ベンダーロックインのリスクと引き換えに、それに見合ったメリットを提供するクラウドベンダーもある。ユーザー企業はクラウドサービスの利用を検討する際、何を重視すべきなのか。
「ベンダーロックインは悪いことだ」と単純に決め付けることはできない。ベンダーロックインにはメリットとデメリットがある。企業がクラウドサービスの利用を検討する場合、クラウドサービスに何を期待するかによって、ベンダーロックインを許容できる度合いは異なる。
コンサルティング会社OSTのソリューションアーキテクトを務めるジャレド・ディクソン氏によると、自社のアプリケーションと連携させるPaaS(Platform as a Service)やSaaS(Software as a Service)と、自社のアプリケーションをホストするIaaS(Infrastructure as a Service)は分けて考える必要がある。クラウドベンダー独自の技術を用いたPaaSやSaaSは、ベンダーロックインの可能性が高くなるが、そのリスクに見合う価値を提供する場合もある。これらを利用すべきか否かは、IT部門のクラウドサービスの導入経験や、各PaaSやSaaSの仕組みについての理解度が左右する。
例えば機密情報管理ツールを選ぶとき、ユーザー企業はオープンソースソフトウェア(OSS)よりクラウドベンダーのSaaSを選ぶ傾向にあると、ディクソン氏は説明する。SaaSを利用すれば、OSSと違って保守やパッチの適用などを自社で実行する必要がなく、時間とコストを節約できるからだ。「専門外の従業員が機密情報を管理するよりも、プロに任せる方がいい」と同氏は言う。何らかのシステムを自社で運用すべきかどうかを判断する場合、自社運用の方が企業の価値を高めることが明らかな場合に限った方がよい。
ディクソン氏によると、他社サービスへの移行が難しいクラウドサービスもあるという。例えばアプリケーション間通信に使用するイベントの送受信ツールやメッセージングツールは、別のツールに移行するとメッセージのサイズ上限が変わり、メッセージを送受信できないといった問題が発生する可能性がある。そのような状況では「RabbitMQ」などのOSSのメッセージングツールを利用する方が簡単だと、ディクソン氏は説明する。
クラウドサービスに関するトレーニングを手掛けるA Cloud Guruで、クラウドトランスフォーメーション担当シニアバイスプレジデントを務めるドリュー・ファーメント氏は、まず機能の追加や規模の拡大縮小が迅速にできるインフラを1つ選択し、次にできるだけインフラの抽象化を進めるべきだと主張する。
ユーザー企業はクラウドベンダーと緊密な関係を築くと、有利な割引プログラムや提供サービスのβ版などを利用できる場合がある。「かつての一部オンプレミスベンダーと違い、クラウドベンダーは積極的に顧客との連携を深めようとしている」とファーメント氏は語る。
バルトレッティ氏によると、単一クラウドベンダーに依存することの是非は検討に値するが、クラウドサービスを利用しない決定的な理由にはならない。企業が何事にもスピードを重視する中「スピードを犠牲にしてまで単一クラウドベンダーへの依存を避けるべきなのだろうか」と同氏は指摘する。
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