなトランスポートが認可された。それが「NVMe over TCP」だ。これにより、標準IPネットワークでNVMeに接続できるようになる。ストレージのボトルネックに直面する多くのデータドリブンビジネスにとって、これは非常に魅力的だ。
NVMe over TCPを利用すれば、ネットワークアーキテクチャを根本から変えることなくスケーラブルなストレージをプロビジョニングできる。レイテンシも従来のDAS(直接接続型ストレージ)とほぼ変わらない。
RDMA/イーサネットやファイバーチャネルなど、NVMe over Fabricを使えば距離の離れたストレージやホストに接続することも可能だ。だがTCPを使えば、より安価で柔軟性の高い代替手段が実現する。
TCPの始まりは1970年代後半までさかのぼる。その堅実な設計原理により、50年近くを経てなお、その適応性が確保されている。根本的なレベルでは、TCPはネットワークでデータを送信するためのフォールトトレラントなプロトコルで、特に実質速度での正確さが重視されている。
パケットの損失や劣化が生じると、再送信を要求する。ネットワークの混雑によってパケットの到着順に乱れが生じると、TCPはそれを並べ直すことができる。
TCPは最新インターネットの基礎を成すものの一つだ。その慎重かつ保守的な特性により、正確性と信頼性が重視されるデータセンター環境に適合する。
NVMe over TCPは、主にデータを集中的に扱う企業ユーザーの多くがストレージに求めるニーズを満たす。NVMeストレージに本来備わる高速性は、堅牢なフラッシュストレージへの高速かつ低レイテンシのアクセスを実現する。その速度は従来のDASに匹敵する。
だが、NVMe over TCPが本当に優れている点は展開の容易さにある。初期コストを低く抑えることができ、NVMeネットワークの他の方式よりもセットアップの時間が短い。
NVMe over TCPを機能させるのに、拡張機能、ハードウェア、ソフトウェアを別途追加する必要はない。既存のインフラ(スイッチやネットワークカードなど)が必ずサポートしている普遍的なTCPプロトコルを使うので、初期投資はドライブとコントローラーに限定される。既存ネットワークのコンテキスト内に導入するための人手も時間も不要だ。
このシンプルさによって、NVMe over TCPをメンテナンスする担当者の人件費も最小限に抑えられる。特定のニッチなネットワークアプライアンスの経験を有するコンサルタントを雇用することも、システム管理に膨大な人材や時間を割く必要もない。
NVMe over TCPの最大の弱点は、ほぼ間違いなくその新規性にある。
NVMe over TCPに関するエコシステムはあまり存在しない。第三者にサポートを求めても限界がある。同様に、NVMe over TCPにはレガシーな技術にはあった豊富なドキュメント、ブログ投稿、チュートリアルが実質的に不足している。従って、NVMe over TCPを取り巻く最大のリスクは、(少なくとも今は)NVMe over TCPを選択することは事実上の早期導入者になるという点だ。
イスラエルのスタートアップ企業Lightbits Labsは、大手ストレージ企業からサポートを受け、NVMe over TCPに基づくアレイ型の製品を提供している。この製品は「LightBox」というハードウェアで同社の「LightOS」を使い、高度なストレージ管理機能(仮想プロビジョニング、圧縮、ストライピング、データ保護など)を実現する。
東芝はNVMe over Fabricsアレイソフトウェア「KumoScale」を提供している。同製品はRoCE(RDMA over Converged Ethernet)だけでなく、TCPにも対応している。
Mellanox Technologies、Kalray、Marvell Technology GroupなどのベンダーもNVMe over TCPをサポートするアダプター製品を用意している。
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